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これはウィラ様のためなのですよ?

 公爵家の馬車は、皇家の馬車よりもシックな印象だった。


「あのー……

 壁の穴から変な絵がでてきた件は、言わなくてよかったんですか?」


 エドアルド様、神殿の偉い人の聞き取りの時に、ノルド枢機卿の話ばかりで、龍のレリーフや中身の話は全然しなかったので、大丈夫なのかなって気になっていたのだ。


「あああああああ!?

 そ、そういえば、話すのを完全に忘れてた!!

 全然聞かれなかったし……」


 エドアルド様、色々ありすぎて素で忘れてたっぽい。

 ヨハンナが最初に変な風に言っちゃったから、あの流れで押し通すしかなくなってたし。


「あの穴、枢機卿以外は、ちゃんと見ていないのです。

 学院長や警護の皆さんがいらしてからは、わたくしが背中で隠しておりましたし。

 ちなみに、あの壁、わたくし達が退室する時には元通りになっておりましたのです。

 ミナの魔力に反応して、一時的に開かれたものではないでしょうか。

 どういう仕組みかはわかりかねますが」


 ヨハンナはすました顔で言い、膝の上に抱えたバッグをむぎゅっとした。


 めっちゃ嫌な予感がする。


「……ヨハンナ、まさかと思うけど、あの絵と手稿、持ってきちゃってる!?」


「読むと言ったら読む!

 女子に二言はないのです!!!」


 きぱああああっとヨハンナが胸を張る。


「ちょおおおおおおおおお……!

 あの部屋に残してくれば、見なかったことに出来たのに!!

 あの絵、どう考えたってヤバすぎじゃないか!!!」


 エドアルド様は頭を抱えた。

 え?そんなに大変な絵なの??ってなる私をよそに、ヨハンナはめっちゃ悪い顔になった。


「エドアルド様、これはウィラ様のためなのですよ?」


 ウィラ様と聞いて、「は?」とエドアルド様が顔を上げる。


「もしかしたら、手稿の方にも皇家に対するカードとなるような情報が書かれているかもしれないではないですか。

 次期辺境伯たるもの、手札はなるべくたくさん握って婿入りされるのがよろしいのでは?」


 ふんす!とヨハンナは鼻息荒く主張する。


 辺境伯家は、公爵家と同じく、かつては小さな国だったけれど、帝国に帰順した家だ。

 帝都から遠いこともあって独立性が高く、その分「外様」扱いされているところもある。


「それは……そうだが……」


 ウィラ様を盾に取られたエドアルド様は、ぐぬぅううと唸る。


「いずれにしても、なにが書かれているかわからなければ、話にならんのです。

 ミナ、『ライト』をつけてくれるですか?」


 馬車の中にも灯はあるけど、薄暗い。

 私に「ライト」をつけさせると、まだあうあう言っているエドアルド様を放置して、ヨハンナは一心不乱に手稿の解読をはじめた。


 ん?とエドアルド様が、なにか思い当たった様子で固まる。

 固まったまま、ぐぎぎと妙な動きでこっちに顔だけ向けた。


「レディ・ウィルヘルミナ。

 君、遺跡で龍を見たって枢機卿に言ったよね?」


「そです……

 やっぱり、あれは言っちゃだめだったですよね。

 腕、めちゃくちゃ痛くて、耳元で怒鳴られてるうちに、なんにも考えられなくなっちゃって……」


「いやいやいや、いきなりあんなわけのわからない目に遭ったら仕方ないよ。

 てことは、今頃、枢機卿は遺跡に向かってる……てことかな……?」


「ほへ? なんでです?」


「枢機卿は、どこで龍に会ったとか、契約がどうとか、君に聞いていただろう?

 それで、遺跡で龍を見たって言われたんだ。

 自分も遺跡に行って、龍と契約しようとするんじゃないか?

 あの絵を見る限り、エルスタルは龍と契約して強大な魔力を得たとしか思えないし」


「え、でも枢機卿、絵は見てないですよね?」


 ヨハンナがびゃっと隠してたし。


「絵は見てない。

 でも、ああいうことを聞いてきたってことは、皇家の言い伝えかなんかで、以前から、龍がエルスタルに力を渡したことを知っていたんじゃないか?」


「あー……」


 そっか、そういうことになるのか。


「『刻印』がどうとか、『光の乙女』がどうとか口走っておりましたですね……

 魔力を授ける龍がいて、それに至る道の手がかりすなわち『刻印』がどこかに隠されている、その道標みちしるべとなるのが『光の乙女』であるくらいの話がどこかにあったのではないですか?

 ベタすぎるセンスからして、神殿の幻視話くさいですが。

 この手稿をあそこに隠した者が、口伝でヒントを遺したのかもしれません。

 というかミナ、龍を見たというのはどういう話なのです?」


 ヨハンナが手稿から目も上げずに言う。


 そういえばヨハンナにちゃんと話してなかったかも。


 手短に、アラクネ戦が終わった後、遺跡のドームの天井に、互いにしっぽを噛んだ白と黒の龍がぐるぐるしてたのを見たんだけど、他の人は見ていないし、魔力切れの幻覚だと思ってたと説明した。

 遺跡の「礼拝の間」には、同じように輪になった龍のレリーフがあるらしいとも付け加える。


「ほむー……」


 ヨハンナは、なにがなにやら?と首を傾げた。


「どっちにしても遺跡の管理者に警告しないと。

 僕らに『氷の獄』を打とうとしたくらいだし、警戒しないとマズい。

 万一、ほんとに枢機卿がエルスタル級の魔力を得たら、自分を追い出した皇家への恨み、大神官に選ばない神殿への恨みで帝都を焼くぐらいのことはやりかねないぞ」


 遺跡の魔獣が活発化したので、騎士も何人か遺跡の入り口に置くようにしたとアルベルト様が言っていた。

 立ち入り許可を得てない人が来たら、当然止めるはずだ。

 エドアルド様がおっしゃるように、あの枢機卿なら邪魔をするなと平気で攻撃魔法を打ちかねない。


「じゃあ、すぐにその……所長さんに『手紙鳥』を出します!」


 鞄から、魔法陣を書き溜めて常備しているアルベルト様宛の「手紙鳥」用の紙を出す。


 文字を書けるスペースは限られているので、エドアルド様と相談しながら、龍のレリーフの話、エルスタルの絵、枢機卿とのトラブル、遺跡が襲撃されるかもしれないことをまとめる。

 魔法陣に帝都から見た学院の座標を書き入れて、ついでに「エドアルド様とヨハンナになんかバレました!」と添えて、アルベルト様宛の「手紙鳥」を放った。


 数分後、「りょ!! 詳細は戻り次第報告よろ!!」とだけ書いた返信が来る。


「これで3人だけの話にできなくなってしまったな……

 こうなったからには、絵と手稿の件は、父上に洗いざらいぶちまけて相談する。

 それでいいね?」


 エドアルド様は悩みに悩んだあげく、私たちに念を押した。


 ヨハンナは「コレを読めるのであれば、なんでもよいのです」と、そっけなく言って解読作業に戻る。

 大変なものを抱え込まされてしまったエドアルド様は半泣きで私の方を見たけど、首をすくめてみせるしかなかった。


いいね&評価&ブクマありがとうございますありがとうございます。

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☆★異世界恋愛ミステリ「公爵令嬢カタリナ」シリーズ★☆

※この作品の数百年後の世界を舞台にしています
― 新着の感想 ―
[気になる点] ミナ…大昔の英雄て始祖な感じの人が農奴くさいって、どんだけヤバい絵なのか理解出来てないのは、やはりまだまだ貴族の機微が解ってない…ちょっと前の話の枢機卿と令嬢達によるバチバチの会話もよ…
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