で、レディ・ウィルヘルミナがそんなに真っ赤になるような関係ということか
大神殿の脇には、礼拝に来た信徒向けの食堂がある。
といっても、神殿なので肉や魚はない。
豆と野菜が入ったスープと、雑穀入りのパンを食べた。
ちょっと実家が懐かしくなる味だった。
村にいた頃は、肉や魚はごちそうだったもんね……
というわけで、書庫だ。
書庫は敷地のわりとすみっこにあって、渡り廊下で複雑怪奇につながった建物の間をうろうろ迷いながらたどり着いた。
エレンがやたら迷子になったって言ってたけど、これは確かに難しい。
書庫は、2階建ての石造りの建物だった。
目立つ装飾はなく、1階も2階も他の建物と渡り廊下でつながっている。
受付に、「アルヴィン皇弟殿下」の紹介状を渡し、身分証明書をそれぞれ提示して入館者リストに署名した。
古書や手稿に素手で触るのはNGとのことで、白手袋を渡された。
直射日光に晒さないようにという注意も受ける。
1階は最近の本で、2階に古書と手稿などの資料があるということで、2階へ向かう。
1階は、大きな本棚に辞書や祈祷書、宗教に関する本が普通の図書館のように分類されてたけど、2階は違った。
2階はぐるっと回廊で囲まれていて、書庫となっているエリアは、教室4つ分くらい。
2階のもう半分は、事務室かなにかになっているようで、案外狭かった。
1階には本を読んでる人がちょいちょいいたけど、こっちには誰もいない。
低めの天井まで、壁に本棚が造り付けられていて、可動式のハシゴがあちこちにかけてある。
直射日光を避けるためか、窓は高いところに小さなものがいくつかあるだけで、天井が低いこともあって、圧迫感がちょっとある。
真ん中には、閲覧用の机や、写本を造るための斜めに傾いた作業台が置いてあった。
棚に寄って背表紙を見てみると、なんだかジャンルごたまぜで置かれているようだ。
書名順、著者名順というわけでもなさそう。
引き出しに、人の名前を書いたラベルを貼ったチェストのような保管庫がいくつも置いてあって、開けてみると、製本されていない手稿が入っていた。
「もしかして、ここの本って、ぐっちゃぐちゃに並んでる??」
「図書の分類法が普及したのは、ここ数十年のことですからね……
ままま、これはこれで貴重な姿なのです」
私は途方に暮れたけど、ヨハンナは俄然やる気だ。
「うえええ……
これが既に入手しているアルケディア関連の本のリストで、載ってるの以外でアルケディアについて書かれた面白そうな本を探してほしいってことなんですけど……」
アルベルト様にもらった書名を並べたリストを机の上に広げて2人に見せる。
リストを一瞥すると、りょーかいです!とヨハンナはさっそく本を漁り始めた。
手袋を嵌めると本棚の前に仁王立ちになり、背表紙をがーっと読んで、気になるタイトルの本があれば引き抜いて目次を確認、中身もぱらぱらして関係なければ戻す。
どの動作も超高速で無駄がない。
エドアルド様は不思議そうにリストを眺めている。
「聞いたこともない本も結構あるな。
このリストの本は、魔導研究所にあるってこと?」
「……たぶん?」
アルベルト様の研究室にある本の多くは、母方のお祖父様である先代バルフォア公爵が送ってくださったものだと聞いている。
いわばアルベルト様の私物で、研究所の蔵書ではないので、あるって言っていいかどうかよくわからない。
なので、答えは曖昧になってしまった。
エドアルド様は本棚に向かいつつも、ちらっとこちらを窺うように見た。
「……レディ・ウィルヘルミナの魔法の先生、確か20歳くらいだったよね?
アルベルトさんだっけ。
冬に消えたって聞いたけど、復活したの?」
「あああああ、はい!」
しまった、アルベルト様のことは人に言っちゃいけないって言われる前に、エドアルド様に相談したことがあった!!
ちょう焦りつつ、私もおろっと本を探す。
ふーん?と首を傾げてみせながら、エドアルド様はめちゃくちゃこっちを見てくる。
「その人が直接来た方が早いのに、なんで君がお使いなのかな?」
「さ、さあ……
なんかやらかして、出禁にでもなったんですかね?」
よく考えたら、何日もかかるところならとにかく、半日で来れるのに、本の探し方もわかっていない学院の生徒をお使いに立てるのはヘンだ。
自分で行けない事情があるのなら、研究者仲間に頼んだ方が、絶対良い資料が手に入る。
さらに、そんなヘンなことをさせるために、皇弟殿下である魔導研究所の所長が紹介状を書くというのもめちゃくちゃおかしい。
やばい、なんかバレそう!
顔が赤くなって、めっちゃ眼が泳いでしまう。
「『ここに来れない人』なのか、アルベルトさん。
で、レディ・ウィルヘルミナがそんなに真っ赤になるような関係ということか。
ふむふむ」
なにをどう納得したのか、エドアルド様は頷いた。
ていうか、変に意識しなければよかったの!?
そういうこと!?
「ほ、ほんっとたまたま、大神殿に来ることになったから頼まれただけで!!」
「ふーん、そうなんだああ」
ぶんぶんと手を振るけど、エドアルド様は明らかに面白がっている。
「んん?
どういう流れなのですかこれ?」
早くも何冊か候補を選んで来たヨハンナが首を傾げる。
私の顔をんじーと見て、エドアルド様の顔をんじーと見て、あーはいはいとなにか腑に落ちたように頷いた。
ヨハンナにもなんかバレた!!
「ま、色々諸々大変かもではありますが……
ギネヴィア殿下が応援されてますですから」
「それなら安心だね!
殿下は武闘派だし、外野から物言いが入っても、どうにでもしてくださるだろう。
そうか、そういうことだったんだな……色々と納得だ」
よかったよかったと頷きあう2人。
なにをどう納得したのか怖くて聞けなさすぎる。
「え、えっと、ギネヴィア様が武闘派って、どういうことですか?」
話題を変えようと、エドアルド様に無理くり訊ねてみる。
「武闘派っていう言い方はちょっと違うか。
喧嘩しなきゃいけない時は、ためらわずに全力で行く方……と言う表現が近いかな」
「ギネヴィア様が、喧嘩??」
「たとえばさっきのノルド枢機卿との会話だけど……
神官になるなら俗世は捨てる、一族の縁も切るってことになってる。
でも、実際には親族として会話するくらいなら別に構わないんだよ。
だけど、殿下はノルド枢機卿のことは『大叔父様』とは言わずに、『猊下』と呼び、グリゼルダ様のことは『グリゼルダおばあ様』とはっきりおっしゃった。
『グリゼルダ様は皇家の長老として敬うけど、お前は他人だ』って、言っているようなものだよね」
それが喧嘩、なのか。
皇家ヨクワカラナイと思ってしまったけれど、ヨハンナはなるほどなるほどと頷いている。
「で、枢機卿は巧く『大叔父』として、殿下をたしなめることができなかった。
僕ら上位貴族の子の前で、殿下に押し負けたかたちになったわけだ。
今日はみんな帝都の屋敷に帰るから、この話、一気に広まるかもしれないね」
「ほへー……
アントーニア様とエレンとの仲良しアピールだけじゃなかったんですね」
そうそう、とエドアルド様は頷いた。
「それにしても、いつの間にギネヴィア殿下はレディ・アントーニアと仲良くなったのかな」
「いや、仲良くなられたというわけでは……
お二人とも、家の都合で無理を強いられがちなお立場ですから、手を組めるときは組もうという感じかと」
ピクニックの後の、聖女候補&候補の候補+カール様の神殿対策緊急会談に出てたヨハンナが説明した。
「なるほど。
しかし、あのお二方が共闘アリとなると、将来の帝都の社交界が怖すぎるな。
さっさと結婚して、辺境伯領に引っ込まないと!」
「え、それは早くウィラ様と結婚したいだけでは?」
一応ツッコミは入れたけど、エドアルド様は結婚したらあれもしたいこれもしたいと、なんか勝手に萌え転がり始めた。
間近にいたエレン「ギネヴィア様は『クソ野郎が枢機卿とか笑かすwww』いう感じで煽りまくっとる顔しとるし、アントーニア様は『お前がヘルマン様に悪いことしたんか?殺すぞ?』いう顔でばっきばきに枢機卿睨んどるし、寿命が縮むか思いました……」
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