6.売店の駄菓子では『真実の愛』に近づけないのです
翌日のランチはゲルトルート様に個室を予約していただいた。
ギネヴィア様とエミーリア様は先約があるとかで、ゲルトルート様、ウィラ様、ヨハンナ、私になった。
ヨハンナと私にも個室用のランチを出していただく。
人参を干しぶどうと和えたサラダ?とじゃがいもにクリームをかけてオーブンで焼いたもの、田舎風パテを盛り合わせたのが1皿目、2皿目は肉を選んだら、鴨の骨付きもも肉を低温の脂でほろほろになるまで煮たものでめちゃめちゃ美味しかった。
学費にコミになってる1皿に肉や魚と野菜を盛り込んだ普通のランチでも、田舎育ちの私にはご馳走なんだけど。
「ミハイル殿は2階の高さからいきなり落ちてきたミナを受け止めたのか。
ふむ……
私もミナくらいなら受け止められると思うんだが、わざと落ちてもらうわけにもいかないしな」
食べながら、ミハイル様に差し入れをすることになった話をウィラ様にしたら、なんだかミハイル様と張り合う方向に思考が向いているようだ。
ゲルトルート様がおっしゃった通り、対抗意識があるみたい。
「というわけで、印象的な出会いには成功しましたので、次のステップとしては差し入れなのです」
「なるほどな。
参考に、普段私が鍛錬の合間に食べているものでも見てみるか?」
ぜひぜひ!と言うと、ウィラ様は食堂に用意してもらってたおやつ用のランチボックスを見せてくれた。
……なんか全体に白い。
鳥の胸肉を茹でたか蒸したかしてスライスしたものがどーん。
はしっこに、ゆで卵のスライス、茹でたブロッコリーが添えてある。
胸肉はたっぷり1枚分はありそうだ。
黄色っぽいソースが別についてるけど、すごく、もさもさしそう……
「……とても典型的な『筋肉は裏切らない』教徒の聖餐なのです」
「これ、……美味しいの?」
ヨハンナとゲルトルート様も微妙な顔をする。
「うーん、必要だから食べているだけだからなぁ……」
美味しいとかそういう問題ではないみたい。
「たぶんミハイル殿達もこういうものは用意しているだろうから、もう少しおやつっぽい、女の子らしいものを考えたらいいんじゃないかな」
「あー、ウラジミール様が、売店の駄菓子で全然いいよって言ってくれました」
「ハードルを下げてくださるご配慮はさすが紳士ですが、売店の駄菓子では『真実の愛』に近づけないのです。
ここは女子力!全開の!ブツが望ましく!」
ですよね、と一同頷く。
「ランチは本館の食堂で作っているから、午後早くなら寮のキッチンを借りられるのよね。
それでなにか……お菓子でも作るという感じかしら」
そんなことできるんだ、と、きょとんとしてたら、貴族の女性は家事はしないけれど、たまにお菓子作りが趣味の人がいるから使わせてもらえるようになっているのだとゲルトルート様が説明してくれた。
「あ。ちょっと待った。
いきなり手作りの菓子を差し入れされても、ミハイルは食べないかもしれないよ」
「え!? どうしてですか?」
ウィラ様の言葉にびっくりする。
確かにセルゲイ様やウラジミール様は差し入れ大歓迎!だったけど、ミハイル様はそうでもなかったのを思い出した。
「たまにな、憧れをこじらせて、我流のまじないをかけたものを差し入れしたりする子がいるんだ。
先輩が貰った手製の菓子の中に、わざととしか思えない量の髪の毛や爪が入っていたこともあった」
「ひょああああ…」
引いた。めっちゃ引いた。
「髪や爪ならまだわかりやすいが、正体不明の惚れ薬なんか仕込まれたら困るだろう?
特に、有力な貴族の跡取りや、重要人物の婚約者なら暗殺の危険もある。
ミハイル殿も、そのへんは警戒してるんじゃないかな……」
そんなこともあるんだってびっくりした。
貴族社会コワイ。
ふと、ウィラ様がゲルトルート様を少しからかうように見た。
「さすがに婚約者のゲルトルートが差し入れするなら、ミハイル殿も食べるだろうがね」
ちょっと変な感じだった。
本当はゲルトルート様が差し入れすればいいのにって、ウィラ様は思っている…のかな?
ゲルトルート様は、曖昧な笑みを浮かべて流す。
「困りました。
セルゲイ様やウラジミール様をせっせと餌付けしても、ミハイル様の『真実の愛』覚醒にはさして近づかない予感しかないのです」
「『真実の愛』はとにかく、普通にお礼したかったんですけど、難しいんですね……」
そうね、とゲルトルート様が考え込む。
「あ、ゲルトルート様の差し入れなら、ミハイル様も食べてくれるんですよね?
だったら、ゲルトルート様と一緒に作ったものを持っていって、一言口添えしてもらうというのは……変ですか?」
思いつきを言ってみた。
「それはどうなのかしら」
ゲルトルート様は気が進まないようだ。
「ゲルトルート様とミナがつながってるのがモロバレなのは、いかがなものかなのです」
ヨハンナも首を傾げる。
逆にウィラ様は身を乗り出した。
「いやいや。
案外いいかもしれないぞ。
ミハイル殿が『真実の愛』に目覚めて婚約解消を考えるとしたら、ゲルトルートの反応が一番怖いと思うんだ。
それこそ小説の悪役令嬢みたいに嫉妬でとんでもないことをしたり、アントノフ家を恨んだりしないかとね」
「わたくしがそんなことするわけないじゃないの」
ゲルトルート様は一笑に付した。
当たり前だとウィラ様も笑う。
「これはミハイル殿がどう考えるかという話だからね。
ゲルトルートがミナを妹分として紹介したら、ミナとミハイル殿が惹かれ合ってしまった。
ミナを可愛がっているゲルトルートは、やむを得ず2人の幸せを思って身を引く、という流れになれば、ジンメル家とアントノフ家もそこまで揉めないんじゃないか?」
あー…と3人で嘆声を上げた。
「そうね、そういう事情であれば、わたくしもお父様お母様を説得しやすいかもしれないわ。
『知らない令嬢にいつの間にか婚約者を盗られました』なんて言えやしないもの」
だろ?とウィラ様がドヤ顔をして笑う。
ゲルトルート様もにっこにこだ。
お二人の後ろに満開の花が咲き乱れ、謎のキラキラがキラキラしているような麗しい光景だった。
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