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むむ?  魔導研究所と似たようなシルエットが

 とりあえず、あっちこっちに飾ってある魔石をはめ込んだ聖具の数々や彫刻、絵画、代々の大神官の肖像などを見て回り、展望台へ向かう。

 展望台へ上がる階段は、入り口の左手にあった。

 人がすれ違えるのがやっとってくらいの、そんなに大きくない螺旋階段をひたすら上っていく。

 降りてくる人がいないなと思ったら、降りる人は右手にある別の階段を使うそうだ。


 ヨハンナは体力がないから、へたばったら私がおんぶするしか?と思ってたけど、全然平気だった。

 階段の壁に、ヨハンナの一番の好物である英雄叙事詩をモチーフにしたレリーフが延々続いているのだ。

 日頃、塔の階段で鍛えてる私がちょっとしんどくなってきても、ヨハンナは絶好調!

 物凄い勢いで萌えポイントを語りまくる。

 レポートは、当然このレリーフについて書くそうだ。


 エドアルド様は、魔石をはめ込んだ聖具と、学院に展示されてる御物ぎょぶつを比較するつもりだとか。


 私はどうしようかな……

 こんなに彫刻や絵画がてんこもりにあるのだから、美術史に絡めるのが書きやすそうではあるのだけど、美術の教養はさっぱりだ。

 ちゃんとした絵とか彫刻なんて、一昨年、領都に出たときに初めて見たんだもの。


 そういえばアルベルト様に、建物もよく見ておくようにと言われたのだった。

 持ってきた資料で確認すると、この大聖堂の着工は帝国暦24年、竣工は107年とのことで、エスペランザ王国もアルケディアも、あんまり関係ないっぽかった。

 でも、これから行く書庫は、エスペランザ王国時代の遺構を利用したものだそうで、期待だ。


 ヨハンナが好きな場面のところにへばりつくのをひっぺがし、どうにか最上階にたどり着いた。


 薄暗い廊下を円蓋の下まで進み、少し階段を上がって扉をくぐると円蓋の内側に出る。

 さっき見上げていたホールが下に見えるんだけど、ひょああってなるくらい遠くに見える。

 下にいたときは気が付かなかったけど、床はモザイクになっていた。

 絨毯やベンチがあるからよくわからないけれど、床全体で見ると、大きな丸の真ん中に小さい丸、真ん中の丸を囲んで、4つ丸が描かれてるみたいだ。

 ヨハンナが、大きな丸に5つの丸が囲まれているのは、古い聖堂にたまにある文様で、真ん中の丸が女神フローラ、まわりの4つの丸が四季、全体を囲む丸が世界を表すと言われていると教えてくれた。


 ほへーと見下ろしつつ、内側をぐるっと回り込んで、展望台に出る。


「わー!すっごい!!!」


 思わず大声を上げてしまった。

 ほんと、帝都がまるごと見える!!!


 帝都は、地上型では最大の魔獣・魔象ラシャガーズの攻撃にも耐える分厚い城壁で囲まれた「旧市街」と呼ばれる区域と、その外に広がる「新市街」に分けられる。


 大神殿は旧市街の一番北になる。

 一番南には、皇宮。

 めちゃくちゃ広い敷地の一番北、巨大な広場に面して舞踏会やいろんな儀式を行う大宮殿がまずある。

 新年の祝いの時なんかは、大宮殿前の広場が開放されて、大きなバルコニーから皇帝陛下以下皇族方が挨拶したりする。


 大宮殿を取り巻くように、執務や催しが行われる宮殿が色々。

 さらにその奥に、皇族や皇妃がお住いになる小宮殿が、木々の緑に埋もれるように点在している。


 皇宮前の広場から、まっすぐ大通りが伸び、それに沿って裁判所とか官公庁、帝国図書館とか美術館が並ぶ。


 大通りは、魔獣を倒す騎士や魔道士の巨大な群像が飾られた凱旋広場につながり、そこから5方に大通りが伸びて、それぞれ城壁の門につながっている。

 凱旋広場のあたりが、銀行や大手の商会の本店、貴族向けの老舗や高級ホテルが立ち並ぶ中心街。

 そして、中心街を囲むように、貴族や富豪の邸宅やタウンハウスが城壁の中いっぱいに広がる。


「あ、僕の家だ!」


 エドアルド様が、旧市街の南東、皇宮のそばにある、ひときわ大きな邸宅を指した。

 4階建ての赤い屋根の大きな建物が連なり、広い庭は森のよう。

 さすが公爵家!めっちゃでかい!


 領主様のタウンハウスは、旧市街の結構北側にあるんだけど……ううむ、あのへんってのはわかるけど、どの屋根なのかわからない。


「ヨハンナのおうちはどこ?」


「ここからでは城壁が邪魔で見えないのです。

 商会も大通りから入ったところなので、見えないのですよね……」


 ヨハンナのおうちは新市街になる。

 計画的に作られた旧市街と違い、帝国が栄えるにつれて自然に城壁の外に広がった新市街は、建物の高さとか道路のつながり方とか結構カオスでごみごみしている。

 旧市街には石造りの建物しかないけど、新市街は木造も多い。

 でも、広さは旧市街の5倍以上。

 店や市場もたくさんあって、めっちゃ活気がある。


 こうして見下ろしてみると、新市街といっても、いくつかエリアに分かれている。

 城壁に近い方、たとえばヨハンナのおうちのあたりは富裕な平民や新興貴族の家が多くて、旧市街にもたくさんある石造りのタウンハウスが並ぶ。

 見た目は旧市街とそこまで変わらない。

 そこから遠ざかっていくにつれ、4階建てが3階建てになり、木造の建物が増えて下町っぽいエリアになる。


 その向こうを流れるランデ河には船着き場と運送業者の倉庫が立ち並ぶ。

 倉庫街の向こうは長屋がびっしり。

 船着き場や荷運びで働く人達が住んでいるのかな?


 そのさらに奥、少しかすんで見えるあたりになると、小屋が密集している。

 地方からあてもなく流れこんだ人達が居着いて膨れ上がってしまったエリアで、道路も整備されてないし、水道もないので水を手に入れるのも大変、治安もかなり悪いと聞いたことがある。

 初めて帝都に来た時、ランデ河の近くまで行ってはいけない、特に橋を渡るのは絶対ダメだと奥様に繰り返し言われたのはこういうことだったのかってなる。


 今の帝都の人口は約100万人。

 もし大規模な魔獣襲来が発生したら帝都の住民が避難できるように、帝国ができてすぐ、旧市街を囲う城壁を何十年もかけて造ったのだと授業で習ったけれど、本当に発生したらどうなるんだろう。

 新市街地でも、ヨハンナのおうちあたりからなら旧市街に逃げ込めるかもしれないけれど、少なくともランデ河の向こうから避難するのは……無理だ。


「あ!あれは学院じゃないか?

 あの塔は魔導研究所だろう?」


 エドアルド様が北西の方角を指差して叫ぶ。

 どれどれと見ると、肉眼でもぎりっぎり、魔導研究所と学院の本館らしいシルエットが見えた。

 すごい!! こんな遠くから見えるんだ。


「むむ? 魔導研究所と似たようなシルエットがあちらにもあるのです」


 ヨハンナが、今度は南西の方角を指した。

 眼をこらしてみると、魔導研究所と同じく、やや低い塔を囲む尖塔が複数ある、大きな建物のように見えるものがある。


「あの方角は……たぶん『湖の宮』だな。

 皇帝が避暑に使う宮殿として建てられたんだけど、今は皇族の静養先になっている」


 エドアルド様が教えてくださり、ヨハンナはほむほむと頷いて、私に「例の変死事件のあった離宮なのです」と耳打ちした。

 あれか、皇子が侍従と2人でなんでか亡くなってたってヤツ。


 2つあるなら他にも?と一周しながら探してみると、ほんとにもう2箇所、それっぽい建物があった。


 東南に「春の宮」。

 東北に「薔薇の宮」。

 これらも今は皇族の静養先として使われているそう。


「ていうか、皇族の静養先、多くないです?

 確か他にも、海の近くとかにもあるですよね」


 エドアルド様はちょっと困り顔になった。


「魔力が多い代償なのか、皇族には身体の弱い方が多いからな……」


「ほへー……」


 そういえば、アルベルト様もそんなことをおっしゃっていた気がする。

 アルベルト様自身も、魔力異常体質と言えるし。


「それにしても似たような造りの建物が、ほぼ等距離、4つの方向から帝都を囲んでいるのか。

 不思議な感じだな……

 ヨハンナ嬢、なにか知らない?」


「や。わたくしも初耳なのです」


 ヨハンナがぱちくりする。


 不思議だ不思議だと言っているうち、やってきた他のグループが食堂がどうとか喋っているのが聞こえて、そういえば昼ごはん!てなり、降りることにした。


さっそくいいねを頂戴しました。ブクマもありがとうございます!

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☆★異世界恋愛ミステリ「公爵令嬢カタリナ」シリーズ★☆

※この作品の数百年後の世界を舞台にしています
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