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うちには、聖女なんて絶対無理やわあああ!

 ギネヴィア様は、学院長や帝都のお母様と相談して、学院長やデ・シーカ先生と一緒にミルトを治める子爵家を訪問し、魔獣対策について懇談された。

 ミルトや周辺の町も訪れて、町の人を集めてもらい、魔獣の怖さや警報の種類、警報が出たらどうするのがよいのか、直接お話された。

 学院から近いとはいえ、皇族が訪問されたのは初めてのところも多く、晴れ着を着て集まった町の人達にめちゃくちゃ歓迎され、ついでに記念植樹をされたりもした。


 それにしても、デ・シーカ先生はギネヴィア様が一緒だと、妙にしゃちほこばって面白い。

 ピクニックの時は態度も口調も結構荒っぽかったのに、ぴしっと貴族らしく振る舞ってる。


 顔つきも違ってて、ほぼほぼ別人だ。

 その癖、ふと見ると、ぼーっとギネヴィア様のことを眺めている。

 

 先生、もしかしてギネヴィア様のことが好きなのかな……

 ギネヴィア様は、全然お気づきでないようで、ごく普通に接してらっしゃるけど。




 とかやっていると6月に入って、遠足の代わりに帝都の大神殿にほんとに行くことになった。

 といっても、600人近い生徒全員がいっぺんに見学に来ると神殿が対応しきれないとのことで、金曜の授業が全休になり、金土日のうち好きなタイミングで見て回りなさいという指示が出た。

 見学した後でレポートを提出しないといけないから、課題が増えたといえば増えたんだけど、生徒の多くは帝都に本邸なり別邸があるから、学期中はなかなか帰れない家でゆっくりできる、ちょっとした中休みって感じになった。


 でも私は、ちょっと困ったことになった。

 夏前まで領主様達は領地に帰っていらっしゃるので、帝都のタウンハウスには留守番しかいない。

 私一人のために色々用意してもらうのもなんなので、ヨハンナの家に泊めてもらうことにした。


 金曜の朝、ギネヴィア様の馬車に、エレンとヨハンナと一緒に乗っけていただく。

 エレンは、例の修道女に同行されるとこの後の予定に差し支えるので、ギネヴィア様が適当な理由をつけて確保したのだ。


 ユリアナさんや近衛騎士団の護衛が馬で周辺を囲う。

 警備の関係で、皇族と上位貴族家の生徒はなるべく一緒に移動してほしいということで、ファビアン殿下やエドアルド様、アントーニア様や他国の王族の馬車も連なり、やたら美美しい大行列になって帝都へ向かう。


 道中、何度か町に入る。

 皇家の紋章に気がついて、あわあわと帽子を取ってお辞儀をしたり、手を振ってくる人達に、ギネヴィア様はお手振りをされた。

 左右に眼を配りながら、一人ひとりできるだけ眼を合わせて、慈しむような姫様スマイル大☆炸☆裂☆だ。

 私たち3人は、邪魔にならないように、進行方向側の席にへばりつくようにしてなるべく気配を殺す。


「……ギネヴィア様、凄いですね……」


 町から外れて人が途切れたところで、エレンがこぼした呟きにめっちゃ頷いた。

 こんなにたくさんの人に笑顔を向けるって、顔がこわばりまくって、へとへとになりそう。


「んん?

 どうして?」


 ギネヴィア様はきょとんとされる。

 3人で、もがもがご説明した。


「だって、皆、帝国の大切な国民だもの。

 愛おしいし、今日、ここで会うことができて嬉しいって気持ちに自然になるから……」


 そこまでギネヴィア様はおっしゃって、あ!となにかに気がついたような声を漏らされた。


「もしエレンが聖女になったら、女神フローラを尊ぶ人達を同じように思わないとね。

 女神フローラの信者って、大陸全体で7千万人くらい?」


 ヨハンナが「神殿に登録されている人数で言えば、そのくらいです」と頷く。


「無理無理無理!

 うちには、聖女なんて絶対無理やわあああ!」


 うわん、とエレンが顔を覆って、悪いけどちょっと笑ってしまった。


「それにしても、ファビアンはちゃんとやっているのかしら。

 手を振られてもむすっとしているくらいなら、いっそカーテンを閉めてくれた方がよいのだけれど」


「あちらの馬車には、カール様がいらっしゃいますから、そのへんはなんとかされてるのでは?」


 カール様に怒られたり、なんなら脚を蹴られながら、お手振りを頑張るファビアン殿下が、思いっきり脳裏に浮かぶ。

 ギネヴィア様も似たようなことを想像されたのか、ふふっとお笑いになった。


 馬車はお昼前に帝都に入った。

 帝都旧市街に入ってすぐ、ヨハンナが外を指して、あれが大神殿だって教えてくれた。

 銅葺きらしく、淡い緑の尖塔や円蓋クーポラが、建物の影に隠れて見えなくなったり、また道の先に現れたり、どんどん大きくなってゆく。


 貴賓用の門を潜り、広場に入ってようやく全貌が見えた。


「おっきいいいいい!!

 おっきくないですか大神殿!?」


 思わず馬車の窓にへばりついて、一人で大興奮してしまった。

 大神殿を初めて見るのは私だけなので、生温かく見守られる。


「大きいんですよ大神殿……

 神官が暮らす別棟やら、信者が泊まるとこやら、研修するとこやら、裏の方にも建物がようけあるし。

 学院入る前にしばらく泊まってたんやけど、部屋出るたんびに迷うてしもうて、何度も怒られて……」


 エレンがへんにょり眉を下げた。

 あんまり良い思い出はないっぽい。


 メインの大聖堂は、幅150mくらいあるんじゃなかろうか。

 近くなりすぎて上の方が見えなくなったけど、事前に配られた資料の大神殿の構造図では、大聖堂はほぼ正方形で真ん中にまるっこい帽子を伏せたような円蓋、四隅に塔があるはずだ。


 馬車を降り、前後して到着したファビアン殿下や上位貴族家の生徒と合流する。

 20人ばかりの、キラキラ感大盛りの群れになった。

 私とヨハンナは、そのしっぽになんとなく紛れ込む感じでついてゆく。

 あ、ファビアン殿下が途中ですっとそれて、大神殿の脇の休憩所の方へ一人で向かってる。

 先に着いているはずのヒルデガルト様と待ち合わせしているのかも。


 大きな広場に面した正面は、幅いっぱい広い階段になっていて、白い大理石で出来た、たくさん太い柱が立ち並ぶテラスのようになっている。


 ギネヴィア様、アントーニア様、エレンの三人を先頭に階段を登り、開け放たれた大きな青銅の扉を抜けてすぐが、祈りを捧げるための、4階分くらい吹き抜けになった巨大な空間。

 天井はたくさんのアーチで支えられ、両脇の側廊の柱には、女神フローラの侍女である、48種の花をそれぞれ擬人化した乙女達の彫刻が施されている。


 入り口から奥へ、跪く時のためのクッションがついたベンチがずらりと並び、真ん中に金色で縁取られた赤い絨毯がまっすぐ敷かれている。

 ホールの突き当りには、両腕を斜め下に広げた、高さ10mはある巨大な女神像が私たちを見下ろしていた。


 女神像の手前が、おそらく円蓋部分になるのだろう。

 天井に嵌め込まれた色ガラスから降り注ぐ光で、床が彩られている。

 女神像の足元には、花や蝋燭、香を捧げる祭壇もあり、蝋燭の炎がいっぱい揺らめいていた。

 ベンチには熱心な信者らしい人が、祈りを捧げている姿も見られる。


 ほえー……と、お口ぽかんであたりを見回す。

 皇宮にあがった時もそうだったけど、めちゃくちゃ空間が大きい上、あっちにもこっちにもいろんな飾りがあって、見ているだけで頭がパンパンになりそうだ。


ブクマ、評価頂戴しておりました。ありがとうございますありがとうございます!

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☆★異世界恋愛ミステリ「公爵令嬢カタリナ」シリーズ★☆

※この作品の数百年後の世界を舞台にしています
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