わたくし、今日のこと、ずっと忘れない気がする
「あ!冬にお伺いした時におっしゃっていた、凄い魔法が極大魔法ですか?」
2月にお邪魔したとき、いつも優雅にされているギネヴィア様が、なんだかヘロヘロだったのを思い出した。
確か、凄い魔法を教わっていると聞いた記憶がある。
「そうそう。
2属性でも極大が覚えられるくらいに魔力を伸ばせば、フオルマに出すのは惜しいって話にならないかと思って、頑張り続けておいてよかったわ。
結局、婚約がなくなるまで極大は教えてもらえなかったし、そっちは正解ではなかったのだけれど」
んん??
「そっちは正解ではなかった」っていう言い方は、なんか変だ。
ギネヴィア様がフオルマ行きを回避するために、されてたことがいくつかあって、一つは当たったけど、他のはハズレだったという意味になるよね。
フオルマの王太子が自国のピンク髪子爵令嬢と電撃結婚して、ギネヴィア様はお嫁に行かなくてよくなったのだから、それが「正解」ということになるんだろうけど……
ギネヴィア様とは関係なく、たまたま起きたことを「正解」とは表現しない気がする。
……まさか、あの電撃下剋上婚が起きるように、ギネヴィア様がなにか仕向けてたってこと??
ふと、去年の秋、オーギュスト様が、フオルマの下剋上ヒロイン小説について、ヨハンナにお訊ねになっていたのを思い出す。
フオルマでも少女小説は流行っているけれど、報復がキツくて、残酷描写もいちゃいちゃ描写も激しい、クセが強い作品がよく読まれるとかそんな話だったと思う。
本の話になると、相手が誰でも、いつも全!開!って感じになるヨハンナが、妙に挙動不審に必要最小限のことだけ答えていた。
うろ覚えだけど、フオルマの王太子も下剋上ヒロイン小説を読んでいたってどこかで聞いた気もする。
「もしかして……
ギネヴィア様、ヨハンナと一緒に、フオルマに過激な下剋上ヒロイン小説を流行らせたりしました?」
「……え!?」
ギネヴィア様は不意を突かれたように、視線をめっちゃ泳がせた。
ピンク髪ツインテヒロイン大集合!のお茶会で、もしギネヴィア様が自分でお金を稼がなければならなくなったら「ゲンスフライシュ商会が秒でスカウトする」と、ヨハンナは普通に言っていた。
高貴な方々とのつながりが大事な商売もあるけど、身分に関係なく、たくさんの人に出版物を売ることで大陸一の出版社になったゲンスフライシュ商会には、ギネヴィア様の魔力も血筋も人脈もそこまで意味はない。
ゲンスフライシュ商会が欲しがるような能力、たとえばどういう本を人々が読みたがっているのか見極めて内容を調整したり、巧く宣伝したりする力がギネヴィア様にはあるってヨハンナは知ってるんじゃないか。
ギネヴィア様とヨハンナの縁は学院入学より前、5、6年以上前からだって聞いているから、時期的にも間に合わないこともなさそうだ。
ゲンスフライシュ商会の支社は、フオルマにもあるし。
なにもゼロからフオルマ用の作品を作らなくてもよい。
帝国では下剋上ヒロイン小説はたくさん出版されている。
その中からフオルマの人々に合いそうな作品を選んで翻訳してもよいし、フオルマ受けする要素が足りなければ、著者の許可をもらってストーリーの一部に手を加える翻案というかたちで、出版すればよい。
ギネヴィア様は、王太子ほかフオルマの人々と直接お話されたりしていたはずだし、ご進講を通じて、フオルマの文化や価値観についても深く理解されていたはずだ。
王太子との関係はアレだったけれど、向こうの王族や上位貴族とも交流はあったはず。
いろいろ考え合わせてみると、いろいろあやしい。
ギネヴィア様は、フオルマ王太子との婚約がなくなった話をされる時は、いつも妙にテンションが高い。
どうやったらフオルマで下剋上ヒロイン小説がウケて、掟破りの「真実の愛」が尊いものだという価値観が王太子の周辺に浸透するか、ご自身で試行錯誤した末に、10対0であちら有責の婚約完全爆散という成果を出したからこそ、あのテンションなのかも。
足を止めて、んじいいいいいとギネヴィア様を見てしまう。
ギネヴィア様は、めっちゃ眼をそらして、口ごもっていらっしゃる。
こんなギネヴィア様、見たことがない。
あやしさ極大だ。
「……内緒よ。
ただの娯楽と思われている少女小説が国を動かしたってことになると、ゲンスフライシュ商会が困るから」
根負けしたように、ギネヴィア様はこそっとおっしゃった。
「なるほろ……
検閲されるようになったり、逆に世論を動かすように仕掛けろとか無茶振りされるとめんどいですもんね」
「そういうこと、そういうこと……」
ギネヴィア様は、こくこく頷いた。
きゃわわ!
超きゃわわ!
「……すみません。
せっかくのお散歩日和なのに、なんか黒い話になっちゃって」
誤魔化すように、つないだ手をぶんぶん振ってまた歩き出す。
「いいのよ。
いろんな意味で自業自得だし。
でもどうして気がついたの?」
気がついた流れをご説明したら、ギネヴィア様は「わたくしもまだまだね」と苦笑いされた。
「というか、ギネヴィア様、めちゃめちゃ頑張って自由になられたわけじゃないですか!
これから、どうされるんです?」
「んん……
長い間フオルマの縁談から逃げることしか考えていなかったから、したいことがまだ見えてこないのよね……
皇家の利になるところに嫁ぐのが、皇女の一番の仕事ではあるのだけれど、ちょうどよい結婚相手も見当たらないし」
ほんとうになにもなくて困っていらっしゃる様子で、首を傾げておっしゃった。
「なるほろ……
もし、ギネヴィア様のやりたいことがはっきりしたら、全力で応援しますね!
私だけじゃなくて、みんな……お姉さま方も、ヨハンナも、1年生3人組も、学院のみんながめっちゃ応援すると思います!」
ちょっと前のめりに言ってしまった。
お茶会とかで、ギネヴィア様に褒めていただいたり、励ましていただいたりしたことが自信になってる生徒は、たぶんたくさんいる。
私だって、ギネヴィア様に助けてもらわなかったら、アルベルト様と今みたいな関係にはなってなかったし。
でも、ギネヴィア様は皇女殿下だし、お返しできることってほんとにない。
それが心苦しく思うこともあるんだよね……
だから、もしお返しできる機会があったら、みんな全力で行くと思う!
「……ありがとう、ミナ」
ギネヴィア様はにっこり微笑んで、頷いてくださった。
「あ……一つあったわ、してみたいこと」
「なんですか?」
「あのね、学院の舞踏会の時、ミナはゲルトルートやエミーリアとたくさんハグしていたでしょう?
ちょっと……うらやましかったの……」
うっすら赤くなって、もじもじもじっとギネヴィア様はおっしゃった。
「ほへ!?」
言われてみると、ギネヴィア様とハグとかしたことはない。
というか、お姉さま方も、ギネヴィア様とする時は、むぎゅーって抱きつくんじゃなくて、身体を少し離して、軽く抱擁のかたちを作られていたような気がする。
やっぱり皇女殿下だしっていう遠慮が、子供の頃から仲良しでいらっしゃるお姉さま方でもあるのかもしれない。
「じゃあ、不肖ウィルヘルミナでよろしければ、一発行ってみますか?」
足を止めて気合を入れると、めっちゃ笑ってくださった。
いきますよー!と、がばっとハグすると、甘くていい匂いがほんのりした。
ギネヴィア様は私よりちっちゃいし、お身体も細い。
でも、私が知る誰よりも強いのかもしれない。
こんなに華奢で可愛らしいお姫様なのに。
ギネヴィア様、ちょう大事!めっちゃ大事!ていう気持ちが伝わるように、むぎゅーって抱きしめた。
ギネヴィア様も、私の背に腕を回すと抱きしめてくださる。
「……わたくし、今日のこと、ずっと忘れない気がする。
ミナに出会えて、本当によかった」
ようやく身体を離すと、ギネヴィア様はうるっと瞳をきらめかせておっしゃってくださった。
アルベルト「ちょっと待てえええええ!! ギネヴィアにミナを持ってかれるとかないよな!?ないよな!?」
ヨハンナ「GLタグがついているので無問題なのです。備えあれば憂いなし!なのです」
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