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幕間 塔の研究室(2)

「ま!とにかく魔獣の件だ。

 瘴気だまりが消えた件は……

 勝手に人に伝えるとギネヴィアに怒られるヤツだな。

 とりあえず、時間、場所、魔獣の数だけ下に伝えておくか」


 アルベルト様は「手紙鳥」をかきかきして、びゃっと出した。

 すぐに返事が来る。


「ヒルデガルト様のお歌の件は、よくわかんないので内緒ってことですか?

 なんでギネヴィア様に怒られるんです?」


「んー……

 ギネヴィアが学院に入る前、自分の子を産ませるのによさそうな、変わった魔力を持つ娘がいたら教えろって先帝陛下に言われたんだ。

 で、ギネヴィアはブチ切れた。

 だから、少なくとも自分の眼の届くところにいる子は、なにがなんでも守るって決めてるんだ」


「はいいいいい!?

 先帝陛下って……ええと、70歳くらいなんじゃ??」


 歴代皇帝の中でも、妃がやたら多い方らしいけれど、もうおじいちゃんだよね!?


「今、72歳だ。

 大量に妃を抱えて子を産ませても、俺のように異常がある皇族が生まれるから、とにかく数打ってなんとかしたいという執念なんだろうが」


「ええええええ……」


 それで16歳の孫娘に自分の新しい妾を探させようとしたってこと!?

 なにそれキモい!!


 ぞわっときた。

 皇帝陛下は、そんなのなんで止めないの??


 ていうか、先帝陛下って、アルベルト様のお父様じゃん!

 アルベルト様は、先帝陛下をどう思ってるなんだろ……


 じっと見ちゃってたのか、アルベルト様は微妙な笑みを浮かべ、首を軽く横に振った。


 手を伸ばして、そっとつなぐ。


 軽く引っ張られたので、立ち上がって、座ったままのアルベルト様をゆるっと抱きしめた。

 アルベルト様も、ゆるっと私の背に腕を回してくれる。


「逆に、なんで私はまだ大丈夫なんです?

 光魔法使えるってことは、わりと言っちゃってるんですけど……」


 ちょっと気になってしまった。

 私が光魔法で魔獣を倒したことがあるってことは、学院ではめっちゃオープンにしてる。

 今季も実習系の授業には出てないし、ほんとに光魔法なんか使えるのかって、うさんくさそうな目で見てくる人もいたりだけど。


「ミナの存在をまだ知らないんだ。

 アラクネの報告書でも、ミナの存在感は薄めまくって、名前しか出してないし。

 譲位して10年以上経って、先帝陛下に直接仕えた者はどんどん引退してるし、下の世代は先帝陛下のやり方を良く思ってない。

 手をつけるだけつけて、すぐに懐妊しなければ放置、子を産んで妃となっても、そんな立場の妃なんてうじゃうじゃいるんだ。

 名家の出で、最初から皇妃として入るならとにかく、お手つきからの繰り上がりじゃ待遇だって良くない。

 当代陛下ならまだしも、先帝陛下に娘を差し出したって旨味はないわけだから、下手に先帝陛下にご注進すると、周りから疎まれてしまう。

 だが、聖歌で瘴気だまりを消したとなると大騒動になるから、まず先帝陛下の耳に入ってしまうし、耳に入ればなにがなんでもその娘が欲しいと言い出すだろう」


「ほへー……」


「昔は、学院も候補者をリストアップするようなことまでしていたが、今の学院長は見識がある人で、生徒の個人情報は外に出さないしね。

 といっても、先帝陛下がどこかから聞きつけて、名指しで話が来ると、まず逃げられないからな……」


 以前、ギネヴィア様やエドアルド様にも、私は危ない立場なんだって言われたことがある。

 その時よりも、なんだか怖い。

 めちゃめちゃ嫌だ。


 むぎゅっとアルベルト様の頭を抱くと、アルベルト様はむぎゅーっと抱き返して私の腕の間から笑ってくれた。


「大丈夫だ。

 ミナは絶対に離さない。

 いざという時は、俺が本気を出す!」


「アルベルト様の本気って……

 闇堕ちして魔王とかになってフハハ!とかですか?」


 ヨハンナに貸してもらった本の中に、そんな小説があったのを思い出した。


「なんだそれ!?」


 イケメン貴公子が色々あって魔王になり、無双しまくったあげく、神々を殺し世界を崩壊させてしまう小説が、すっごく悲劇的なんだけど色々やりすぎで面白がられて、ちょっと流行ったのだと説明する。

 さすがにそこまでは……とアルベルト様はドン引きしてたけれど、「フハハ!」は気に入ったらしく、やたら「フハハ!」を語尾につけまくってて、生温かい気持ちでいっぱいになってしまった。




 学院に戻って、皇族寮に行ったら会議は終わっていた。

 みんな帰っていたので、ギネヴィア様に、アルベルト様がかなり反省されていたと申し上げて、手紙をお渡しする。


 ギネヴィア様はびっくりして、大変喜んでくださった。

 今までも、アルベルト様の「手紙鳥」に閉口することがあったけれど、反省してもらったのは初めてらしい。

 というか、アルベルト様はだいぶ前から私のことをあれこれギネヴィア様に「手紙鳥」で相談されてたらしく、なにそれ恥ずい!!ってなった。

 やっぱり、くすぐりの刑を増量しないと!!


 夕食は軽く済ませるつもりだけれど、一緒にどうかと誘ってくださったので、お相伴させていただく。


 2人で、チーズと鶏肉入りのニョッキと温野菜のサラダを食べながら、ピクニックのこと、神殿のこと、会議のこと、アルベルト様のことなどあれこれお話した。

 やっぱりヒルデガルト様のお歌、エレンの魔法が気になるらしく、なる早で本人に話を聞きたいという話になった。

 アデル様の「ヴェント」を使った数式魔法もぜひ見たいとおっしゃったので、段取りをつけることにする。


 神殿の件は、やはり塔でのやりとりと同じような話になって、カール様からお兄様に心当たりがないか聞いていただくことになったそうだ。

 ついでに、例年、春季に遺跡に遠足に行くことになっているのだけど、今年は遺跡が閉鎖されたままなので、代わりに帝都の神殿に行くのはどうかと学院長に提案したと、ギネヴィア様はおっしゃった。


 神殿には、さまざまな歴史資料も展示されている。

 学院長は、史学の研究者でもあるので、ちょっと前のめりになって、詳細を検討してみると言っていたそうだ。


「それにしてもなんでこのタイミングで神殿なんですか?」


「ふふふ。

 アントーニア達と話していて、この際、聖女候補と、元・候補の候補の3人で仲良く神殿に行ってみたら面白いんじゃないかということになったの」


 ギネヴィア様は悪い顔でおっしゃった。


 ……アルベルト様よりギネヴィア様の方が、闇堕ちしたら凄いことをしそうな予感がする。


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☆★異世界恋愛ミステリ「公爵令嬢カタリナ」シリーズ★☆

※この作品の数百年後の世界を舞台にしています
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[一言] やはりギネヴィア様、推せる……ッ!
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