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いくらなんでも俺様すぎいいいいいいい!

 気がついたら、余韻を残して、歌は終わった。

 終わったことはわかるけど、なんか……ぼけーっとしたまま動けない。


 皆、動けない中、ヒルデガルト様は、そっと半歩下がられて、軽くお辞儀をされた。


「……殿下は本当に歌がお上手ですね」


 上気した頬に、はにかむような笑みを浮かべておっしゃる。


「いやいやいや!!

 それは君だろう!!」


 はっと気を取り直したファビアン殿下が、全力でツッコミを入れる。

 「お前」って呼んでたのが「君」に変わったのは、ヒルデガルト様への敬意ってことなのだろう。


「そうですよ!

 ヒルデガルト様、すごすぎなのです!!」


「こんなに素晴らしい歌を聞いたのは、生まれて初めて……」


 みんなお二人に駆け寄って口々に褒めそやす中、デ・シーカ先生が奇声を上げた。


「んああ!?

 マジで瘴気だまりが消えてるじゃねえか!!!」


「はへッ!?」


 見ると、さっきまで窪地に淀んでいたぬっぺりと黒い瘴気だまりがきれいになくなってて、普通に落ち葉が積もってるだけになっている。

 1mくらいの高さの、指くらいの太さの若木もひょろっと生えている。

 さっきはこんなの絶対なかったはずだ。

 どっからどこまで瘴気が溜まっていたのか、もう全然わからない。


「だ、誰か見てなかったのか!?」


 遺跡でアラクネが出ようが、私以外全員戦闘不能になろうが、一度も動じなかったエドアルド様が、本気で慌ててる。

 でも、みんなお2人の歌に魂抜かれてる状態だったので、どうして消えたのか全然わからない。


「えっとこれ、ヒルデガルト様のお歌で瘴気溜まりがなくなった……ってことですか??」


「と、いうことなのでしょうか……

 歴史書やら軍記やらそれなりに読み散らかしましたが、魔法でも聖歌や祈祷でも、瘴気そのものに直接干渉できたという話は……覚えがないのですが」


 ヨハンナが首を傾げた。

 こういう風にヨハンナが言うってことは、少なくとも一般人が入手できる本にはそんなことは書かれてないってことじゃん。


 おろっと皆でヒルデガルト様の方を見る。

 皆に褒めちぎられて赤くなったままのヒルデガルト様は、首を横に振った。


「きっと殿下のお力ですわ。

 魔力の渦、と言いますか、なにかこう……すっごくきていたので」


 ヒルデガルト様は両手をひらひらと、自分を扇ぐように振って、エネルギーが来てた的なことをおっしゃる。

 あれか、お二人から広がってった光。


「あー……皇家の行事で歌う時みたいだなとは思ったが……

 でも皇家にしたって、歌で瘴気を祓うとか聞いたことはないし、魔力は全然使ってないぞ」


 ファビアン殿下は、ぶんぶんと手を横に振って自分の力でもないと否定した。

 ていうか、皇家って集まって歌を歌って……なんか謎のパワー出したりするの??


 魔獣や瘴気に一番詳しい先生は、まだ呆然としている。


 エドアルド様は、「せめて蒸発したのか、地に吸われたのか、分解されたのか、中和されたのか、様子を見たかった」とぶつくさ言いながら、瘴気が溜まっていたあたりの落ち葉をかきわけて地面を掘り、落ち葉や土のサンプルを小袋に取ったりし始めた。

 ささっとカール様がしゃがみこんで手伝い始める。


「……うちなんかより、ヒルデガルト様が『聖女』にふさわしいんやないの」


 ぼそっとエレンが呟いた。


 確かに。

 ヒルデガルト様が、神殿の礼拝で今のようにお歌いになったら、めっちゃ信者増えるに違いない。

 少なくとも私は絶対行く。


 不意に、アデル様がむしりとるように髪飾りを取り始めた。

 ツインテを解いて、手ぐしでささっと後ろへ流す。


「アデル様、どうされました?」


「エレンは治癒魔法が使えるし、ヒルデガルト様は瘴気を祓えるし……『特別な女の子』じゃないですか。

 たまたま髪がピンク色がかってて、家族にいじめられてるくらいで、恋愛小説のヒロインみたいになりたいとか、おこがましすぎて……」


 恥ずかしそうに身を縮めながら、アデル様はおっしゃった。


 この間のお茶会の後、ギネヴィア様もアデル様のおうちは問題があるんじゃないかと気にしてらした。

 あの時のお話ぶりでは、自分はかわいくないし、気が利かないから、冷たい仕打ちを受けても仕方ないって受け取ってらっしゃるようだったけれど、学院でいろんな人とお話してるうちに、アデル様ご自身もご家族の方がおかしいってお気づきになったのかも。


「よくわからんが、並外れた能力がないと、イケメン貴公子を『真実の愛』に目覚めさせられないというわけじゃないだろう。

 というか、お前は、まずその前髪をなんとかしろ」


 ファビアン殿下は大股にアデル様に寄ると、前髪をさっと払うよう流した。


 は、と驚いたままのアデル様の顔があらわになる。


 切れ長の理知的な感じの眼、瞳は淡い青だ。

 どちらかというと男顔、細面でシュッとした感じの大人っぽい顔立ち。

 女子にめちゃめちゃモテるタイプの美人だ!て思ったら、アデル様は真っ赤になって目を伏せられた。


 エレンが思わず「まつげ長ッ!」と口走る。

 目を伏せたら途端に、めっちゃ色っぽくなった。

 男子にもめちゃめちゃモテる予感しかしない!!

 

 デ・シーカ先生もカール様も、口をぽかんと開けている。

 いやほんと、なんで隠してたの!?


 ふふんとファビアン殿下は腕を組んで、ドヤ顔をされた。


「ずっと隠しているから、よほどブスなのかと思ってたら、見れる顔じゃないか」


「ひいぃいいいいいい!!

 いくらなんでも俺様すぎいいいいいいい!

 NGです!!

 殿下それはNGィィィィィィィィ!!!」


 例によってヨハンナが悲鳴を上げる。


 言われたアデル様は思わず顔を上げたまま、カチンコチンに固まっている。


「その眼を出して普通にしていれば、スパダリとやらがわらわら寄ってくるぞ!」


 ファビアン殿下はキラキラしくおっしゃった。


 一瞬、謎の間が空いた。


 無言のまま、くらっとアデル様がよろめかれて、ファビアン殿下が慌てて抱きとめる。

 意識が飛んでるようだ。

 あまりの俺様っぷりに失神しちゃったの!?


「もう、無理……

 3次元俺様皇子が、ヒロイン失神抱きとめとか無理無理無理いいいいい!!」


 ヨハンナがよくわからないことを口走って、急に私にもたれかかってきた。

 どうにか抱きとめたら、ヨハンナも失神してた……


ブクマ頂戴いたしました。

ありがとうございますありがとうございます…!

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☆★異世界恋愛ミステリ「公爵令嬢カタリナ」シリーズ★☆

※この作品の数百年後の世界を舞台にしています
― 新着の感想 ―
[一言] アーサー王伝説とか読むと、あっちもこっちも失神してて、馬の上から失神して落馬しただろうに、みんな丈夫やな!と思ってたんですけど…ヨハンナ、其方も釣られ失神の使い手であったか…ッ
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