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てか、お前のあれ、「ライト」じゃねえだろ

「にしても、前衛いないとほんとやべえ……くっそ焦った。

 最後は俺もまず『結界』で間合いを取るとか、もうちょいやりようがあったな……」


 デ・シーカ先生は草地の上に脚を投げ出して座ったまま、反省タイムのようだ。


「つうかファビアン、いくら魔力多いからって、グラーツィア・ランソデカすぎだろ。

 あのくらいのヘルハウンドなら1/3でいいよ、1/3で。

 とにかくデカイのを射った方が良い状況もあるが、今日は速さと手数重視だよな?」


 返す刀で、講評モードだ。

 立ったままのファビアン殿下が「はい」と真剣な顔で頷いて、ちょっとびっくりした。

 ふん、と先生は鼻を鳴らした。

 

「カール。

 中途半端に出てきたりしなかったのは良かった。

 だが、指示はしなかったが、女子にこっちの邪魔をさせないのもお前の仕事だったよな?」


「……はい。

 考えが足りませんでした」


 カール様も直立不動になって冷や汗だらだらだ。


「女子4人」


 ギロっと、デ・シーカ先生は1年生3人とヨハンナを睨んだ。


「君たちには、黙っててほしかったなあああああ!!!!」


「「「「「すみませんでしたああ!!!」」」」


 4人は揃って頭を深々と下げた。


「ファビアンがチョロいのが悪いっちゃ悪いんだがな。

 ちょっと、キャーって言われて集中切れるとかさああああ……」


 ファビアン殿下、やっぱりチョロいのか……

 殿下は、うっすら赤くなった顔を湖の方にそむけて、聴こえないふりをしてる。


「で、ベルフォード」


 あ。私も!?


「次は落ち着いてやれ。

 てか、お前のあれ、『ライト』じゃねえだろ。

 いっくら強いつうても、なんで光当てられただけで、魔獣がコロコロ転がるんだよ。

 光属性のなんかじゃねえのか?」


「えー……『ライト』なんですけど……」


 「ライト」じゃないって言われても、じゃあなんなの?としか言いようがない。


「……レディ・ウィルヘルミナの目潰しは『ライト』ですよ。

 詠唱なし、魔法陣なしで打てるんですから、無属性なのは確かですし」


 魔石やサンプルを回収しながら戻ってきたエドアルド様が補足してくださった。


「そうか……そうだな。

 だが、もう独自名つけていいレベルなんじゃないのか?

 たとえば……そうだな、『閃光の鉄槌(フルマテッロ)』とかどうだ?」


「ぇぇぇぇぇぇ……」


「いやそれダサいだろ。

 そもそも、ベルフォードの魔法は詠唱なしで連射できるのが強みなのに、いちいち『閃光の鉄槌(フルマテッロ)』って叫ぶのか?

 巻き舌になるところで舌噛むぞ」


 ファビアン殿下が、めっちゃ微妙な顔をして、私が言えなかったことを言ってくださった。


「『閃光の鉄槌(フルマテッロ)』がダサいだとおおおう!?」


「ままままま!

 なにはともあれ、皆様ご無事でよろしゅうございましたということで!

 そうだ!咽喉は乾いていらっしゃいませんか?

 わたくし、いちごジャムで風味をつけた紅茶を持参しましたので、そんなものでもよろしければ……」


 ヨハンナがさささっと間に入って、流れを変えてくれた。

 ここは甘いものが飲みたいとデ・シーカ先生が飛びつく。

 さすがギネヴィア様の軍師!!


 水辺はヘルハウンドの屍体がゴロゴロなので、皆で四阿に移って女子チームの水筒をあれこれ飲む。

 エドアルド様はお昼がまだだとおっしゃったので、お祭りクッキーも出したら、デ・シーカ先生やファビアン殿下もがつがつ召し上がった。



 ひとしきり飲んで食べて、ファビアン殿下は、この後どうするつもりだとエドアルド様にお聞きになった。

 エドアルド様は、今日も野宿をして明日帰るつもりだったけれど、サンプルの分析もしたいし、ここで切り上げるとのことだった。

 じゃあ幌馬車で一緒に帰ろうという話になる。


 そこまではいいんだけど、ついでに近くにあるはずの「瘴気だまり」を見に行こうって話になった。

 1年生3人も、ヨハンナも不安そうに顔を見合わせる。


「『瘴気だまり』って、魔獣が出てくるとこですよね?

 そんなとこ、見物に行ってもいいんですか?」


「大丈夫だ。

 今、魔獣が出たばかりだから、小さいものなら半日くらいでそのまま消えてしまうし、大きいものでも2、3日は落ち着いてる」


 先生が言うには、そんなに危険じゃないってことらしい。


「さっきの規模で言うと、また出てくる可能性もあるんだよね。

 まずは現状を確認しておかないといけない」


 エドアルド様も説明してくださった。


 さっきの魔獣、たまたま私達が遊びに来てて、殿下と先生、エドアルド様が退治してくださったから良かったけれど、あのまま野に放たれてたら、人家があるところに駆け下って、大きな被害を出していたかもしれない。

 また湧く可能性があるのだったら、やっぱり場所とか状況を確かめないといけないけれど、たとえば先生たちが見に行って、女子がこっちに残るという風にグループを分けてしまうと、どっちかになにかあった時が怖い。

 このへんはのどかなところだけど、悪いことをする人が通りがかったりしないとは言えないし。


 おそらく対岸の木立の中、さほど離れていないところだろうということで、荷物を片付けて幌馬車に積み、カール様が「封印」をかけ、馬は水辺につないで全員で出発ということになった。

 幌馬車のような開口部が大きい空間でも、しっかり「封印」かけられるとか凄い。

 私も練習はしてるけど、まだ封筒とか小箱とか物理的に閉じられる小さなものにしかかけられないもん。



 というわけで、身軽になったところで、ぞろぞろと湖岸を回り込んで対岸の木立へ向かう。

 ヘルハウンドの屍累々、遺跡の時よりはだいぶマシだったけど、やっぱり瘴気を含んだ血の匂いがキツくて、なるべく眼を向けないように迂回した。

 木立の中は開けていて、まあまあ歩きやすかった。


 デ・シーカ先生とファビアン殿下を先頭に、ちょっとバラけ気味になりながら進む。


「エドアルド様、さっきぱしぱし指示だされてて凄いなって思ったんですけど、春休みの魔獣討伐で指揮もされたんですか?」


「まさか。

 見習いの見習いってところだよ。

 自分なりに準備をしてたつもりだったけど、まだまだだったなぁ……

 野営して移動して野営して移動してっていうのが、思いの外きつくてね」


 例の中距離瘴気検知器を構えたまま、ちょっと遠い目になってエドアルド様はおっしゃった。

 ああ、だから練習として一人で山に入られていたのか。


 中距離瘴気検知器は、さっきよりだいぶ大人しく、ぴこ……ぴこ……と反応している。

 でも、草地から木立の間に入ったあたりから、ぴこ…ぴこ…と、ちょっと元気になってきたみたいだ。


「そういえばエドアルド様個人としてウィラ様に結婚を申し込まれた件、パレーティオ辺境伯や一族の皆様の反応はいかがでした?」


 ヨハンナが木の根っこを危なっかしく避けながら訊ねた。


「くふふふふ……

 辺境伯にお会いしたら、笑ってらっしゃるのに眼がめちゃくちゃ怖くてね!

 一族郎党、門番から長老まで『俺らの大事な大事な姫様になにしよるんやクソガキ!』って感じで、僕、生きて帝都に帰れるのかな??ってなったよ。

 おかしいよね、僕はもともとウィラの婚約者なのに」


「それはエドアルド様が色々やらかしてるからでしょ、色々!!」


 遺跡の無理矢理ちゅー事件とか、バレてたらほんとにヤバかったかも。

 思わず睨んだところで、先を行っていたデ・シーカ先生が「瘴気だまり、あったぞー!」と叫ぶ。

 みんなでわらっと見に行った。


評価頂戴しておりました!

ありがとうございますありがとうございます…

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☆★異世界恋愛ミステリ「公爵令嬢カタリナ」シリーズ★☆

※この作品の数百年後の世界を舞台にしています
― 新着の感想 ―
[一言] あ……先生、拗らせたまま大人になっちゃった人だった…。ほんとだー前回の解説は先生でよかったんだ〜( ꒪⌓꒪)
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