お前を呼んだら、レディ・ウィラのノロケ話ばっかりになるじゃないか
食後、ちょっと眠くなってしまい、ヨハンナとお互いもたれあった状態でうとうとしてたら、いつの間にやら、水辺で男子と1年生が水切りをしていた。
アデル様がやたらお上手で、ファビアン殿下、カール様がむきになって投げまくってる。
あ、アデル様が石の選び方や、スナップの効かせ方のコツを説明し始めた。
試しに投げたカール様の水切りが大改善されて、「おおお」とどよめきが上がってる。
アデル様、なんだか面白い方だなと思いながら、ぼへーとヨハンナと眺めていると、森の方から誰かやってきた。
向こうも気づいて、おーいと手を振りながらこっちに向かってくる。
エドアルド様だ!!!
遺跡に遊びに行った時のようなローブ姿に背嚢を背負って、変な短い棒みたいなのを片手に持っている。
「エドアルド様!」
慌ててヨハンナと立ち上がってお迎えした。
というか、エドアルド様、春休みはパレーティオ伯爵領に逗留して魔獣退治に同行すると聞いたけれど、少し日焼けもしてるし、全体にたくましくなってる!
誰もが息を呑む超絶美少女美少年、「精霊様」の面影が、どんどん薄れていってるんだけどどどど……!
「レディ・ウィルヘルミナにヨハンナ嬢!
え? なんでデ・シーカ先生!?」
こっちもびっくりだけど、エドアルド様もびっくりしてる。
「あー……ファビアンに呼ばれたんだよ。
『真実の愛』を見つける会をやるから来いって。
期待はしてなかったが、女性は1年生3人と、この2人っていうね……」
寝そべってたデ・シーカ先生も起き上がって、くあっとあくびをしながらエドアルド様に答える。
エドアルド様も例の私塾にいってたようだ。
「なるほど……??」
相槌は打ったものの、説明が謎すぎたのかエドアルド様はぱちくりしてる。
「というかエドアルド様、背、伸びてません??」
この間、噴水落とし騒動の時にお見かけした時もちょっと思ったけど、間近で見ても、なんか違和感がある。
「お!わかる?
ミハイル先輩に、成長期に頑張りすぎると身体が大きくなりにくくなることがあるから、トレーニングメニューと食事を見直してみたらどうかって言われて、相談して筋トレ減らして炭水化物増やしたら伸びたんだよね!!」
エドアルド様、キラッキラの笑顔だ。
ささっと並んでみた。
前は制靴を履いた状態で、160cmの私とほぼ同じ。
女子の方が制靴の踵が少し高いので、1cmくらいエドアルド様が高いのかなって感じだったけど、今は靴の厚みを抜いても4cm?5cm?はエドアルド様が高い感じだ。
たった3ヶ月で凄くない!?
とかやってると、ファビアン殿下達がエドアルド様に気づいてこっちに来た。
さっとエドアルド様が略式の礼をし、ファビアン殿下が、そういうのいいから、とばかりに片手を軽く上げて横に振る。
「エドアルド、なんでこんなところに」
「昨日の夜から、野営の自主トレと魔具のテストを兼ねてうろうろしてたんです。
あああああ! 殿下の焚き火料理をしたんですね!
なんで呼んでくれなかったんですか!!」
焚き火の跡に気づいて、エドアルド様が涙目で叫んだ。
ファビアン殿下の焚き火料理、名物らしい。
「お前を呼んだら、レディ・ウィラのノロケ話ばっかりになるじゃないか。
こっちはもうおなかいっぱいなんだよ!!」
カール様もデ・シーカ先生も、先日ウィラ様語りの犠牲になったエレンとヒルデガルト様も、んだんだとうなずいている。
エドアルド様は、視線をそらした。
一応、自覚はあるらしい。
「……というか、ここは遺跡から近すぎるので、デ・シーカ先生がいらっしゃるとはいえ、ピクニックにはあまりおすすめできないんですが」
私とヨハンナを除いて、みんな「え??」ってなった。
そっか、遺跡の騒動をご存知ないんだ。
「去年の秋、学院のそばの遺跡でアラクネが出て、瘴気が濃くなってるとかで封鎖されたままなんです。
エドアルド様、ここ、遺跡から近いんですか?」
「そこの尾根の向こうだからね。
直接見えないからわかりにくいが、2kmないくらいかな」
「「「「えええええ……」」」」
皆がびっくりしている中、エドアルド様はさっき持っていた棒みたいなものを構えた。
長さ50cmくらいの、松葉みたいに先端がつながった棒の端を両手で持ち、先を前に向けると、棒全体がぴこんぴこんと弾むような変な揺れ方をする。
先端には魔石が嵌っているようだ。
エドアルド様が左右に身体ごと向きを変えると、特定の方向で、ぴこんぴこんしてるのがわかる。
「これ、コモの論文を元に試作した中距離型瘴気検知器なんです。
遺跡の方向に反応がある感じだなと思いながら、ここまで来たんですが、遺跡ではないようですね。
……どういうことなんだ?」
反応しているのは湖の向こう側?
たぶん遺跡とは違う方角だ。
ていうか、去年の瘴気検知器よりめっちゃパワーアップしてない??
例によって、「ウィラ様への愛の証」の一環なんだろうけど、愛が深すぎてそろそろ怖い。
ちなみにコモっていうのは、大陸の西端にある群島国家だ。
各島の長による合議制という珍しい政治体制をとっていて、大陸とは違う、独自の自然崇拝型宗教がある。
魔力を持っている人が大陸よりも少なく、それを補うために科学技術の研究が大陸諸国よりも盛んだって聞いたことがある。
じゃああっちに魔獣とかがいるの?と皆、湖の向こう側、300mほど先にある木立を見る──と、急にさまざまな鳥がバッと飛び立って、四方八方に逃げ始めた。
同じく鹿が何頭も、木立のあたりから走って逃げてゆく。
あの木立の中にこんなにいたのかっていう数だ。
水辺の杭につながれてた馬が、不安げに耳をぴくつかせはじめたかと思うと、激しく嘶いてしきりに動き回りはじめた。
なんだろ、まさか正常な動物が魔獣を怖がって逃げようとしてる的なやつ?と思っていたら、すううっと、木立の上がそこだけ妙に暗くなった。
なにあれ!?




