このほっぺ、アルベルト様がいたら絶対つつきにいくヤツだ
水辺に戻ったら、四阿から少し離れたところに、大きめの石を集めて組んだ炉が無事再建されていた。
大きな鉄網やスキレットもいくつも用意されている。
居残り組は、四阿のテーブルにまな板を広げて、ハムとかチーズとかバゲット、玉ねぎやパプリカ、トマト、ハーブ類を切ってる最中だった。
エレンが大活躍だけど、ファビアン殿下も慣れた様子でぱぱっと用意している。
カール様は、ハムを正確に同じ厚みで切ろうとして、めっちゃ苦戦していた。
早く火を熾さなきゃってなって、火が回りやすいように枝を組み、火口として中に松ぼっくりや枯れ葉を入れて、カール様に魔法で着火してもらう。
やっぱ属性魔法、便利だよね……羨ましい。
食材の準備は手が足りているようなので、私達は引き続き火の番をする。
いい感じに火が太い枝に回り始めたところで、食材の準備が終わった。
どうするんだろうと思ってたら、ファビアン殿下は鉄網を炉の上に置き、スキレットをのっける。
ファビアン殿下の指示で、みんなでテーブル代わりにピクニックバスケットを運んできてその上に食材を並べた。
ファビアン殿下はスキレットに油を引くと、玉ねぎやトマトを敷いて卵を割ったり、チーズをのっけたりしはじめた。
どうもスキレットで具材を焼いて、軽く炙ったバゲットにのっけるか挟むかするつもりみたいだ。
「ええと……
俺が料理して持っていくから、お前ら、あっちで待っていてくれていいんだが」
みんなわらっと焚き火の周りに集まったままだ。
「いやいやいや、殿下にそこまでしていただくわけには!」
「ぶっちゃけ、ここで食いたいぞ」
ヨハンナの言葉に、デ・シーカ先生が本音をかぶせてきた。
「あー、そっちの方が旨いかもだな。
立ち食いになるけど、それでもいいか?」
そういえば炉の周りに座れるところはない。
と、カール様とエレンが、四阿から敷物とクッションをささっと持ってきて、そばの草地に座れるようにしてくれた。
これで完璧だ!
というわけで、ファビアン殿下がスキレットを駆使して料理し、めいめい自分でバゲットを炙ってバターやら辛子マヨネーズをぬりぬりした上で、ファビアン殿下に具をのっけてもらって、あむあむすることになった。
私は一巡目はハム+チーズ+たまねぎを頂いた。
強めの胡椒がいい感じに効いてて美味しい!!
食が細いヨハンナも夢中で食べている。
二巡目は、煮崩れてソース状になってるトマト+卵+チーズ。
三巡目は、揚げ焼き状態のズッキーニとパプリカ、玉ねぎを溶き卵でさっとまとめたオムレツっぽい感じ。
なんだこれ、どの組み合わせもめっちゃ美味しい!
食材自体は質は良いとはいえ、珍しいものではない。
けど、塩加減や火入れ、スパイスの合わせ方が絶妙すぎる。
つい夢中で食べてしまって、ヤバい、ファビアン殿下はちゃんと召し上がってる?と見たら、ヒルデガルト様が巧くフォローしていて、殿下も召し上がってた。
安心して、遠慮なく四巡目、五巡目とおかわりしてしまう。
侍女候補なんだからお手伝いに回らないといけないんだけど、ハムを直接炙って、熱くなったところでチーズと一緒にバゲットに挟んでぱくりとかも美味しいしいいいい!!
ファビアン殿下は「どうだ旨いだろう」とドヤりまくってるけど、実際めっちゃ美味しいので、俺様だろうがなんだろうが全然アリ!殿下最高!!ってなる。
デ・シーカ先生は、酒が欲しい酒が欲しい酒が欲しいぞと、ずーっとぶつくさおっしゃってたけれど、皆、大満足のお昼ご飯になった。
「ところで殿下、その……俺様王子系の小説、いかがでしたか?」
四阿で食後のお茶という流れになったところで、アデル様がファビアン殿下におそるおそるうかがった。
「ライバルの令嬢同士が親友になる話……『二人の令嬢』か?
あれは面白かった。
しっかし、俺様王子ってえらく頭が悪そうに見えるんだが、ああいうタイプのどこがいいんだ?」
「ファビアン、言い方!!」
カール様が注意するが、殿下はどこ吹く風だ。
わざわざ予習した割には俺様発言かましてこないなと思ってたら、俺様貴公子小説をご覧になって、逆にちょっと引いたみたいだ。
お好きなタイプのキャラクターを真っ向からけなされても特に気にする風もなく、アデル様は首を傾げた。
「わたくしの場合で言えば……
自分に自信がないから、強い男性に引っ張ってもらいたいというのがあるんですけれど。
でも、なにかこう、くすっと笑ってしまったり、ツッコミどころがある方が良い、と思ってしまうんです。
完璧な方に引っ張られていくだけになるのは、それはそれで息苦しい、からでしょうか……」
考え考え、アデル様はおっしゃった。
「なるほど。
威張られたいというわけじゃなく、一生懸命威張ってる様子を面白がるということか」
ファビアン殿下は頷いて、ヨハンナの方を見た。
「『みぎゃああ』は、俺様タイプが嫌いなんだろ?
どうして嫌いなんだ?」
「まさに俺様タイプは頭が悪そうだから無理無理無理ィイイイイイ!なのです!
知性を最大の特徴とする人類に産まれておいて頭が悪いとか、存在に対する冒涜なのですよ!!
ところで殿下、『みぎゃあ』ではなくヨハンナとお呼びください!!」
ヨハンナ、もはやファビアン殿下に対する言葉が基本半ギレになってる。
「……頭が悪いのは無理って。
去年、すべての筆記試験でパーフェクトを叩き出したヨハンナ嬢にそれを言われたら、学院の男子生徒全員、立つ瀬がないんだが」
流れ弾に当たってしまったカール様が、がっくりうなだれた。
カール様も成績上位者のリスト入りしてらしたと思うけれど、ヨハンナと同学年じゃ、めちゃくちゃ頑張っても学年1位は取れないまま卒業するしかないかもしれない。
え、そうなの!?と1年生4人とデ・シーカ先生がびっくりしてヨハンナを見る。
「わたくしが答えられない問題が出題されませんでしたので」
ヨハンナは、みんなの視線に戸惑い気味に答えた。
「僕は十分準備したつもりだったんだけど、答えられない問題が結構出たよ……」
「私はたくさん出ました……」
カール様が遠い目になってる。
私も遠い目になる。
いや、自分なりに頑張ったんだけどさ……うん。
「……いや待て。
俺が俺様タイプに見えるということは、俺は馬鹿っぽく見えるということなのか??」
ファビアン殿下はヨハンナとアデル様をじろっと見た。
「いやいやいや、そういうことではなく!そういうことではなく!」
「殿下は大陸一のスーパー超絶イケてるイケメン貴公子でいらっしゃいます!!
ファビュラスでマーベラスなスパダリですスパダリ!!!
アホの子俺様王子とは全然違います!!!」
ヨハンナとアデル様がめっちゃ焦ってフォローしようとする。
ところでスパダリってなに??
「いや〜……ファビアンは俺様だからなぁ」
「うむ。
死んでも治らないレベルで俺様だからな……」
だけど、無情にカール様が首を横に振り、デ・シーカ先生も頷いて、ファビアン殿下はぷううっとふくれっ面になり、みんなで笑ってしまった。
このほっぺ、アルベルト様がいたら絶対つつきにいくヤツだ。




