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うち、治癒魔法が使えるんです

「まずは自己紹介を一周しとくべきでしょうか……」


 ファビアン殿下にキレたついでに、仕切りモードになったヨハンナがみんなを見回す。

 とりあえずそこからだろうと、皆頷いた。


 まずは言い出しっぺのヨハンナが名乗り、私、エレン、ヒルデガルト様、アデル様と、家名とか学年とかざくっとしたところを順不同で名乗っておく。

 私は農家の娘で、光魔法が使えることがわかって男爵家に引き取られた養女であること、ギネヴィア様の侍女候補にしていただいていることもお話した。

 それから、めっちゃ恥ずかしかったけど、アルベルト様と約束してしまったので「好きな人がいるんで、『真実の愛』は対象外です!今日はヨハンナのつきそいです!」と言っておく。


 案の定、なに言ってるんだコイツって、生温かい目で男性陣に見られて「ですよね……」ってなった。

 やっぱ、一度のくすぐりでコレは辛い。

 もう1回……いや、2回くらいは、アルベルト様をくすぐらないと!!


 逆に1年生3人には「え!?ミナ先輩の好きな人ってどんな人?」って前のめりになられたので、「学院にいる方ではないから」でごまかす。

 ずっと仲良くしているのに、アルベルト様のことを全然話せてないヨハンナがちょっと心配だったけど、特に反応はなかった。


 ということで、皆の視線がまだ自己紹介していないプレシー様に集まった。


「カール・プレシー、2年生だ。

 名で呼んでくれて構わない。

 父はプレシー侯爵、宰相を務めている。

 僕は三男だから、将来は好きな道に進んでいいと言われてたんだが……

 今日呼ばれたのは、そのあたりの事情が変わってきたことで、殿下に『ご心配いただいてる』ってことなんですかね!?」


 最後、なんかファビアン殿下に半ギレ気味だ。


「そういうことだ!

 上の兄は家を継いで領地のテコ入れ、下の兄は宮廷に出仕、カールは学院で進路をじっくり考える……まあ学問の道にでも進むかなって予定だったのに、下の兄が原因不明の病気にかかってしまったんだな」


 またファビアン殿下が振り返って、ぶっちゃける。

 ヨハンナが「前を向いたまましゃべっても聞こえるので、前を向いてくださいなのです!!」とキシャーっと威嚇した。


「病気にかかられたお兄様が、アントーニア様と婚約されている方……なんですよね?」


 私が確認すると、カール様は、苦い顔で頷かれた。


 ちょっとびっくりした。

 「事情が変わった」ということは、お兄様に代わって、宮廷に出仕するのがカール様になるかもしれないってことなんだろう。

 てことは、お兄様の病気は相当深刻なはずだ。


 でも、この間のお茶会の様子からすると、アントーニア様のお友達はそのことをご存知ないとしか思えない。

 お友達がカール様のお兄様を褒めちぎる度に、どこかぎこちない笑みを浮かべられていたアントーニア様を思い出して、おいたわしくなってしまった。


「もしかして、まだ内緒のお話なのでは?」


「兄のヘルマンが出仕できなくなって丸2ヶ月経っているから、知っている人も結構いるんだが……一応そうだ。

 どうにもならないということになったら、アントーニアと兄上の婚約解消と、僕との再婚約を一緒に発表すると言われている。

 そうなってしまう前に、兄上の病気がなんとかなってくれるといいんだが。

 いずれにせよ、このことは内密にしてほしい」


「「もちろんです」」


 ヨハンナと声が揃った。

 兄弟姉妹での婚約者の差し替え、恋愛小説にもたまに出てくるけどほんとにあるんだ……

 エレン達3人組も顔を見合わせて、こくこく頷く。


「アントーニアは子供の頃から、兄上のことをずっと好いている。

 だから、彼女はとてもつらい思いをしているんだ。

 ……とはいえ、この間は、全然関係ないエレン嬢をいざこざに巻き込んで、本当に申し訳なかった」


 カール様は、エレンに改めて頭を下げた。

 というか、お兄様が大好きだってわかっているアントーニア様と結婚しなければならなくなるかもとか、カール様ご自身も大変なんでは。


「いやいやいやいや、あれくらい、全然だいじょうぶやからッ

 ほら、パン屋の娘やし、お嬢様方みたいにやわやないんでッ」


 テンパったエレンはブラウスの袖をまくりあげて、むきーっと二の腕の筋肉を膨らませてみせる。

 騎士組ほどじゃないけど、しっかり筋肉がある。


 カール様が、思わず笑いだした。

 あんまり表情が動かない印象の方だけど、笑うとちょっとあどけない感じになってかわいい。


「それにしても、なんでパン屋の娘が神殿に引き取られたんだ?」


 ヨハンナにさんざん怒られたせいか、前を向いたままファビアン様がお訊ねになった。


「うち、治癒魔法が使えるんです」


「え、治癒魔法!?」


 カール様が食いついたけど、残念ながら治せるのは外傷だけで、病気は風邪も治せないのだとエレンは申し訳無さそうに説明した。


「治癒魔法かー……

 癖が強すぎて、まともに使えるヤツはあんまりいないんだよな。

 俺も試してみたけど、魔力を鬼喰いするわりに、全然さっぱりだった。

 属性は水と火?土もある?」


 デ・シーカ先生が訊ねる。


「水と火がほんのちょっぴり、だそうです。

 水の下級は練習して少し使えるようになったんですけど、火の下級はまだで……」


「は?どういうことだ?

 治癒魔法は水火または水火土の複合魔法だろう?

 火の下級が使えないのに、治癒魔法がいきなり使えるとかアリなのか?」


 デ・シーカ先生は首をひねった。

 2属性以上の適性を持っている人でも、単独属性の下級からそれぞれ練習し、中級がそれなりに使えるようになり、魔力のコントロールが身についてから複合魔法を下級から習うことになってる。


 エレンは「と言われても?」って感じで、きょとんとしている。


 なんで光魔法が打てるのか全然わかってない私としては、エレンに圧倒的な親近感を感じる!


「もしかして、その理屈のあわなさもコミで、神殿が『聖女候補』と言い出したのかもですね」


 ヨハンナが納得したように頷いた。


「あー……

 魔導理論に合わないエレンの治癒魔法を『女神の奇跡』ということにして、信仰の象徴として担ぐ、というわけか。

 なるほど、ありそうだな。

 さすが俺が認めた『面白い女』だ!」


「みぎゃああああああ!」


 本日一発目のファビアン殿下の俺様セリフに、ヨハンナが悲鳴を上げる。


 殿下は楽しそうに笑って、「そんな悲鳴を上げたら、馬がびっくりするぞ」とからかった。


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☆★異世界恋愛ミステリ「公爵令嬢カタリナ」シリーズ★☆

※この作品の数百年後の世界を舞台にしています
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