でもわたくし、「真実の愛」って素晴らしいと思うの
「……でもわたくし、『真実の愛』って素晴らしいと思うの」
ギネヴィア様は静かにおっしゃった。
ヨハンナも含めて皆、「え?」と驚く。
「だって、身分に関係なく、わたくし自身を好きだと言ってくださる方がいらしたら、とても素敵じゃない?」
ギネヴィア様はキラキラっとした笑みを浮かべられた。
「でもギネヴィア様、モテモテでいらっしゃるじゃないですか」
舞踏会の時、各国のイケメン貴公子に囲まれてらしたのを思い出して言う。
「あれこそ社交辞令というものではなくて?
いろいろと言葉を尽くして褒めてくださるけれど、個人的に好意を持っているとかそういうことはどなたもおっしゃらないわよ?」
ギネヴィア様は可愛らしく首を傾げられた。
「あー……
陰ながら殿下をガチでお慕いされている殿方は相当数いらっしゃるかと存じますが、その思いを殿下に申し上げられるかというと、諸々ハードル高すぎではありますね」
ヨハンナが微妙な顔をする。
そっか。
どんなに好きでも、相手が皇女では、平民のように当人を口説いて交際ということはありえない。
まずは皇家に結婚の申し込みをしなければならない。
でも、王族でも自分の意志だけで勝手に結婚を申し込めるかというとそうではないだろう。
まず自国での根回しがあり、帝国と他の国々とで駆け引きがあり、それから正式な申し込みをし、受理されて婚約となる。
好きだとかなんだとか言えるのは、それからだ。
1年生3人は、お互い顔を見合わせた。
大変ですねと言っていいのか悪いのか、困っているような風だ。
それが可愛らしかったのか、ふふっとギネヴィア様は笑った。
「わたくしの話はとにかく……
帝国では過去に例がないからといって、これからもないとは限らないわ。
実際、わたくしと婚約していたフオルマ王太子は自国の子爵令嬢と電撃結婚されたのだし!」
この上なく晴れやかな笑みとともにギネヴィア様はおっしゃった。
余計、3人はなんて言っていいのか困惑しているけど。
こほんとヨハンナが咳払いをした。
「とはいえ、個人的には婚約者がいるイケメン貴公子と『真実の愛』というのはおすすめできないのです。
貴公子の実家だけでなく、体面を傷つけられた婚約者の一族からどちゃくそ恨みを買ってしまいますですからね。
さきほどちらっと申し上げた婚約破棄騒動も、婚約破棄した貴公子は後に投資詐欺事件に連座し、色々あってお家取り潰しとなっておりますのです」
「え、なにそれ!?」
それは初耳だった。
「実のところ、世間知らずの貴族を担いだ限りなく詐欺くさい投資話というのは、ちょいちょいあるのです。
普通は適当なところで話を畳んで逃げるですし、騙された側が表沙汰にしたがらないので捜査もしにくく、事件化するところまではなかなかいかないのですが。
それがこの件に限って、大スキャンダルに発展。
ということは、誰かががっつり証拠を抑えてしかるべき筋にタレコミかましたんだろなあ、一体誰だろなああああああ?なのです。
もちろん、普通に被害者の関係者が根性キメたのかもですが」
眼鏡をくいいっと押し上げながら、ヨハンナは皆を見渡した。
ひょあー……と、一同ドン引きした。
そんな風に言われたら、詐欺犯になった貴公子が悪い人達に担がれたところから、婚約破棄されて恥をかかされた令嬢の一族に仕組まれてたんじゃないかとか思ってしまう。
「やっぱり怖いんですね婚約破棄……」
「せやかて、誰が婚約されとるんか、うちわからへん……」
「わ、わたくしも……」
おろっとする3人に、ヨハンナは新たなページをめくってみせた。
「と!ここで、『学院で恋をするならこのイケメン貴公子だけはやめておけ!ランキング』といきたいと思います!
あ、殿下とミナには、適宜コメントをお願いいたしますのです」
「なにその謎ランキング!!」
思わずツッコミ入れてしまった。
自分もツッコミたかったのか、アデル様がめちゃめちゃ頷いてくださる。
「くふふふふ……
めんどくさいのでさくっといきます1位からです!
みなさま、ドラムロールを脳内でお願いしますのです!」
と言いながら、ヨハンナはめくった。
確かにドラムロールの音、口で言うのは難しい。
「第1位、エドアルド・ブレンターノ様2年生!!」
左側にエドアルド様の似顔絵、右側に「スペック表」として、「ブレンターノ公爵家次男」「美しすぎてついたあだ名は『精霊様』」「婚約者:ウィラ・パレーティオ」「1年飛び級で入学した魔導工学の天才」等々書いてある。
「「あああ!」」
エレンとヒルデガルト様が声を上げた。
ちょっと顔が引きつってる。
「もしかして、エドアルド様とお話した?」
私が初めてエドアルド様とお話した時、熱いウィラ様語りで、夕ご飯を食べそびれかけたのを思い出した。
2人はこくこく頷く。
「えっらい綺麗な人がおるな思うてつい話しかけたら、いつの間にやら婚約者のウィラ様いう方がどんだけ素晴らしい方かいう話になって、絵姿見せてもろうたりしました。
確かにめちゃくちゃ美人やし、強うてかっこようて優しゅうて可愛らしいとこもあって、凄い方やな思うたけれど、なんというかその、えらい長話で……」
「私も……『素晴らしい方なんですね』しか言うことがなくなって……
最後、ちょっと気が遠くなりました……」
ヒルデガルト様も遠い目になる。
「それがエドアルド様の通常形態なのです。
きゃー凄い美形!と思ったら、婚約者が好きすぎる系男子。
学院生活には罠がいっぱいなのですよ!!」
くあっと眼を見開いて、ヨハンナは力説した。
なるほど、と3人が納得する。
私も納得した。
「というわけで第2位!じゃかじゃーん!!」
第2位は、オーギュスト様だった。
エドアルド様の時と同じく似顔絵とスペック表が書いてある。
「オーギュスト様、一度、声をかけていただきました!
うっとりするくらい素敵な方で……」
ぽ、と頬を染めてアデル様がおっしゃった。
他の2人も、「うちもうちも!」「王子様みたいな方!」と頷く。
オーギュスト様、こないだお話した時はヒルデガルト様、アデル様のことはよくわからないっておっしゃってたのに、あの後、速攻で3人ともチェックしたのか。
仕事が速すぎる系貴公子って呼んでもいいかな……
「オーギュスト様の解説は、殿下にお願いしてもよろしいでしょうか」
ギネヴィア様は、微妙な顔をして頷いた。
「彼はね……
理想の王子様のように振る舞って、女子にちやほやされるのが趣味、という人なの」
「「「はいい??」」」
エレン、そんな趣味がこの世にあるんかーい!って顔してる。
「言い換えると、本気で来る気配がちょっとでも見えたら、すーっと逃げるのね。
ほんと、見事なくらい。
なので、彼は学院では『鑑賞枠』とみなされています。
エミーリアというお似合いの婚約者がいますしね」
「オーギュスト様、ほんっと素敵な方なんだけど『見えてる地雷』なので……
あの方にガチ恋して苦しんでも、たぶん誰も同情してくれないと思う……」
私からも補足しておく。
あの方も駄目なのか……と、3人がしょんもりする。
というわけで、ヨハンナは第7位まで、イケメン貴公子と言える方だけれど、素敵な恋愛に不向きな男子生徒を挙げて解説していった。
こうしてみると、イケメン貴公子なにげに多い。
地雷まみれな気もするけれど!
「夢も希望もないとはこのことかいう勢いやけど……
逆に、この方はおすすめとかそういうのはあらへんのです?」
エレンがすがるような目で、ギネヴィア様とヨハンナを見た。
「そこは、それぞれご自身で見つけないと。
……ああでも、ファビアンはおすすめよ。
癖は強いけれど悪い子ではないし、婚約もしていないし」
「「「いきなり皇子殿下!?」」」
またまた3人、声が揃った。
「ファビアンは、母方が貴族ではないし、陛下の思し召しが深いから、進路も結婚相手も自分で選べる、例外的な立場なのよ。
望まれれば婿入りもできるし、ひとり立ちすることもできる。
いずれにしても、ファビアンの気持ち次第だもの」
3人はお互い顔を見合わせた。
ファビアン殿下、ギネヴィア様への態度はとにかく、絵に描いたような「イケメン貴公子」だけれど、なにか問題があるのだろうか。
※学院で起きた婚約破棄騒動とその後のゴタゴタについては、下記をご参照ください。
「元悪役令嬢ですが、悪役令嬢小説を書いて食べています」
https://ncode.syosetu.com/n6486gv/
テレーゼ父「いやいやいや、テレーゼとの婚約を破棄したクソ雑魚タマナシ野郎に、帝国草創期から続く名家・ファブリーツィオ侯爵である私が、わざわざなにかしたはずはないだろう。ジーヴス、君か?」
ジーヴス「まさか。私はただの執事です」
テレーゼ兄「私も心当たりはないな」
テレーゼ妹「(絶対こいつらじゃん……)」




