眉を細めのくっきりアーチにしたのが勝因ね!
というわけで、「ピンク髪ツインテヒロイン全員集合!」会だ。
図書館での予習復習を早めに切り上げて、皇族寮へ向かう。
顔見知りになってきた、護衛騎士の方に会釈をして、ギネヴィア様のお部屋に向かった。
「ギギギギネヴィア様!?」
居間のソファに腰掛けたギネヴィア様はぐりんぐりんの縦ロールに、ぱっきりとした強めのお化粧、黒のレースに黒真珠をちりばめた扇ももたれて、制服姿ながら完全に悪役令嬢だ。
いつものお人形のように可愛らしいギネヴィア様はどこ!?
ほほほ、と扇を開いて口元を隠すと悪役令嬢らしくにんまりと微笑まれる。
「どうかしら?」
どうかしらって言われても……
「あのその……めっちゃ悪役令嬢っぽいです……」
としか言いようがない。
「眉を細めのくっきりアーチにしたのが勝因ね!」
ギネヴィア様はご満悦だ。
そういえば普段はほんわり柔らかく整えていらっしゃるのに今更気がついた。
とかやっていると、ヨハンナが奥の化粧室から出てきた。
「ええええええええ、ヨハンナも悪役令嬢!?」
いつもはお下げにしている栗色の髪が、ぐりんぐりんの縦ロールだ。
めっちゃへんにょりした顔してる。
「よいわねよいわね!
でも、眼鏡をしたままなの?」
ギネヴィア様は仕上がりに満足そうに頷きながら、ちょっと片眉を上げてヨハンナにお訊ねになった。
もはや表情までいちいち悪役令嬢入ってる。
「殿下のためなら、たとえ火の中水の中ではありますが、眼鏡ナシだけはご容赦いただきたく……!」
ぴゃっと眼鏡を抑えて、ヨハンナがぶるぶると首を横に振る。
ギネヴィア様と同じく、強めなお化粧もしているけど、よく見るとそこまで悪役令嬢感はない。
丸眼鏡が雰囲気やわらげアイテムとして強いのかも。
「悪役令嬢っていうより、取り巻きの軍師役の令嬢的な??」
「ふふふ。
ヨハンナはわたくしの軍師だから、ちょうどよいわね!」
ギネヴィア様、めっちゃ上機嫌だ。
「というわけで、ミナもさっさとドリルにしてもらえー!なのです!!」
「はいいいいい!?」
ヨハンナに背中を押されて、化粧室にぐいぐい押し込まれる。
化粧室には、コテを持ったユリアナさんが待ち構えていた。
鏡の前のスツールに座らされてしばし──
縦ロールをハーフアップにして、ばっちりお化粧もしてもらってしまった。
こんなにかっちり巻いてもらったのは初めて!
そもそもしっかりお化粧するのも帝都の舞踏会以来だし、誰だこれ??って混乱しながら化粧室を出る。
「あらかわいい!
でも、全然悪役令嬢に見えないわね……
どうしてその髪型で、そのメイクで可愛らしく見えてしまうのかしら」
ギネヴィア様はめっちゃ微妙な顔になると首を傾げられた。
こくこくとヨハンナも頷く。
ユリアナさんの方を振り返ったら「手は尽くしたのですが……」と視線をそらし気味だ。
「えええええ……お嬢様っぽくないですか??」
せっかく綺麗にしていただいたのに、どゆこと……!?
「令嬢らしくはありますが、『悪役』な感じは1ミリもないのです……
ミナはツインテにして、ピンク髪ツインテヒロイン四天王vs.悪役令嬢ギネヴィア殿下とその手下のわたくしというかたちにした方がよろしかったのでは……」
しょっぱい顔のまま、ヨハンナが首を傾げる。
「それも考えたのだけれど、いきなりミナを一年生に混ぜるのもなんだし、3対3の方がバランスが良いと思って……
まあ、今日はこれで行きましょう。
そろそろ時間だわ」
確かに、悪役令嬢という感じは自分でもしない。
なんでだろと首をひねりながら、ギネヴィア様にくっついて階下の応接室に移動した。
用意が出来たところで、ユリアナさんに案内されて、3人が入って来る。
色味はそれぞれ違うけれど、3人ともやっぱりピンク髪で、ツインテールにしているから3人揃うとなかなかインパクトが凄い。
エレンは、入学式の時からなんかかぶってる人がいる!とは思いはしたものの、逆に声をかけにくくて話したことはないと言っていたけど、お互いぎこちない感じだ。
ちなみにこちら3人がぐりぐりドリルなのを見て、エレンは声を上げかけ、ヒルデガルト様は露骨にぎょっとし、アデル様は一瞬固まったけれど、全力で反応を殺していた。
3人がすっと並ぶと、それぞれカーテシーつきで自己紹介をする。
「……ファーモイル枢機卿預かり、エレン・ヴィロンと申します。
お招きいただき、ありがとうございます」
エレンは3人の中だと元気系って感じ。
眼がくりっとしていて、焦げ茶の瞳が生き生きしている。
背は私と同じくらいで160cmあるかないか。
ていうか去年の私より、エレンの方が全然ちゃんとしてる!!
ちょっとショック……
「ロックナー伯爵が養女、ヒルデガルト・クラーラと申します。
お招きいただき、まことに光栄に存じます」
150cmあるかないか、ギネヴィア様より小柄なヒルデガルト様はちんまりかわいい。
顔立ちも童顔で、青い眼もまるっこい。
声そのものに響きがあって、無限に聞いていたくなるような良い声だ。
「フィリップス子爵が娘、アデル・エスメラルダでございます。
お招きいただき、まことに光栄に存じます」
170cmを超える長身に細身のアデル様は、今日も眼にかぶさるくらい前髪を厚めに下ろしてらっしゃるので、目元が全然見えない。
少女小説だったら、前髪をあげたら、めちゃ美人とかそういうヤツだ。
私とヨハンナも改めて自己紹介をし、ギネヴィア様が軽くご挨拶されて着席となった。
私も今日は出席者という扱いなので、席に着く。
今日のお菓子は、好みがわからないので、甘いのとしょっぱいのと取り混ぜた焼き菓子が数種類と、刻んだ果物にキルシュを効かせたシロップを絡めたマチュドニアだ。
ギネヴィア様は3人に、今日は言葉遣いや作法は気にしなくてよいとまずおっしゃった。
名前で呼んでもよいかしらと訊ねたりして、少し場をほぐす。
お菓子を食べて、お茶も飲んで、3人が少しリラックスしたところで、おもむろにヒルデガルト様とアデル様に、この間の噴水の騒動は知っているかとお訊ねになった。
2人ともこくこく頷く。
というか、結構な数の人が見ていたこともあって、先週の学院はあの事件の話で話題沸騰だった。
私達2年生の下位貴族&平民組の女子だと、「アントーニア様どうしちゃったの?」と一応心配しつつ、影では「リアル悪役令嬢とか似合いすぎて面白すぎる」とちょっとネタにしちゃっているという感じだ。
公爵家の令息令嬢はエドアルド様とかほかにもいるけど、アントーニア様はその中でもお高い印象が強いし、いつもきっちり髪を巻いてらっしゃるせいもあって、悪役令嬢のイメージにはまりやすいのだ。
上位貴族組や他の学年がどう受け止めているのかは知らない。
「エレンはあの後、大丈夫だったかしら」
「はい。
特に風邪とかも引かなかったですし、ギーデンス様?にもその後会ってないです。
あ、公爵家から使いが来て、替えの制服を2着と下着もたくさんくれました。
神殿に寄付したとかなんとか、そんなことも言ってました」
あー、大人同士の話になっちゃったんだ。
ギネヴィア様は、なるほどと頷く。
この間のお茶会では、アントーニア様はえらくおとなしかったけど、神殿から抗議されたことで家から怒られたのかも……
「ていうか、ご本人は謝らないってことなんですか?」
エレンはぷんすかしている。
モノは補償してもらったとはいえ、当人の言葉は大事だよね……
「んん……
公爵家からの謝罪は済んだというかたちになったから、彼女自身があなたに謝るのは難しくなってしまったわね」
ギネヴィア様は残念そうにおっしゃった。
えー……とエレンは不服そうだ。
「わたくしからアントーニアに改めて謝るよう働きかけることもできなくもないけれど……
それをしたら、余計にこじれてしまうかも、とも思うの。
あちらから見れば『もう終わったことなのに』となってしまうでしょう?
まわりから見ても、あなたと関わり合いになってなにかトラブルになったら、幾度も謝罪を要求されるかもしれないと思われて、お友達が作りにくくなってしまうかもしれないわ」
それでもアントーニア様に謝らせたいかとギネヴィア様はエレンにお訊ねになった。
エレンは不承不承ながら、首を横に振る。
「いずれにしても、皇族や上位貴族であれば、他の生徒に暴力を振るってよいわけではありません。
もしそういう目に遭ったり、そういうことをしている人を見たら、わたくしでも、ミナでもヨハンナでもよいからすぐに知らせてくださるかしら」
ギネヴィア様は、3人それぞれと眼を合わせながら、いつもの笑顔で告げられた。
3人がそれぞれ「わかりました」と、少し安心したように頷く。
「殿下、その姫様スマイルは悪役令嬢度が下がってしまいますのです!」
ヨハンナがすかさず突っ込む。
あらいけない、とギネヴィア様は、両手で口元を抑えた。
え?どういうこと?と三人が視線を交わす。
「うふふ。
今日のこの髪型は、悪役令嬢のつもりなの。
みなさん、少女小説のヒロインのようにされてるでしょう?
わたくしは、悪役令嬢に憧れているの!」
「ええええ?」と声をもらした3人に、ほほほ、とギネヴィア様は扇で口元を隠して笑った。
悪役令嬢度がぎゅんと持ち直した気がする。
今更遅いんじゃとか言わないよ!!




