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もしかして、私がわかってないだけで、今日のお茶会、実は大バトルだったんだろうか

 そんなこんなで、あっという間に最初の一週間が終わってしまった。

 2年生になると、必修の授業が減って選択できる授業の幅が増える。

 エスペランザ語の授業と魔導理論の座学を中心に、歴史系の授業を多めにとった。

 1週目はほぼガイダンスだったけど、本格的に授業が始まると、予習復習が結構大変かも……


 引き続き侍女修行もある。

 まずは、アントーニア様ほか、例の令嬢方のお茶会のお手伝い。

 こないだの様子からして、バッチバチに火花散ったりしたらどうしようって、びくびくしながら招待状を出し、以前のお茶会の記録を参照して、お茶や茶器も突っ込まれないよう注意した。

 茶菓子は、アントーニア様のお好みにあわせて、ナッツを混ぜて焼いたメレンゲ菓子など焼き菓子を数種類、あとは季節の果物だ。


 アントーニア様とお友達の皆さんをゲストに迎えたお茶会は、いかにも高位貴族の令嬢のお茶会らしく、いかにも優雅に、粛々と進んだ。

 噴水突き落とし事件の話なんて一切出ない。


 お友達の令嬢の中に刺繍が得意な方がいらして、春休み中の作品などをお持ちになっていた。

 私も見せていただいたけれど、確かに凄かった。


 「生命の樹」と呼ばれる、大きく枝を広げた樹の図案を刺したものだ。

 樹そのものの表現も緻密だけれど、枠の部分がまた細かくて、色とりどりの花を散りばめた草花模様が絡まり合いながら連なっている。

 大きさは1m四方ほどもあり、糸もステッチも細かく使い分けている。

 これはもう手芸じゃなくて芸術じゃないかって勢いで、いつまでも見ていられる。


 そこから結婚式のヴェールの話になった。

 昔は貴族の娘は、母親に習いながら、自分の結婚式のヴェールを何年も前から刺繍するものだったそうだ。

 今は職人に発注することが多いけれど、少しくらいは母娘で刺繍する習慣は残っている。

 そのヴェールの柄の話や進捗状況、婚約者のノロケやらで、令嬢らしく盛り上がる。


 アントーニア様はあまりご自身からはお話されなくて、ちょっと意外だった。

 令嬢方が、アントーニア様の婚約者であるヘルマン様を、かっこいいし秀才だし優しいしとあれこれ褒めるのにも、曖昧な笑みを浮かべるばかりで反応は薄い。


 お茶会の終わり際、ギネヴィア様は今年の一年生には「ユニークな生徒」が多いようだから、追い追い茶会に招いて、学院での過ごし方について自分から伝えていくつもりだとさらっとおっしゃった。

 「ご立派ですわ」と令嬢方が口々にギネヴィア様を褒めそやす中、この時もアントーニア様はほのかな微笑を浮かべたまま、なにもおっしゃらなかった。

 

 一年生の件、要するに、跳ね返りがいたとしても、アントーニア様達は手を出すなということ?なのかな??とお茶会の後、ギネヴィア様にうかがったら、「そのつもりだけれど、あちらがどう取るかはまた別の話なのよね」と、少しお疲れの様子でおっしゃった。


 ギネヴィア様のお母様のご実家のバルフォア公爵家と、アントーニア様のおうちであるギーデンス公爵家は、昔っからギスギスしがちなんだそうだ。


 帝国成立以前の暗黒時代、バルフォアとギーデンスは隣同士の国だった。

 でも、魔獣の勢いに負けて徐々に国力が落ち、ギーデンスの属国のようになっていたバルフォアがいち早く皇家に帰順し、皇女の降嫁とともに最初の公爵家となったのだ。

 ギーデンスも数年遅れて帝国に併合され、こちらも公爵家となったのだけれど、併合のときに揉めたこともあって公爵家の序列では下の方だ。

 そのへんでまあ……色々と……色々あるらしい。


「で。皇太子妃殿下ベアトリーチェおねえさまはギーデンスの方でしょう?

 男子もお産みになったのね。

 まだ小さいから属性は確定していないけれど、魔力は強いようだし、成長したら四属性となる可能性はかなり高いって言われているの。

 本当に四属性なら、次の次の皇帝はその子になる。

 というわけで、なにかとこう、意気軒昂なのよね……特にバルフォアにゆかりがある者に対して」


「イキってるってことですね!」


 つい言ってしまったら、ギネヴィア様はちょっとお笑いになった。


皇太子妃殿下おねえさまご自身はそういう方ではないからこそ、皇太子殿下おにいさまが最初の妃として選んだのだけれど。

 メンツがどうのこうのでぶつかり合うのは上も下も同じかもしれないわね」


「はえー……大変なんですね」


 皇太子妃ってやっぱり大変なお立場だろうし、面倒事は減らしたいだろうに、実家に勝手にイキられたりするとか、結構嫌な状況のような気がする。


「そうだ、明後日は、ピンク髪ツインテヒロインのお茶会よね。

 少し考えていることがあるから、早めに……そうね、1時間くらい前にわたくしの部屋に来てくれる?」


「では2時前にお伺いします。

 あ!エレンと後のお2人……ヒルデガルト・クラーラ・ロックナー伯爵令嬢と、アデル・エスメラルダ・フィリップス子爵令嬢、どちらも伺いますとのお返事でした」


 最初、あとの2人の名前がわからなかったけど、女子の動向にめちゃくちゃ詳しいオーギュスト様におたずねしたら、その場で名前も家も教えてくださった。

 さすがすぎる。


 小柄な方がヒルデガルト様で、この方はロックナー伯爵家の養女なのだそうだ。

 もともと伯爵家の縁続きの方で、両親を早くに亡くしたことから養女に迎えられたらしい。

 ずっと領地にいらっしゃって、オーギュスト様もほとんど知らないそうだ。


 のっぽな方がアデル様。

 こちらは法曹系官僚を代々務めている子爵家の次女なのだけれど、帝都の社交にはほとんど出ていなくて、これまたオーギュスト様でもよくわからないそうだ。

 帝都にいる令嬢なら、普通は園遊会など昼の催しには学院入学前から顔を出す。

 アデル様の姉や妹はそれなりに見かけたことがあるのにアデル様だけ見かけたことがないとのことで、なにか事情がある方かもしれないとおっしゃっていた。


「席順はどういたしましょう」


 ギネヴィア様の侍女のユリアナさんが首を傾げた。

 普通なら家の爵位順だけど、エレンは今のところ「ファーモイル枢機卿預かり」というよくわからない立場だから、どういう順になるのかよくわからない。

 

「そうね……

 私の右にヴィロン、次にヘルマン、フィリップスとしましょうか

 ミナとヨハンナは私の左に」


 エレンを筆頭にということだ。

 神殿に敬意を払うということか。

 承りましたとユリアナさんが頷く。


「明後日は楽しみだわ」


 ギネヴィア様はいかにも肩が凝ったという風に、腕を上半身ごとぎゅむーっと伸ばしながら苦笑された。


 ……もしかして、私がわかってないだけで、今日のお茶会、実は大バトルだったんだろうか。

 フオルマ王太子との婚約が空中分解というか爆発四散して、次が決まっていないギネヴィア様の前で、婚約者とか結婚式のヴェールの話?ってちょっと引っかかりはしたんだけど、もしかしてそこ?

 ギネヴィア様はにこにこ聞いてらしたし、誰も意地悪な顔とかしてなかったから、盛り上がってるなーとしか思わなかったけれど。


 後でユリアナさんに聞いたら、「子犬がきゃんきゃん吠えて少々うるさかったのはとにかく、レディ・アントーニアの守りが堅すぎてどうにもこうにもでしたね」と苦笑していた。

 なるほど。

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☆★異世界恋愛ミステリ「公爵令嬢カタリナ」シリーズ★☆

※この作品の数百年後の世界を舞台にしています
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