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幕間 塔の研究室

「というわけで、大変だったんですよ〜……」


「ほへー……

 ファビアン、そんな感じになってるのか」


 夕方、塔の研究室に魔法の相談にいったついでに、アルベルト様にお昼のことをお話してしまった。

 なんでか当然のようにアルベルト様のお膝にだっこされてる。

 名ばかり令嬢とはいえ、お膝抱っことかされていいんだろうかってちょっと思うけど、だっこしてもらうとぽわぽわくんにゃりに気持ちよいので、来なさいって言われるとつい……


 お話しながら、アルベルト様は、二つ結びにした私の髪の先を一束取って、くるくる回して遊んでる。

 膝に乗ってるのは私の方だけど、なんだかアルベルト様の方が猫みたいだ。


「ファビアン殿下、小さい頃ってどんな感じだったんですか?」


「んー……遠目に見てた分には、小柄なのにやたらイキってる子、て感じだったな。

 よくギネヴィアに突っかかって、返り討ちにされて泣かされてた」


 わりと想像がついて、ちょっと笑ってしまった。

 ギネヴィア様、見かけはお人形みたいだけど、中身はめちゃくちゃ気が強いんじゃないかって気がだんだんしてる。


「ファビアンの母上は平民なんだ。

 今は知らないけど、俺がいた頃は陛下のご寵愛が深かった。

 でも結局正式な妃にはならなくて、確か『メリッサ夫人』て曖昧に呼ばれてたはずだ」


「え、そういうのアリなんですか!?

 魔力がない方ってことですよね??」


 皇家は魔力を重視すると再々聞いている。

 仮に「メリッサ夫人」に魔力があったら、私みたいにどこかの貴族の養女になって貴族籍に入っただろうし、どういうこと?ってなった。


「『ライト』は使えるんだったかな?

 でも属性魔法は一切使えない方なんだそうだ。

 先例はないわけじゃないが、あんまりアリじゃない。

 もともとは郷士の娘で、陛下が地方に行幸した時にたまたま出会って連れ帰ったとかなんとか……て話で。

 ファビアンに魔力がなければ、いずれ陛下のお気持ちが離れたところで宮廷から下がって、母子2人、目立たないよう暮らすことになっていただろう」


 アルベルト様は遠くを見るような眼になった。


「叔母上は叔母上で難しいお立場だが、公爵家出身の皇妃だから、『メリッサ夫人』とは住むところも仕える人も衣装もなにもかも違う。

 ギネヴィアとファビアンだってそうだ。

 年が近い分、待遇の差がわかりやすかったんだろうな……」


「なるほろ……」


 魔力がなければそもそも皇子として認められなかったし、優れた魔力があっても他の皇子皇女とは差をつけられ続けるということか。

 お気の毒ではある。

 だからといって、ギネヴィア様に突っかかるのは勘弁だけど!


「ま、ファビアンが3属性でよかったよ。

 4属性だったら、学院に入る年まで生きていられなかったかもしれないからね!」


 アルベルト様はキラキラしく笑った。


 皇帝になれるのは、4属性持ちの皇子だけ。

 そんな後ろ盾もなんにもない皇子が、皇位継承権だけぽんと持ってても、速攻邪魔者扱いで、ないないされてしまいそう……

 全然洒落にならない予感がががが!


「……アルベルト様、笑い事じゃないですよ?」


 微妙な立場なのは、アルベルト様だってそうなんだし。

 今はこうして仲良く一緒にいられるけど、いつどういうことになるのかわからない。


 ぷくーと膨れてみせると、アルベルト様はほっぺを突っついてくる。

 つい、指を押し返すように、ぷっくぷくに膨らませたりして遊んでしまう。

 にっこにこのアルベルト様に間近で見つめられていると、にゅふにゅふになる。


「ああああああ!魔法の練習!!!

 魔法の練習しにここに来てるんですからッ ちゃんとやらないと!」


 今日こそは、「防御結界」の練習をしないと!


 ぴゃっとアルベルト様のお膝から飛び降りて距離を取った。


「そうだな、結界は早く出来るようになったがいいしな……」


 アルベルト様はのろっと、立ち上がった。


「といっても無属性魔法は結局、魔力の流れを気合で外に出すだけだからなぁ……

 とりあえず、やってみせるから、それを見てもらうしか?」


 無属性魔法でも「手紙鳥」は相手を指定するためにエスペランザ語で書いた魔法陣が必要だけど、「ライト」とかは「光」を強くイメージするだけだ。

 呪文も魔法陣も特にない。


「俺は普通に『透明な壁』をイメージして出すんだけど……

 ジャレドは『こっち来んな!』ってイメージで出すって言ってたな……」


 ジャレドさん、ここの若手研究員でアルベルト様を「研究」している人だ。

 アルベルト様は自分の「お目付け役」だと言ってたけど、なんだかんだで一番親しいみたい。


 アルベルト様は、すっと右手の手のひらを私に向け、少し眉を寄せて集中する。

 

 4、5歩離れてる私達のちょうど中間に、キランと輝く「壁」が出現した!

 大きさは普通のドアと同じくらい。


「こっちに来てみて」


「はーい」


 「壁」をノックみたいに軽く叩いてみたら、ちゃんとモノに触れる感触がある。

 何度かコンコンしてたら、ヒビが走って、はらはらと崩れた。


「わりと脆いんですね」


 質問しながらもう一歩アルベルト様に近寄ったところで、身体がなにかにぶつかって、バインと弾き飛ばされる。

 ちょっと後ろによろめいた。

 

 なんにもないようにしか見えないけど、これも防御結界!?

 手探りにコンコンしてみると、さっきと音も手応えも違う。

 さっきのが薄いガラスのドアなら、今度はぼよんぼよんして分厚いゴムの壁みたいだ。


「んふふふふ……

 基本は透明なガラスの壁って感じだけど、練習すれば、ツヤありツヤ消し、強度や形状、弾性も変えられるんだ」


「すごッ!!

 あ。そういえばエドアルド様の『結界石』は、ドーム状でした!

 アラクネの粘糸を受けるのに使ったりして」


「なるほどなるほど。

 彼にも使いこなし方を聞いておくといいね。

 例えば、ツヤありにしとけば、結界を張っていることを相手に見せることができるだろ?

 ツヤなしにしとけば、相手に知られずに防御することができる。

 ただし、一枚で何回も強い攻撃を受けられるよう強度を高めようとすると、集中力と魔力をやたら食うから、攻撃を一回弾くくらいにしておいて、即張り直す方が楽かな……

 発動が速いしね」


 アルベルト様は説明してくれた。


「あ?

 筒状にすれば、相手を閉じ込めるのにも使えるか」


 言いながら、アルベルト様は新しく、きらんと光るツヤあり防御結界を張る。

 高さ2m、直径2mくらいの円柱にアルベルト様と一緒に閉じ込められるかたちだ。

 ぺしぺし手のひらで叩いてみると、硬い。


「くふふふふ……

 ミナつかまえたーッ!」


 変なテンションのアルベルト様が、後ろからむぎゅーって抱きしめてくる。

 ついでに耳を噛まれた!


「ちょちょちょちょっと!

 くすぐったいからくすぐったいから!!」


 抱えられたままげしげしと結界を蹴っていると、普通に割れて、あれ?ってなった。

 えええ……とアルベルト様はびっくりしてる。


「それなりのダメージが入らないと割れないようにしたつもりだったんだが……」


「農家育ちを舐めたらいかんのです!」


 きぱっと胸を張って言うと、アルベルト様は、舐めない舐めてない舐めようにも舐められない…と眉尻下げてしょんもりしたので、よしよしと頭を撫でてあげた。

評価&ブクマちょうだいしておりました!

ありがとうございますありがとうございます…

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☆★異世界恋愛ミステリ「公爵令嬢カタリナ」シリーズ★☆

※この作品の数百年後の世界を舞台にしています
― 新着の感想 ―
[一言] こやつら、魔術描写の合間というか乳繰り合いの合間に魔術描写というか、いちゃこらいちゃこらと…! と、思いつつも、なんかこう、やっぱ羞恥もジリジリと混じり込む焦燥感も感じないッ おこちゃま恋…
[良い点] うっひゃー♡甘い甘〜い(//∇//)
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