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その展開、あまりに下剋上ヒロイン小説的なのです

 エレン──「エルデの下町のフツーのパン屋の娘やから、エレンて呼んでください!」と言われたので、そう呼ぶことになった──にどこの寮か訊ねたら、伯爵家・子爵家あたりの子が入る寮とのことだった。

 エルデというのは帝国が最初に都とした歴史のある街で、今も帝国の西側の中心地だ。


 エレンが入っている寮は少し離れたところにあるので、こっちもそれぞれ名乗り、話しながら足早に向かう。

 リーシャは授業があるので、やばい遅れるとバタバタ駆けていった。


 エレンは、神殿が開設している平民向けの学校に通っていたら治癒魔法が使えることがわかり、神殿が引き取って「聖女」として信仰のシンボルにしたいって話になっているらしい。

 てか、魔力があるってわかって、貴族の養子じゃなくて神殿が引き取るってコースもあるのか。

 初めて聞いた。


「その展開、あまりに下剋上ヒロイン小説的なのです」


 ヨハンナが言うと、エレンは、「せやろ!!」と嬉しそうに頷いた。


「うちもそない思うて!

 神殿で修行とかさせられんのかな?って思うてたら、魔法と行儀作法習ってこい言われて貴族学院に入ることになったし、ここは素敵なイケメン貴公子と出会ったりしたらいいなあああああ!って!!」


「「なるほろ……」」


 思わずヨハンナと声が揃った。


 やっぱりというか案の定というか。

 私より少し赤みが強いけど、やっぱりピンクっぽい色の髪だし、確かに下剋上ヒロイン小説にありがちな展開だし、そりゃテンションあがるわ。

 そういえば「悪役令嬢に噴水に落とされる」って、鉄板のあるあるシーンだよね。


「入学2日目にして、噴水に突き落とされーまでキメてしまったですしね……」


 またまた同じことをヨハンナも思ったらしい。

 でも、本物の貴族学院で下剋上ヒロインって……大丈夫なの??


 エレンの部屋は2階の角部屋だった。

 エレンがノックすると、修道女が出てくる。


「まあ!エレン、どうしたの!?」


 30歳前後くらいの修道女が、腰から下はびしょぬれのエレンにびっくりして叫ぶ。

 かくかくしかじか……と、エレンが説明すると、「あなたの礼儀作法がなってないからだ」といきなりエレンを叱り始めた。

 下町の生まれだからだとか、こんなんじゃ聖女になれないとか……

 噴水突き落としをくらっても、気持ちでは全然負けてなかった、エレンの青い瞳がどんどん暗くなっていく。


「あのー……このままじゃエレンが風邪引いちゃいますから、とりあえずお風呂に入れた方が……」


 もそっと言うと、修道女はさらに眼を吊り上げた。


「それにしても聖女候補を噴水に突き落とすだなんて!

 公爵家に抗議しないと!!」


 そのまま修道女は、外に飛び出していった。

 いや、だからその前にエレンのお風呂!


 私達の寮だと、お風呂は1階にある大浴場、シャワーやトイレは各階にあるのを皆で使っているけど、この部屋は専用の洗面所とバス・トイレがついている。

 とりあえずエレンに濡れたものを脱いでもらいながら、熱めのお湯を張って、お風呂に入ってもらった。


 部屋は広めで、ベッドが2つ置いてある。

 真ん中に大きいの、すみっこに侍女用の小さいの。

 さっきの修道女と一緒に暮らしてるっぽい。

 お目付け役というところなんだろうか。

 入った時は、部屋広くてよいなと思ったけど、普通の相部屋よりも、しんどそう……


 部屋の中には、お湯を沸かせる設備はないみたいだ。

 外に出てみると廊下の引っ込んだところに、寮の小間使の詰め所があったので、お茶をポットで頼んだ。

 ちょうど、エレンがお風呂からあがった頃にお茶が来る。

 

 エレンが小さい方のベッドで毛布にくるまり、私達はそのへんに座ってお茶にした。

 ……そっちがエレンのベッドなんだ!?

 

「ていうか、さっきのアレはどういう流れだったの?」


「芝生で、眼鏡の先輩がサンドイッチ食べてたんで、ここで食べてもいいんですか?芝生で食べると美味しそうですね!とかお話ししてたんですよ。

 そしたら、縦ロールの悪役令嬢みたいな人が怒って来て……

 私と喋ってたことを『だらしない』とか、眼鏡の先輩をめっちゃ罵ってきたんで、ちょっとお話してただけなのになんなん?てなって」

 

 ぷんすかと怒りを再燃させながら、エレンは説明してくれた。

 それにしても下剋上ヒロイン小説の序盤、そのまんまだ。

 ……プレシー様、眼鏡をかけてる穏やかそうな方という印象しかなかったけれど、そういえば顔立ちは整ってる。

 エレンの中では、インテリ眼鏡枠になってそう。


「あの方、アントーニア・ギーデンス様って言って、公爵令嬢だから……

 お姉さまが皇太子妃で、マジのガチで偉い人だから……

 学院生活の開幕にこんなことになってほんと気の毒だけど、『悪役令嬢』とかあんまり人に言っちゃだめだよ」


 ぶるぶるぶるっとヨハンナと一緒に首を横に振ってみせる。


 それにしても下剋上ヒロイン小説とリアルの学院生活を思いっきり混同してるっぽいエレンにどう説明したらいいんだろう。

 アントーニア様がまさに悪役令嬢なことをされてるし、小説とリアルは違うんですって言っても説得力が全然ない。


「ていうか、アントーニア様、なんであんなにキレてたんだろ」


 さあ?とエレンは首を傾げた。


「アントーニア様、プレシー様のお兄様と婚約されてるので、そのへん絡みなのかも、なのですが……

 でも、去年はあんなことをされる方ではなかったですし、ちとよくわからんですよね」


 ヨハンナも首を傾げる。

 でも、将来の義理の弟だからって、プレシー様が知らない一年生と話してただけでいきなりキレるとかある??


「眼鏡の先輩、プレシー様っていうんですね!」


 エレンがテンション上げてきたので、ヨハンナと2人で、アントーニア様がアレだし、しばらくこっちから関わらない方が絶対いいから!と説得した。


「ギネヴィア様がエレンをお茶会にお招きするっておっしゃったから、その時詳しいことを話せばいいのかな……

 あ、エレンはいつが空いてる?」


 予定を聞いたら、放課後ならいつでもよいということだった。

 皇女様のお茶会と聞いて、さすがのエレンもちょっと尻込みしたけれど、ギネヴィア様はお優しい方なので素直にお答えしていれば大丈夫だから、と、去年の私のお茶会デビューの時の話とかもする。

 カーテシーのやり方もわかんなくて、ギネヴィア様に教えていただくとか、今思うとありえなさすぎだよね……


 そんなこんなで、エレンはとりあえずお茶会まではプレシー様とアントーニア様に関わらないようにすると約束してくれたので、さっきの修道女が帰ってくる前にと引き上げることにした。

 さっきの修道女、案の定、色々と斜め上にキツいらしい。

 神殿とか「聖女候補」とかよくわかんないけれど、とりあえず愚痴くらいなら聞くしと慰めた。


 帰り道、この際、ウラジミール様とマクシミリアン様を追っかけてた2人もエレンと一緒にお茶会に招いて、下剋上ヒロイン小説と学院生活の違いを説明しておいた方が良いかもという話になった。

 ギネヴィア様に、エレンから聞いたあれこれを報告して、「あと2人、ピンク髪ツインテヒロインぽい子がいるようだ」とお話したら、ぜひ3人揃って招きたいと前のめりにおっしゃった。


新たに評価を頂戴しておりました。

ありがとうございますありがとうございます…!

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☆★異世界恋愛ミステリ「公爵令嬢カタリナ」シリーズ★☆

※この作品の数百年後の世界を舞台にしています
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