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塔の研究室(2)

「は。まずはお土産をお渡ししないとって思ってたのに!!」


 テーブルの上にズタ袋を置いて、包みを出していく。


「おおおおおお?」


 まずは実家から。

 家で作った枝付きの干しぶどうや干しいちじく、アーモンドとか。

 木箱に入れた赤い貴腐ワインの小瓶と、カッチカチに焼いたビスコッティ。

 ビスコッティは母さんと一緒に焼いた。


「このワイン、何年か前にたまったまカビが良い感じについて、1回だけ作れた時の残りなんですけど……

 出発する日の朝、父さんがちょっと涙目な感じで『大事な人に飲んでもらいなさい』って出してくれたんです」


「父上……!!

 そんな貴重なものなら、祝い事の時にとっておくかな……

 ていうかミナ、父上や母上に俺のこと、話したの?」


「んー、母さんがこっそり『好きな人はできたの?』って聞いてきたから、『うん』って」


 公爵家のエドアルド様にもアルベルト様のことは言っちゃだめって言われたくらいだし、詳しいことは聞かないで!オーラを全力で出したけど。


「言ったのか……」


 まずかった?と思ったら、アルベルト様はなんかふしゅふしゅになってる。

 私がなんで?て顔になってたのか、アルベルト様は「えーと…」と口を開いた。


「たとえばだ。

 俺が……叔母上にミナのことを『俺の大好きな人だ』って言ったりしたら、照れるだろ?」


「照れます!

 照れ照れです!」


 めっちゃ頷いてしまった。


「だろ?

 なので俺も照れてる……」


 想像して、ちょっと私も赤くなる。

 了解!!のむぎゅーをしておいた。


 とかやってると、アルベルト様は、「もうちょっとミナとくっつきたい」とか言い出して、横向きに膝の上に抱き上げられてしまった。

 ちっちゃい子でもないのにって、流石に恥ずかしかったけど、腰に腕を回されて逃してもらえない。

 令嬢として、これはアリなのかナシなのか……たぶんナシの方な気もするけれど、ひっついてると、ぽわぽわと気持ちよいし、間近でお顔を見られるからいいかって、そのままお土産紹介を続けていく。


 といっても、あとは、都や帝都で買ったもの。

 ガラスペンとか珍しい色のインク、計算尺とかの文房具とか、髪紐。

 これいいなって思ったヤツをちょいちょい買ってしまったので、アルベルト様にどこで見つけたものか説明しながらお渡しした。


 誕生日プレゼントは、奥様に習いながら刺繍したハンカチとポケットチーフのセット。

 複雑な模様は無理だから、空色の生地に、藍色に金色が少し混ざった流れ星と、それより一回り小さなピンクの流れ星が仲良く空を飛んでいる感じの模様を刺した。


 アルベルト様はとっても喜んでくださって、ほっぺにちゅーしてくださった。


「そんでこれが例のノート!!」


 どういう情報がほしいか「手紙鳥」で指示を受けながら、村祭りが魔獣に襲われた時、私が光魔法?を発動したときの様子をまとめたものだ。


 ちょっと待て、お茶淹れよう、ビスコッティならコーヒーか?と、アルベルト様と一緒にコーヒーを淹れた。

 ビスコッティをカリポリしたり、コーヒーに浸したりしながら説明する。


 まず、私の地元、ヴェント村全体の地図や、祭りが行われた場所の図解。

 村の中心部ではなく、少し外れたところにある小高い丘の上で私達はいつもお祭りをしている。

 てっぺんの、花崗岩の岩盤が露出して、直径30mくらいの舞台みたいに少し高くなっているところで、入れ替わりながら中心に向かって螺旋を描くように、夕方から明け方まで、一晩中踊るのだ。

 この舞台、よくみると正円になっててちょっとびっくりした。

 自然なものじゃなくて、人の手が入ってるってことだよね?

 あと、真ん中に一箇所、それを囲むように4箇所、直径1mくらいの大きさで丸く凹んでいるところがある。


 アルベルト様は、食い入るように舞台の図を見ていた。


「……なるほど。

 それにしてもヴェント村の祭り、面白いな。

 セリカンの周辺のどこだったか、東方諸国の祭りで似たようなのがある。

 螺旋状の踊りで生の力を高めて、けがれを払うという話だったかな」


 セリカンだと大陸の東の端だから、村からだと馬車で旅して少なくとも3ヶ月はかかる。

 そんな遠くに似たお祭りがあるの?て、びっくりした。


「とりあえず、お祭りの中心になる舞台?に、文様とか刻まれてないのかなってよく見てみたんですけど。

 溝っぽいものもなくもないけど、たまたまそういう形に削れたのか、彫ったものなのかよくわかんなくて。

 上から俯瞰して見られればいいんですけど、近くの山とかからだと、木がじゃまになって巧く見えないんですよね……」


 例の白黒の龍でも彫ってあればアルケディアの遺跡ってことになって、色々つながったかもしれないけれど、なにしろ野外。

 あったとしても風化してしまったのかもしれない。


 直接、アルベルト様に見ていただければ、色々わかることがあるんじゃないかと思うけど、そうもいかないのがががが。


 アルベルト様は「この研究所の主塔から出られない」って以前おっしゃっていた。

 魅了の問題で人前に出るのが難しいこともあるけれど、他にもなんだか事情があるようだ。

 私に言えることなら説明してくださっていると思うので、こちらからは聞いてないけど……


「あ、で。

 ここからが、その場にいた人から聞いたことです」


 ページを繰る。


 事実関係については、領主様が一度調査してまとめた報告書を最初に書き写した。


 祭りが盛り上がり始める夜の8時ごろに十数頭の魔獣が襲ってきた。

 一番大きいのが魔羆で、立ち上がったら3mくらいのが1頭。

 それから子牛くらいの大きさのイービル・ボアが3頭。

 要するにイノシシが瘴気を受けてヤバい感じになったやつだ。

 残りは、野犬が魔獣になったのとか、魔烏とか小型のだ。


 魔獣は、普通の獣のように脅して追い払うことができない。

 殺されるまで、どんなに傷つけられても人を殺し続ける。

 十分な準備がなければ、イービル・ボア3頭だけでも小さな村なら壊滅しかねない。

 といっても、こういう中型魔獣は、小型の魔獣がうろちょろしだしてからおもむろに出現するので、小型の魔獣が増えだしたら、領の騎士団を呼んで対処してもらうんだけど、この時はいきなりまとめて出てきたのだ。


「ふむむむむ……」


 まずは母さん、少し離れたところにいた父さん、幼馴染の子達やその親、村長さんに改めて聞いて回った話のメモを見せる。


 共通しているのは、ちょうど舞台の中央に立ってた私の左手から光の弾みたいなのが出て、魔獣が吹っ飛んでたということだ。

 改めて確認したけど、誰も魔法陣は見ていない。

 エスペランザ語なんて全然知らなかったんだから、そもそも魔法陣なんて出せたはずがないけど。


 アルベルト様はノートをめくっていった。

 読むのめっちゃ速い。


「アラクネの時はデカいのを一発だったけど、この時はそこまで大きくないのを乱射してたのか。

 で、倒し尽くしたところで、魔力切れ起こして失神と……他にも倒れた人が何人かいたんだな。

 あれ?この子の話は?

 男爵家の報告書にはなかったぞ」


 幼馴染のフリーダの話を書き留めたページを、アルベルト様は少し眉を寄せて指した。


「ああ、フリーダは、私がうっすら光る、光の柱みたいなのに包まれてたって言うんですけど、他の人はみんなそんなの見てないので、なに言ってんの??って感じになっちゃってたんですよ……

 それで領主様の調査でも漏れてたのかも」


 猟師の娘のフリーダは「マジのガチで見たんだってばさ!」と、まだぷんすかしてた。

 彼女の魔力は?と訊ねられたけど、フリーダやその家族が魔法を使えると聞いたことはないし、たぶん測定したこともないんじゃ?とお答えした。


「アラクネの時はどうだったんだろう。

 俺は気が付かなかったけど……」


「さあ……どなたもそんなことおっしゃってなかったですけど。

 今度、エドアルド様に確認しておきます?」


 遺跡で一緒にアラクネと戦ったウィラ様、ゲルトルート様、ミハイル様は卒業されたので、あの時の話をすぐに聞けるのは、エドアルド様だけだ。


「いや、見たのなら君にそう言っただろう」


 アルベルト様はノートをパラパラして、気になるところを読み返す。

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☆★異世界恋愛ミステリ「公爵令嬢カタリナ」シリーズ★☆

※この作品の数百年後の世界を舞台にしています
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