30.美味しい話には呼んでくださいなのです!(1)
ようやく舞踏会まで来ました! カルロス・クライバーの「美しき青きドナウ」をおひとつ…
New Year's Concert 1992 Kleiber [NHK Camera Angle]
https://www.youtube.com/watch?v=wCXAfcjhWm0&t=4565s
週明け、秋季授業最終週の月曜朝一に試験結果の発表があった。
先生方、土日を潰した採点と集計、お疲れ様です……
ヨハンナはまたしても全科目満点の総合1位!
萌えパワー凄すぎる!
春季に続いての1位はかなり注目を浴びて、今まで縁のなかった上級生にも声をかけられたりしてる。
そういうのは苦手らしく、全力で逃げ出しがちではあるけれど。
エドアルド様は魔法絡みの授業と数学、化学はほぼ満点だったけれど、その他はランク外。
総合18位で「とりあえずウィラの卒業式に出る権利は確保できてよかった」とほっとされていた。
在校生は成績優秀者しか卒業式に出られないからね……
私の総合点は53位。
あと簿記でギリギリランクインできた!
赤点もなかったけど、エスペランザ語や「魔導理論」はもうちょっと点取りたかったな……
最終週の授業は全体の振り返りと試験結果の講評だ。
できなかったところを潰しておかないと、後が怖いので、しっかりノートを取った。
あっという間に授業も終わって、土曜は卒業式と舞踏会。
卒業式は先生方と3年生、成績優秀な在校生だけで行われる。
その間に、出席しない在校生女子はドレスの着付け!
男子も正装だけど、着替えに時間はかからないので、運営委員会の指示で会場の設営を手伝う。
本館のホールの可動壁を全部はずして広げ、ずっと立ちっぱなしだとキツいので、休める場所も用意し、ついでに立食用のテーブルを並べるとか飾り付けとか色々大変らしい。
一方、化粧や髪もあるから、女子寮はもう戦場状態だ。
私もそうだけど、下位貴族の1年生だと、初めてイブニングドレスを着る子も多い。
化粧は化粧水と口紅を塗って眉を整えるくらいにし、髪は前髪は流して、後ろは3つに分けてそれぞれ三つ編みにし、うなじの上でぐるぐるっと巻いてピンで留めてもらった。
アクセサリーは、母さんや奥様が持たせてくれたものをエミーリア様に見ていただいて、今回はおばあちゃんの形見の、白瑪瑙のペンダントと揃いの耳飾りにした。
白瑪瑙そのものはそれほど高価な石ではないけれど、柄の出方がきれいだし、陛下主催の晩餐会や舞踏会といった最高の格式が求められる場でなければ大丈夫と言っていただいて嬉しかった。
これ、おじいちゃんがおばちゃんに贈ったものなのよね。
地元に瑪瑙が取れる川があって、納得いくまできれいな石を探して加工してもらったそうだ。
おじいちゃん!おばあちゃん!エミーリア様に褒めてもらったよ!
髪をしてもらったお返しに、リーシャにエミーリア様の魔法をかけたら、これはみんなに教えないと!ってなって、あっちに行ってぐいぐい、こっちに行ってぐいぐいと大変なことになった。
だいたい終わったかなと思ったら、卒業式に出てたヨハンナ達が戻ってきて、髪を巻きながら超特急で着付けをしてまたぐいぐいだ。
どうにかこうにか準備が整い、マントを羽織って本館に行く。
奥様から送っていただいたパンプス、全然歩き慣れてないので、ブーツで本館まで行ってパンプスに履き替え、仮設のクロークにマントとブーツを預けた。
鏡の前でヨハンナと最終チェックをする。
よし!エミーリア様のおかげで二人とも超かわいい!
まず2年生が入場、その後1年生がデビュタントの練習として列を組んで入場、最後に主役である3年生が登場となる。
1年生は、本館の2階の廊下に並んで待機だ。
エスコートが決まっている者が先に並び、あとは決まっていない者が男女別に並んで、先が動き出せば合流するかたちでペアを作る。
ウラジミール様が先に待ってくれていたので、ヨハンナを引き渡し、ちゃんと捕まえておいてくださいねと念押しして、私は女子列の後ろへ回る。
入場が始まり、列が進んで、初めてお話する方と当たった。
マクシミリアン・ヴェヴレン様という方で、文官系の子爵家の次男だそうだ。
普通に優しそうな方で良かった。
そのままエスコートしてもらって、入場する。
階段を降りる時は全然足元が見えなくて怖かったけど、マクシミリアン様が上手にエスコートしてくださって助かった。
広くなったホールは、普段は灯されていない大きなシャンデリアが明るく輝いて、花もたくさん飾られているし、いつもと全然違う雰囲気だ。
すごく、不思議な感じだった。
1年前の私がいきなりここに放り込まれたら、村とあまりに違う世界すぎて、怖くてびっくりして逃げだしたと思う。
でも、今の私は、緊張はしてるけど怖いとは思わない。
どう振る舞えばよいのかだいたいのところはわかっているし、なにが起きても、きっとそれなりに対処できるって思える。
たった1年間で、こんなに変わることって、あるんだな……
ホールの真ん中を空けて、左右に分かれて列を組んだまま待機していると、帝都から招かれた楽団の音合わせが終わったあたりで、卒業式を終えた3年生が色とりどりに装って、1組ずつ入場してきた。
司会が一組ずつ名を呼んで、それぞれに拍手が送られる。
ミハイル様の肘を取って現れたゲルトルート様は、赤い髪を高く結い上げ、艶のある深い緑色のドレス。
そして、素晴らしいお胸が、がっつりと!!
舞踏会用のドレスは基本的には胸を強調するものだし、不埒な目で見る人がいても、ミハイル様が即、視線で殺すしね……
キラキラ大増量中!のオーギュスト様にエスコートされたエミーリア様は深い蒼の髪を巻いて編み込まれ、銀色のエンパイア風ドレスをお召しだ。
大粒の真珠を花の房のように連ねた耳飾りをしていらっしゃる。
デビュタントの時にオーギュスト様に贈られた例の耳飾りかもしれない。
続いて、エドアルド様のエスコートでウィラ様がいらっしゃった。
いつもポニーテールにしていらっしゃる緑の髪の毛先を丸め、金色のスパンコールを縫い付けたリボンを巻きつけて留めてらっしゃる。
ドレスはカナリアイエローで、後ろに裾を引く細身のタイプ。
胸元に大きなアメジストのペンダントを飾り、手首には同じくアメジストのブレスレット。
絶対、あれはエドアルド様が自分の瞳の色に近いものを探してプレゼントされたものだ。
少し前、ウィラ様が、ご自分の方が背が高いのをエドアルド様が気になさらないだろうかともだもだされていたので、まずはエドアルド様に率直にお考えを伺った方がよろしいのでは的なことを申し上げたのだけど、堂々とハイヒールを履いて背筋を伸ばしていらっしゃる。
やっぱりウィラ様、かっこいい!!
ウィラ様ファンが早くもぶわっと号泣し、エドアルド様も感動でうるうる眼だ。
年下だけど、子供の頃からウィラ様をご存知だから、もはや父親目線なのかもしれない。
結婚式の時、父親目線の新郎っていったいどうなっちゃうんだろう。
最後に、学院長のエスコートで、ギネヴィア様。
黒髪は編み込んで結い、真珠の飾りピンをいくつも挿してらっしゃる。
ドレスは、花びらを伏せたように幾重も裾を重ね、大きく後ろに膨らませたバッスルスタイル。
金色のキラキラが混じった、星空のようなミッドナイトブルーの生地に、同色のチュールをふんわり重ねて神秘的だ。
首元には大きな大きなエメラルドのチョーカー。
さすが姫様!という装いだ。
司会の先生が演台に立ち、開会の挨拶を短く述べられた。
まず、今日の舞踏会の主役である3年生がフロアの真ん中に散らばり、ワルツの演奏が始まる。
ゲルトルート様はあでやかに、エミーリア様は華やかに、ウィラ様は気高く、それぞれに舞われる。
ミハイル様は力強く、オーギュスト様は流麗に、エドアルド様は堂々とリードされている。
どの組も、真っ直ぐに見つめ合い、微笑まれて、本当にお幸せそう。
やばい、これはうるうるしてくる……!
と思ってたら、今度は私達の番だ。
司会の呼びかけで、3年生が脇に移動し、1年生が中央に並ぶ。
他の組がこんなにたくさんいるところで踊るのは初めて。
ぶつかりそうになるのを避けようとして、ステップがぐちゃってなったりしたけど、どうにか踏んだり踏まれたりは発生せず、無事終わった。
あとはもう、踊るなり歓談するなりという流れだ。
ギネヴィア様に、「ミナは初めての舞踏会だし、自由に過ごしてちょうだい」とおっしゃっていただいたけど、なにをどうすれば……
ヴェヴレン様にお礼を言って少しお話していると、お友達がいらしたので、失礼してとりあえずヨハンナ達を探しに行く。
って、いない。
生徒600人、先生方や寮監など大人が100人近く?
これだけの人がやがやと踊って飲んで喋っていると、目当ての人を探すのも大変だ。
さすがにもう帰ったはずはないけど、どっかに隠れてるの?と、あちこち探していると、少し離れたところにウラジミール様らしい横顔が一瞬見えた。




