29.これは合法なの?(2)
ささっとエミーリア様は私の分のドレスも選び、試着室に移った。
制服を脱ぎ、持ってきたコルセットと貸し出しのクリノリンをつけ、ペチコートを重ねる。
エミーリア様にコルセットの締め方、ぐいいっと脇のお肉をお胸に変換する魔法のかけ方を教えていただく。
ていうかこれ詐欺じゃない!?
アリなの?これは合法なの?逮捕されたりしない?
「わたくしはまったいらな平原なのです。平原なら多少ある起伏すらないので、大海原と言った方がかもしれません」と妙に雄大なことを呟いていたヨハンナも、背中からみぞおちからぐいぐいお肉を集められ、「お胸が……お胸が私にもあっただなんて!」と震えていた。
ちなみにゲルトルート様は、逆にお胸を抑えていらっしゃるそうだ。
抑えている状態であのヘブン……
エミーリア様の魔法を全力でかけたらどうなっちゃうんだろう……
まずはヨハンナから。
まずは第一候補。
短い袖がついたボートネックで、巻コード刺繍がほどこされている。
試着してみるとサイズも良い感じだ。
「これは良いわね。
刺繍も丁寧だし、良い仕立て屋で手をかけて作ったものだわ」
清楚ですっきりした感じだけど、刺繍のおかげで華やかさもある。
後の2着も着てみたけれど、サイズが大きめ…
というわけで、ヨハンナは決定!
でも、一番似合うデザインのドレスがサイズ合ってて本当に良かった。
髪は今回は上げても上げなくてもよいので、この間のように下ろしてサイドを編み込みにし、毛先と前髪を巻いてオーギュスト様が買ってくださった白の花の髪飾りをつける、さらに肘までの白いグローブを合わせると色のバランスがちょうどよいだろうとエミーリア様はおっしゃった。
メモメモなのです!とヨハンナがメモを取る。
というわけで今度は私だ。
ふわっふわにチュールをまとわせて、スカートが大きく広がるドレスは、童話のお姫様っぽくてかわいい。
裾にブレードが何段も縫いつけてある、やや細身のシルエットのドレスは大人っぽくてきれい。
艶のある生地をふんわりふくらませ、前中心に太いボックスプリーツが一つだけ入っており、前側の裾がほんの少しだけ上がっているドレスは軽快な感じだ。
いずれも色はクリーム色で肌の映りも悪くはないし、サイズもちょうどいいらしい。
エミーリア様は、「チュールつきのはミナだと子供っぽく見えるわね」とまず外され、2番目と3番目をもう一度着た。
合わせるクリノリンの型が違うので、クリノリンから替えないといけないから結構たいへん。
試着用のヒールが用意してあったので、それを履いて歩き回り、動いた時の裾の広がり方を見ていただく。
というかエミーリア様、私に動きを指示しながら、腕組みをしてドレスを360度チェックしている様子は完全に鬼教官だ。
「本当は『自分がどういう人間として他人から見られたいか』を詰めて、そこから服を選んだ方がいいのだけれど……
そういうこと、ミナは考えたことはあるかしら?」
いきなり凄い質問が飛んできた。
「ええええ!? そんなこと、全然考えたことなくて……
とにかくギネヴィア様と領主様に恥をかかせないようにしたい、くらいしか……」
普通そうよね、とエミーリア様は頷かれた。
「……あと、……なんというか、大事な人をちゃんと大事にできる自分でありたいです。
それには、他の方からどう見られたらよいんでしょう」
ふぬ?とヨハンナが首を傾げた。
抽象的でわかりづらいよね……自分でも言っててよくわかんないし。
エミーリア様もちょっと考え込まれたけれど、やがて頷かれた。
「そのためには、自分の武器を磨かないとね。
今のミナの一番の武器は『かわいらしさ』だと思うの」
「はいいいいいいいいいい!?」
お美しいエミーリア様にかわいいとか言われて、ぴゃっ!?てなる。
「あ。外見のかわいさというのももちろんあるけれど……
素直だし、学院に慣れるだけでも大変でしょうに、一生懸命頑張っているから、ミナのためにできることがあればしてあげたいって思ってしまうのよね……
それはやっぱり、ミナの武器なのよ」
「激しく同意です!」
ヨハンナもこくこく頷いてくれる。
あ。思ったのとはちょっと違うっぽい。
安心したような、残念なような……でも、あれ?めっちゃ褒めていただいてる!?
「私はミナの令嬢修行ではマナー担当だったけれど……
マナーって結局、『私はちゃんと周りを見ています』って言外に伝えることだと思うの。
それができていないと、自分のことしか考えていない幼稚な人間だと思われて、舐められたあげく相応の扱いしか受けられなくなるの。
一度、この人には配慮しても無駄だって思われると、取り返すのは本当に大変なのよね。
まずは舐められないように。
でも、ミナの良いところを自然に伝えられるように。
『子供っぽくはないけれど、かわいらしさがある』、しばらくはそういう軸で選んでいくと良いと思うわ」
エミーリア様は、3番目のドレスを選んでくださった。
……ドレス選びだけじゃない、めちゃくちゃ大事なことを教えていただいた気がする。
こんなに良くしてくださるエミーリア様とももうじきお別れなんだと思うと、うるうるっとしてしまった。
「ありがとうございます」と、どうにか言ったけど、やばい、泣いちゃいそう……
と、ここでエミーリア様はめっちゃ黒い笑みを浮かべられた。
「そうそう、2人に頼みたいことがあるの」
レースの扇をバッと開いて、口元を隠し、にんまりと眼だけで笑む。
これぞ正に悪役令嬢スマイル!
練習しまくったから、めっちゃ板についてる!
「万一、オーギュスト様に悪い虫がつきそうになったら、即知らせて頂戴!」
「「おまかせくださいお姉様!!」」
ヨハンナと2人でぴっと敬礼した。




