22.目が覚めたら、知らない天井だった
目が覚めたら、知らない天井だった。
にゅーっとヨハンナの顔が覗き込み、ぱちくりとまたたく目が合う。
でも、ヨハンナは「起きました!ミナ起きたのです!」と慌ててどこかに行ってしまった。
咽喉がカラカラ。
頭ががんがん痛い。
あたりを見回すと、水差しがあったので、どうにか身体を起こすと直接ごくごく飲んだ。
結構こぼしちゃって、寝巻きも布団もびしょびしょになったけど、そのまま潜り込んで横になる。
夢うつつの時に、ギネヴィア様とゲルトルート様がいらしてくださった気がする。
なにか相談されていたようだった。
次に起きた時は、ヨハンナとリーシャがいた。
まだ頭は痛かったけど、起こしてもらって、具なしのスープをごくごく飲む。
おかわり2杯飲んだら、だいぶ人心地がついた。
全員無事で帰還したと聞いてほっとした。
でも、まだ魔力切れの影響で熱があるからって、寝かしつけられた。
その次は、普通に起きられた。
知らない天井は、単に学院の保健室だった。
野菜がたくさん入ったポタージュを飲み、普段は苦手なオートミールも牛乳と砂糖とシナモンをかけてもらってがつがつ食べる。
熱も下がったので寮の部屋に戻った。
まる2日寝ていたとかで、髪がじゃりじゃりべとべと。
肩や肘、腰とかに擦り傷もいっぱいできてたけど、とにかくお風呂に入りたい!
まだ急に立ちくらみしたりするかもしれないからお風呂は危ないってリーシャが一緒に入ってくれて、しみるしみると大騒ぎする私の頭をそおっと洗ってくれた。
超さっぱりした。
リーシャは神!
次の日、魔導研究所から聞き取り調査がしたいと呼び出しがあった。
……と思ったら、やっぱりまだいいですってキャンセルになった。
なんだそれ??
エドアルド様とミハイル様は皇族寮で療養中ということで、お見舞いに行くことにした。
いつまでも保健室というわけにもいかないけど、男子寮だと婚約者でも女子生徒は立ち入れないので、ゲルトルート様やウィラ様が面会できない。
なので、立ち入り申請は必要だけど、男女別になっていない皇族寮の空き部屋を使えば良いと、ギネヴィア様が便宜を図ってくださったそうだ。
ギネヴィア様は神!
まず、ギネヴィア様のところに伺って、お見舞いのお礼を申し上げる。
元気になったのを大変喜んでくださった。
侍女候補の件、無事承認されたそうだ。
やったー!!
……ギネヴィア様を困らせないように、宮中の礼儀作法やいろんなこと、ちゃんと覚えないと。
エドアルド様とミハイル様は、1階の個室でそれぞれ療養されているとのことだった。
まず、ミハイル様の方にお邪魔した。
「まあ!ミナ、もう大丈夫なの!?」
居間と二間続きになっている寝室、ミハイル様のベッドの傍についていたゲルトルート様が立ち上がって、抱きしめてくださった。
私もむぎゅーと抱き返す。
素晴らしいお胸が当たってる……!!!
正にヘブン!!!
久々に堪能できてテンションが上がった。
ミハイル様はまだベッドだけど、座ってらっしゃるし、お元気そうでほっとする。
ほぼ麻痺は消えたけれど、念の為もう少し様子を見るという状態だそう。
あちこちお怪我もされていたけど、たいしたことはないとおっしゃった。
それから、「ライト」で援護したことや、最後にアラクネを倒したことをめちゃくちゃ感謝していただいてしまった。
いやいやいや、ミハイル様、ゲルトルート様のご活躍がなければ、こうしてのほほんと「お胸……!」とかやってられなかったので!!
お二人は代わる代わる、あの後どうなったか説明してくれた。
私が魔力切れでぶっ倒れた時は、ミハイル様はほとんど動けなくなっていたそうだ。
私が動きを止めてなにか構えているのは見えたけど、遠目だしなにをしているかわからず、アラクネが近づいてくるのにと相当やきもきされたらしい。
魔法が発動したときの光と振動でゲルトルート様が意識を取り戻し、解毒剤が効いてどうにか動けるようになったウィラ様と2人で、ミハイル様、エドアルド様、私を転移魔法陣まで引っ張って行って、脱出したそうだ。
すみませんすみません。
本当にありがとうございました!!!
エドアルド様の麻痺が一番酷く、転移した後に呼吸も難しくなってしまったので、ウィラ様が必死に人工呼吸して、救援が来るまでもたせたらしい。
エロクソガキに人工呼吸とな……!?
泥棒に追い銭とはこのこと!?と一瞬思ったけど、自分も麻痺毒を相当吸い込んでたのに、1本しかない解毒剤をほとんどウィラ様に飲ませたんだ、と思い当たった。
「あ。そうだ!
あの……ゲルトルート様が気を失われていた時、ミハイル様がめちゃくちゃかっこいいことされてたので、ちょっとゲルトルート様にお伝えしておかねばと……」
「え!? い、いやいやいや、あれは……」
ミハイル様が赤くなってめっちゃ慌てるけどスルーだ。
麻痺毒を受けて身動きがとれなくなってしまったミハイル様が、ゲルトルート様を岩影に隠し、自分の身体で蓋をされたときのことを、ゲルトルート様にお話しした。
ゲルトルート様は案の定ご存知なかったようで、眼を超うるうるさせながら、ミハイル様の手を両手でぎゅっと握り、ヘブンな胸元へと持っていった。
いや、令嬢なので触らせたわけじゃないけど。
手の甲くらいはぎゅむっと当たってたかもしれない。
2人が見つめ合う。
よし!!
良い雰囲気になったところで、ささっと退散しようとしてたら、どやどやとセルゲイ様、ウラジミール様もお見舞いにいらした。
このタイミングで来るかな!?と思ったけど、照れ照れで身の置き所もない様子だったミハイル様が、助かったという顔をされる。
セルゲイ様、ウラジミール様のその後もうかがった。
お2人は、襲ってくる魔獣を切り伏せながら超ダッシュで遺跡から脱出し、緊急信号弾を打ち上げて、魔導研究所から護衛騎士や魔導士、「遺跡」の研究者達を呼んでくれたそうだ。
床が抜けた穴は深すぎて、すぐに降りる手段はなかったけど、他の「遺跡」の例からすると、4階奥の「礼拝の間」に転移魔法陣がつながっているのではという話になり、魔獣を掃討しながら行ってみると、私達が転がっていたそうだ。
救援が来なかったら、アラクネとの戦いでほぼ戦闘不能になってるのに、自力で地上まで戻るしかなかったのか……
遺跡、酷すぎない!?
「…それにつけても、お祭りクッキーを食べられなかったのが無念…」
もそりとウラジミール様が言ったので、笑ってしまった。
今度作って届けると約束する。
ていうか、勝手に名前つけられてるし。
「確かに、あのクッキーは行動食として優れてるな。
あれを合間に食べたから、切り抜けられたのかもしれない」
ミハイル様も褒めてくださり、ゲルトルート様も、また一緒に作りましょう、と笑顔でおっしゃった。
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