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20.この遺跡を守るヤバイヤツとご対面の流れですか?(1)

 不意に、一方の壁が切れ、ごうっと湿った土の匂いがする風が吹き込んできた。

 5人でよろめきながら風が吹いてくる方から距離を取るように身を寄せ合う。

 ずーん……と、重い衝撃を残して、床は止まった。


 ついでにすすり泣きも止まった。良かった。


 だいぶ広い空間が前方に広がってるっぽい?けど、松明の明かりではよくわからない。


「なんか、どっかに着いたっぽいですけど……

 降りたら、この遺跡を守るヤバイヤツとご対面の流れですか?」


 ヨハンナが貸してくれた冒険小説、山場の手前はこんな展開ばっかりだった気がする。


「それを想定して動いた方がいい。

 ここで出る一番強い魔獣は、化性蜘蛛か」


 もう平静な声でウィラ様が確認する。

 私以外の3人が頷いた。


「化性蜘蛛の強化版が出る可能性はそれなりにありそうだ。

 引き続き、ミハイル殿はゲルトルートとミナを守ってほしい。

 ゲルトルート、魔法は打てるか?」


「……やってみるわ。

 蒼蓮、事前詠唱しておく?」


「いや、耐性がわからないから、下級で様子を見たい。

 火が通れば、タイミングを指示する」


「わかった」


「そうだ、ミナは強烈な『ライト』を打てる。

 視覚索敵型なら、目くらましに使えるかもしれない」


 エドアルド様が提案した。

 「愛称呼びはない」って言ってたけど、修羅場なので敬称略になったっぽい。


「どのくらい強いの?」


 ゲルトルート様に聞かれる。


「ええと、背を向けて眼をしっかりつぶった方がいいです。

 向きが変えられなければ、腕で眼を覆うとか。

 眼をつぶるだけじゃ、しばらくしぱしぱします」


 ウィラ様は頷かれた。


「じゃあ、目くらましが欲しいタイミングがあったら、大声で『ライト』と叫ぶ。

 それでみんなは眼を守る。

 ミナはライトを打つ。

 ……何発くらい打てるんだ?」


「試したことがないのでなんとも……」


「帰ったら、試してみよう」


 ウィラ様は笑いながら私の頭をぽんと叩かれた。

 いつものウィラ様でほっとする。


「で、僕が持ってるのは、」


 と、エドアルド様が言いかけた瞬間、暗闇に紅い光が2段に分かれて8つずつ、それから少し上に2つ現れた。


 やばって思った瞬間、影が蠢き、シャーッと白いものが飛んでくる!


 エドアルド様がなにかキラッとしたものを足元に叩きつけた。


 白いものが私達にかかる…と思った瞬間、私達をすっぽり包む、半球状の透明なドームのようなもので防がれる。

 白いものは、私の指くらいの太さの無数の糸だ。

 毛糸玉の中から見たらこんな風になるのかなっていうくらい、ドームにへばりついている。


 巨大蜘蛛型魔獣の糸……ってことですかこれ!?


「防御石、残数6!

 20秒で消えるから、消えた瞬間に糸を焼いて!」


 エドアルド様が言ううちに、ドームの輝きが薄くなっていく。

 11、10、9、とエドアルド様がカウントダウンを始めて、ゲルトルート様が慌てて両手のひらを前に向けて詠唱に入った。

 紅の魔法陣が浮かび上がって、放たれる瞬間を待つようにゆっくり回転しはじめる。


「焼いたら皆は右へ。

 私は先に左に飛び出す」


身を沈め、右手を背中の大剣の柄にかけたまま、ウィラ様が気息を計る。


燃えろ(ブルリーギ)!」


 ドームが消えた瞬間、ゲルトルート様が火魔法を放った。

 下級魔法だけど、火力すごい!

 ぱっと炎が糸に広がる。


 ウィラ様が左へ飛び出し、結界にへばりついていた白い糸が焼けて、ちりちりになっていく下をかい潜るように私達は右へ動く。


 先を行くエドアルド様が上へなにかを放り上げた。


「曳光弾、効果5分!残数14!」


 ひゅるるるる……と花火のように打ち上がった曳光弾がパン、と弾け、強い輝きを放ちながら空中にふよふよ浮いている。


 私達は、ようやくどんなところに来てしまったのか目にすることになった。


 直径100m以上ありそうな、半球を伏せたようなドームだ。

 高さは一番高いところで4、5階分くらいはある。

 壁も床もすべて石造り。

 壁際には、立方体に切られた巨石が転がっていて、身を隠せそうだ。

 作りかけで放置されたようにも見えないけど、なんなんだろう。


 そして……

 案の定、バカでかいにもほどがある蜘蛛がいた。

 脚の先から脚の先まで、15m近くある。

 体高は4m近く。

 片手剣だとミハイル様でも腹まで届くかどうかというところだ。


 蜘蛛の頭の上に、裸の女性の上半身が……生えている。

 眼は蜘蛛本体のものも、女性の眼も紅く輝いてる。


 蜘蛛は先に飛び出したウィラ様に向かい、長い長い前脚を上げると、一気に振り下ろした。


 その瞬間、ウィラ様が大剣を抜き払い、その勢いで鋭い爪がついた脚先を斬り飛ばす。


 蜘蛛は怒り狂い、すぐにウィラ様に詰め寄った。

 女性の上半身が大きくのけぞり、蜘蛛の口が開く。


「ライト!」


 ウィラ様の声に、慌ててライトを唱えた。

 光源はなるべく蜘蛛の近くにと念じる。

 遠くで光らせる練習をしておいてよかった!

 自分も眼をぎゅっとつむって、顔をできるだけそらしたけど、まぶたを透かして、視界が赤くなる。


 蜘蛛の動きが止まり、その隙にウィラ様は距離をとった。


 よかった!とりあえず一回役に立った!


 と思ったら、蜘蛛がどすどすこっち来るし!!!


 と思ったら、ウィラ様が後ろから蜘蛛に追いすがって、大剣を身体ごと旋回させるようにして後ろの脚を斬り飛ばす。

 蜘蛛の脚、私の胴回りくらいあって、黒光りする硬そうな外殻で覆われてるのに!

 さすがウィラ様!!


 がくんと蜘蛛の姿勢が崩れた。

 けど、まだ脚は6本ある。

 完全にブチ切れた感じで、やたらに糸を吐きながら、ウィラ様をぎこちない動きで追いかけてる。


「まさか、アラクネだなんて」


 ゲルトルート様が走りながらおっしゃった。

 あれはアラクネというらしい。

 化性蜘蛛の上位種とかそういう感じなのかな?


「ここに転移魔法陣がある!

 でも、瘴気レベルを下げないと動かない条件がついてるよ!」


 右回りに先行して周辺を偵察していたエドアルド様が、ぴょんぴょん飛びながら叫ぶ。

 私達が降りたところの、反対側っぽい。


「倒すしかないか。

 ウィラ殿と交代してくる。

 ミナ、ゲルトルートを頼む」


 とりあえず、いい感じに身を隠せそうな巨石の影で、ゲルトルート様に落ち着いてもらった。

 蜘蛛の注意を引かないように、松明の火を消す。


 ミハイル様とウィラ様が代わる代わる、蜘蛛と追っかけっこをしながら、脚を切れそうなら切るという流れになった。

 やばくなりそうになったら、私が「ライト」で足止めをする。


 高さがかなりあるので剣では胴を狙いにくい上、昆虫系の魔獣は体液が強酸性のものが多い。

 胴を下から突くと酸をかぶる上に、剣がボロボロになる可能性が高いそうだ。

 脚を斬って動きを鈍らせてから確実に魔法を当て、魔法で倒しきれなかったら、上に乗ってトドメを刺すのが良いだろうとウィラ様はおっしゃった。


 エドアルド様は曳光弾を絶やさないようにしながら、ウィラ様とミハイル様を支援する。

 ミハイル様が片手剣で脚を切ろうとして剣が折れ、ひやっとしたこともあったけど、すかさずエドアルド様が防御石を投げつけ、その隙に片手斧に持ち替えたミハイル様が無事リベンジされたりした。


 さらに、エドアルド様は、火水土風の下級攻撃魔法を魔石から発動させ、火が一番通り、次いで風、水と土は無理と報告する。

 ついでに、蜘蛛本体の眼に火属性の下級魔法を巧く当てて、左側の眼をいくつか潰してくださった。

 でも、魔石から発動させられる魔法の威力は知れている。

 となると、やっぱりゲルトルート様の炎魔法が頼りだ。

ブクマ、評価ありがとうございます!

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☆★異世界恋愛ミステリ「公爵令嬢カタリナ」シリーズ★☆

※この作品の数百年後の世界を舞台にしています
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