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またまた、もそそっと

「と、そろそろお昼ですね。

 ウィルヘルミナ様は、お昼はどうされるんです?」


 ふとドナさんが、ベレニス様を気にしながら訊ねてきた。


「あ。私、お弁当を持ってきたんです。

 お茶もあるので、お気遣いなく。

 軽く片付けて、ここで食べちゃっても大丈夫ですか?」


「あー……問題はない、と思うけれど」


 ベレニス様は、ちょっと戸惑われている。

 昨日もここで食べたんです、と申し上げたら、じゃあそれで、ということになり、ざっくりテーブルの上を片付けると、二人は出ていった。




 またまた、もそそっとお昼ごはんを食べる。

 昨日と同じく、一口で食べられるよう綺麗にカットしたサンドイッチと小さなキッシュ。

 キッシュは、炒めたキノコとリーキがたくさん入っていて、美味しかった。


 お弁当を片付け、少し陽射しが陰って、淡く輝いている湖を眺めた。

 遠くから、厨房か食堂の物音っぽい音がしているけれど、かえって静けさが身にしみるようだ。


 アルベルト様は、今頃どうしているんだろう。

 ちゃんとご飯を食べたのか、手紙鳥を出そうかと思ったけれど、集中してるところを邪魔したら悪い。


 というわけで、ひとり、チクチクを再開した。


 それにしても──


 研究所の装置アパラータスに、300年前に活躍したカイゼリンがまだいるっぽい?とか、ほんとびっくりした。

 晶化によって、人の身体の中に魔石が出来てしまうという話も。


 でも、カイゼリンがどうしてそんなことをしたのか、ちょっとわかる気がする。


 皇家の歴史講座で振り返って、改めて思ったのだけど、カイゼリンは全然報われていないのだ。


 初代皇帝エルスタルの子のうち、圧倒的に活躍したのはカイゼリン。

 魔導士としてエルスタルに次ぐ力があり、指揮官としても超有能だった。

 父エルスタルは、カイゼリンが男であれば自分の後継者としたのにと折々口にしたらしい。

 民衆や魔導騎士団はカイゼリンに熱狂していたし、貴族の一部にも、病弱な二代皇帝よりもカイゼリンが帝位にふさわしいと考える者がいた。


 となると、二代皇帝ほかカイゼリンのきょうだい達は、面白くない。

 特に皇女達は、自分達は政略結婚のコマとして強制的に嫁がされるのに、カイゼリンだけ自由に恋をしているとか、絶対納得できなかったと思う。


 エルスタル亡き後、カイゼリンは宮中で孤立していたんだと思う。

 摂政を押し付けられて前線から引き離されたり、唐突に元に戻されたりしている。

 自他の命を削る超絶魔法「キームの栄光」で超五級魔獣襲来を殲滅した後は、当時の首都だった古都エルデの宮殿には戻らず、カイゼリン派の貴族の別邸で療養し、そのまま亡くなっている。

 神格化されたのは没後かなり経って、三代皇帝の治世あたりからだ。


 カイゼリンは、父の悲願であり、民が切望した「魔獣におびやかされない平和な世」をもたらした。

 魔力障害のこともあったし、自分の生命は長くないと悟って、とにかくやり切ることを選んだのだと思う。

 でも、死んだ後も金色の砂漠をさすらう亡霊となって皇家に永遠に尽くしたいかって言うと、さすがに無理ってなっても全然おかしくないと思う。

 だから「キームの栄光」の応用で装置アパラータスを造り、みずからの魔石を核とすることで、この世に留まることを選んだんだって言われたら、そういうこともあるかもってなる。


 といっても、魔導理論の研究は、当時よりも色々進んでいる。

 それに、いくらカイゼリンだって、まったくのゼロから装置を造ったはずはない。

 時間はかかるかもしれないけれど、アルベルト様なら、どういう方法で装置を造ったのかきっと解明できる。

 それを応用して、私達がずっと一緒にいられる道も見つけてくださると思う。


 どんなかたちになるのか、今はわからない。

 どちらかが死ぬ時に、魔力を混ぜ合わせる的なことをしてどうにかするのか。

 それとも、どちらかが亡くなった後、体内から取り出した魔石を起爆して、どうにかするのか。

 でも、アルベルト様は、私の願いを必ずかなえてくださる方だから。


 だけど──


 私は、装置アパラータスにはなりたくない。


 装置は確かに凄いけど、維持し続けるために誰かを犠牲にしないといけない。

 研究所の装置が復活したら、当面引退された皇族が交代で維持するとのことだったけど、もし4基、全部動くようになったらきっと追いつかなくなる。

 結局、以前のように、魔力が多すぎる皇家の子どもたちに押し付けることになるなら、絶対に厭だ。


 ふと、バルフォア公爵夫人から聞いた、マーレの湖の話を思い出した。

 フランシス卿の奥様は、魔力暴発の跡?だと言われている湖の近辺は、魔獣が湧かない聖域だと言われているともおっしゃっていた。

 後で、アルベルト様に湖の話をしたら、すぐに調べてくださって、本当にその湖の近辺は魔獣が湧かないらしいっておっしゃっていた。

 そんな感じの、傷ついた人達が休めるような場?みたいなものが造れたりしたらいいのだけど。

 ちょうど、この不思議な「湖の宮」のように──




 とか、ぼへーと考えながらチクチクしていると、ベレニス様とドナさんが戻ってきた。

 お互い、進捗を確認してみると、三人ともあと少し!

 今から新しい繕い物とか来ないですよね??とか謎に怯えながら、チクチクチクチクを再開する。


「外の人ー! ベレニスと仲直りした??」


 またまた白髪の男の子・ジャン=リュック様が飛び込んできた。


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☆★異世界恋愛ミステリ「公爵令嬢カタリナ」シリーズ★☆

※この作品の数百年後の世界を舞台にしています
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