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14.腐れた心が浄化されてしまうので注意なのです

 アルベルト様、もしかして、魔力の関係とかで他人に近づいたり触ったりしちゃいけない人なんだろうか、と気がついたのは、寮の部屋に戻ってからだった。

 人と接しないようにしてるみたいだし、アルベルト様の眼を見ても私が平気だったことにひどく驚かれていたし。


 めっちゃ触られたり泣かれたりしたのも、長年人との接触をできるかぎり避けていたところに、私には触っても大丈夫ってわかったのなら納得できる。

 もしかしたら、子供の頃から一人ぼっちで生活されていたのかもしれない。


 魔法って凄いって思ってたけど、大変なこともたくさんあるのかもしれない。

 私にしたって、魔力があることがわかって、人生がめちゃくちゃ変わってしまったのだし。




 心が騒いでなかなか寝つかれず、朝になって目が覚めてもぼうっとしていた。

 昨日は丸一日ばたばたしたし、授業の予習復習しなくちゃと思うのだけど、頭がちっとも回らない。

 図書館でもいくか、と昼過ぎに勉強道具をバッグに放り込んで寮から出た。


「あ!ミナ!ちょうどいいところに!」


 中庭を抜けようとしたところで、ベンチに座っているウィラ様に声をかけられた。

 ヨハンナも隣に座っている。

 ウィラ様は白のパンツに茶のチェックのジャケットの乗馬服姿だ。


 そういえば乗馬のレッスン…と思いつつ近づくと、2人が真ん中を空けてくれて座らせてもらった。


「エミーリアの件も巧く収まったらしいな!

 さすがだ!」


 ウィラ様になでなでしてもらう。

 えへってなったけど、いつもほどテンション上がらない。


「というか今回はほんとクラリッサ様のおかげで、私達、なんにもしてないような……

 あ、そうだ。ヨハンナ、クラリッサ様との企画会議?はどうなったの?」


「ばっちりです!!

 世界征服への道ががっつり拓けたのです!」


 ヨハンナはいい笑顔で親指を立てた。

 よかったね、と頷く。


「どうしたんだミナ?」


「なんだか元気がないのです……」


 2人に心配されてしまった。


「いえあのちょっと……

 魔力って、怖いこともあるんだなって思って……」


 アルベルト様のこと、ほんとは相談したかったけど、他の人に言っていいことじゃないような気がしてぼかしてしまった。


「あー……いろいろ、あるみたいだからな……」


 ウィラ様が納得したように声を漏らされた。

 思い当たる節があるようで、視線が一度伏せられる。

 でも、ぎゅっと私の肩を抱いて、大丈夫だという風にぽんぽんしてくれた。


「万一、魔力開発とかもういやだ!ぶっちゃけ逃げたい!てなったら即報連相するのですよ!」


 きらーんとヨハンナが眼鏡を光らせて、小声で言いながら両手で手を握ってくれる。


「いやいやいや、そんな話じゃないから!」


 思わず笑ってしまった。


「……そういえばミナに乗馬を教える約束をしたのに、まだなんにもしてなかったな。

 とりあえず一般厩舎の見学に行ってみるか?

 今日は馬と顔合わせということで」


「お馬さんに人参あげたりしてもよいのです?」


 ヨハンナが胸の前で手を組む乙女ポーズをする。


「それは馬丁に聞いてからだな……」


 ウィラ様はちょっと苦笑されたけれど、どう?ともう一度笑顔を向けてくれた。

 このまま図書館に行ってもぽへーとしてしまいそうだし、気分転換になるかもしれない、と私は頷いた。




 結論から言うと、厩舎へ行ったのは正解だった。

 既に生徒の遠乗りや馬車を引くお仕事ででかけた馬もいて、一般厩舎にいたのは、お留守番の3頭。

 みんなおめめがつぶらで、お利口さんでかわいい!


 馬丁さんもいい人で、ちょうどおやつの時間だからと葉つき人参をあげる係を任せてくれた。

 葉っぱを一気にもしゃあっと食べる勢いにびっくりしたけど、もっしゃもっしゃとしっかり噛んで飲み込んで、次!てなるタイミングに合わせてあげるのは面白かった。


 ついでに、ウィラ様に馬との接し方、ブラッシングの仕方も習う。


 人に慣れたおとなしい馬でも、びっくりさせてしまうと思わぬ行動をとったりする。

 身体の大きさも力も全然違うから、馬が人間を傷つけるつもりはなくても、足を踏まれたりしたら普通に骨折するし、蹴られて死ぬことだってある。

 ブラッシングする時は、常に片手を馬に触れさせて安心させながら丁寧にブラシをかけてやると、ここにいる馬ならよい子にしてくれるそうだ。


 気の荒い馬だと、嫌いな人が近寄っただけで暴れることもあるらしい。


「次回は引き馬で乗ってみようか。

 あ。ミナは乗馬服、あるかな?

 靴はとりあえずショートブーツがあればそれで良いと思うんだが」


「靴は使えそうなのがありますけど、服は……

 学院の売店にありますか?」


 いやどうだろう、とウィラ様は首を傾げた。


「東方風の乗馬スカートなら、とりあえずお貸しできるのです」


 ヨハンナが申し出てくれる。


「ああ、あれなら良いかもしれないな」


 ヨハンナの方が小柄だから、サイズ大丈夫かなと思ったら、自分には長めなくらいだし、ウエストは紐で締めるので相当大柄な人でも大丈夫とのことでほっとした。

 といっても、いつまでも借りるというわけにはいかないし、あとでヨハンナにどこで買えるのか聞かないと。

 領主様からいただいてるお小遣いでなんとかしたいけど、足りるかな……




 とりあえず今日のところは戻ることになった。

 やっぱり勉強しに図書館に行くというと、ヨハンナも新着本のチェックをしたいと言い出し、ウィラ様がふむと考え込んだ。


「ミナもヨハンナも図書館か……

 ならついでに、ミナにエドアルドを見てもらった方がいいかな」


「あああああ、『精霊様』!

 確かに日曜の午後の図書館でよくお見かけしますね」


「精霊様……?」


 はて?と首を傾げた。


「……私の婚約者、エドアルド・ブレンターノの通称だ。

 精霊のように美しいというのでそういうあだ名になっているらしい」


「ほえー……」


 ブレンターノっていうと、確か公爵家だ。

 ウィラ様、オーギュスト様がこの学院の2大「王子様枠」だと思ってたけど、まだそんなあだ名がつくようなイケメン貴公子がいるのか。


「ぶっちゃけ、見ればわかるのです。

 誰がこの名を思いついたか知りませんが、まさしく精霊に例えるほかない方なのです」


「ほえー……」


 さっきから「ほえー」しか言ってないとウィラ様に笑われたりしているうちに、図書館の傍まで来た。


「パレーティオ辺境伯領は帝国の南西にあるんだが、魔獣がよく出るんだ。

 国境沿いの火山に炎竜が居座っているのが原因と言われているんだが……

 私は一人娘だから、私と結婚するなら、パレーティオ辺境伯を継ぎ、荒くれ者揃いの辺境伯騎士団を率いて魔獣を狩り続けなければならない」


「……大変なんですね」


 にこりともせずに、ウィラ様は頷いた。


「大変だ。

 父は今も領地を守っているが、母は魔獣との戦いで亡くなっている」


「え……」

「それは……あの……」


 なんと言っていいかわからなくなって固まってしまったヨハンナと私に、昔のことだから気にしなくてよいよ、とウィラ様は微笑まれた。

 それって、ウィラ様がまだ小さい頃に亡くなったってことじゃん……

 ウィラ様もお母様もかわいそう……


「そういう事情を念頭に置いて、彼を見て欲しいんだ」


 ウィラ様は図書館の玄関に入らず、回り込んで反対側の方へ向かった。

 ここの図書館は、窓辺に閲覧席がある。

 一つ、一つ見て回っていると、まっすぐの淡い金髪を肩先くらいに揃えた子が窓に向かって熱心に辞典を調べていた。

 うつむいているので、顔立ちや表情はわからない。


 ウィラ様は立ち止まり、じっとその子を見上げる。

 ヨハンナは「精霊様に近づきすぎると、腐れた心が浄化されてしまうので注意なのです」とわけのわからないことを言いながら距離を取り、ベンチの影からそっと見上げている。


 え、でもこの子、女の子じゃ??

 体格、たぶん私とおんなじくらいでしょ?


 とまどっているうちに、その子がふと顔を上げた。



 衝撃でくらっとした。

 深い紫の瞳が印象的なアーモンド型の眼、すっと伸びた鼻梁と、形の良いピンク色の唇、柔らかそうな頬と小さな顎……


 なんかもう、人間離れしてる。

 ひたすらに清らかで、見ているだけで心が勝手に洗われてしまうというか……


「精霊様」と呼ばれているのに納得しかない。


 男子の制服を着ているけど、女の子にしか見えない。

 けど、女子の制服を着ていたとしたら、逆に凄い美少年に見えちゃうかも?

 性別とかそういうの、普通に超えちゃってる美しさだ。


 とか、私がお口ぽかんで見上げているうちに、精霊様ことエドアルド様は、ウィラ様に気づいたらしく、はにかむような笑みを浮かべて立ち上がり、片手を上げて軽く振った。



 可憐!!!!

 やばい!!!!

 可憐すぎるでしょこれ!!!!



 ウィラ様も、いとおしげな笑みを浮かべて手を振って応えられる。

 ウィラ様、エドアルド様のことを大事にされてるんだな……


 婚約者同士は窓越しに目礼も交わし、ウィラ様は私に合図して玄関の方へ足早に戻られる。

 私がウィラ様の連れだと気づいたのか、エドアルド様は私にも目礼してくださり、慌ててへこりとお辞儀して、ベンチの影で「目が、目がぁ〜!」と口走りながら顔を抑えて転がっていたヨハンナを回収する。


 ふと振り返ると、エドアルド様はウィラ様が視界から消えるまで、見送っていた。




「……というわけなんだ」


 玄関まで戻ったところで、ウィラ様は途方に暮れたような顔でおっしゃった。


 確かにあの方が荒くれ者揃いの騎士を率いて魔獣討伐とか無理でしょ……

 というか、本人がやるって言っても、まわりがそんなことさせちゃだめってなるに決まってる。


「ウィラ様が婚約解消したいとおっしゃる理由は、わかりましたけど……

 でも、あの方、見るからにウィラ様のこと大好きじゃないですか。

 『真実の愛』に目覚めていただいて婚約解消とか、無理無理無理!のような……」


 ふむ、とウィラ様は考え込まれた。


「私がどういう人間なのか、エドアルドはまだよくわかっていないからな……

 詳しいことはまた今度相談しよう。

 ヨハンナが正気を取り戻すまで、だいぶ掛かりそうだしな」


 まだ虚ろな目で「きゃわわ……きゃわわ……」と呟いているヨハンナに苦笑をこぼして、この日はお開きとなった。

評価&ブクマありがとうございます!

仕事の都合で、感想返信が明日の夕方以降になりそうな予感…恐縮です><

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☆★異世界恋愛ミステリ「公爵令嬢カタリナ」シリーズ★☆

※この作品の数百年後の世界を舞台にしています
― 新着の感想 ―
[良い点] 丁度今話題のお馬様が登場しましたね! 今後も恋路に関わってくるのでしょうか。精霊様エドワルドとパレーティオ辺境伯としての使命。この二人の仲介(攻略)もなかなか大変そう…お互いに想い合ってい…
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