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私がついてるですし

 ここで放り出されても迷子確定なので、サヴィーナ様が車寄せまで送ってくださった。

 すぐに馬車が来て、アルベルト様と乗り込む。


 宿舎に戻り、私は夜用の服に着替えて、宮廷風の広々とした正餐室の、やたら長いテーブルの端っこで、二人、黙々と晩ごはんを食べた。

 めっちゃ気疲れした気がする。

 お食後にりんごのクリーム焼きを置いて給仕が下がったところで、アルベルト様はささっと防音魔法を展開した。


「明日は、どうします?

 アルベルト様が書庫を調べている間に、私はヒルデガルト様のお見舞いって感じなんですかね?」


「そうだな……

 叔父上がしょっぱなぶちかましてきたし、あんまりミナと離れたくないんだががががが。

 でもあの様子じゃ、俺はヒルデガルトの見舞いは出来なさそうだな。

 というか、俺の姉上やギネヴィアの兄もいるはずなんだけど、出てくる気配ゼロだし」


「あー、そんな感じでしたね」


 こくこくした。

 なんというか、外との関わりは最低限しか持ちたくないって感じだ。


「まず、塔の地下を一緒に見に行こう。

 それで、ミナはヒルデガルト、俺は書庫かな。

 くれぐれも、気を付けて」


「了解です!」


 きぱっとお返事すると、アルベルト様はため息をついた。


「それにしても、どうもよくわからないところだよな。

 療養中の皇族は叔父上を入れて5人もいて、ヒルデガルトのように公にされていない者もいるはずなのに、人の気配がなさすぎる」


 結局、見かけたのはサヴィーナ様とエクトル殿下と送り迎えをしてくれた中年の御者だけ。

 不気味、とまでは言わなけれど、めっちゃ変だ。

 皇宮だったら、皇族一人に対して、少なくとも十数人以上、住み込みでお仕えしてるのに。


「そですね……

 前にいらした時は、どんな感じだったんですか?」


「前回も、サヴィーナの案内で、さっきの広間で叔父上と話した。

 って、あの時は、サヴィーナは名乗らなかったから、名前もわからないままだったけどな。

 叔父上に、ここの装置アパラータスを検分したいのなら、なにか情報を出せと言われて、魔導研究所の現況を説明したんだが、想定の範囲内だからつまらんと言われて。

 諦めて帰ろうとしたら、翌朝、伝言があって、ミナを連れてきて、ノルド枢機卿の最期を教えるなら、見学させてやるってなったんだ」


「その場で、じゃなくて翌朝……ですか」


 それもちょっと変な感じだ。

 誰かと相談したんだろうか。


「ていうか、やっぱりここにも装置があるんですか?」


「ある。魔導研究所とここと、あと二つ、計4個所ある」


 と、言われて、あ!て声が出た。


「もしかして、帝都を囲むように?

 前に、大神殿に遠足に行った時、てっぺんから魔導研究所が見えるねって言ってたら、他にも似たようなシルエットがあって、なんなんだろって話したことがあるんです」


「あー……あそこからなら、4つともぎりぎり見えるのか。

 といっても、装置が動くのは魔導研究所だけで、残り3つはそもそも動いてないんだけどな」


「え。そうなんですか??」


「そ。カイゼリンのアイデアをもとに、最初に造られたのが魔導研究所で。

 試射したら結構な威力だったから、帝都防衛のためにもう3基作ることになったんだが……

 魔導研究所の装置アパラータスをまんま踏襲して作ったはずなのに、魔力を貯めとく魔石が全然反応しないんで、結局放置されてる。

 ミナは、魔導研究所の装置が稼働しているところを見てるだろ?

 俺なりに推測していることはあるが、ミナの意見がほしいんだ」


「なるほろ……」


 アルベルト様が私にここの塔の地下を見せたがってる理由が、やっとわかったのはいいんだけど。


「でも、私は『めっちゃおっきな魔石が光ってるなぁ』くらいしかわかってないですけど。

 ジャレドさんとか、そのへん詳しい人に来てもらえないんですか?」


「皇家の方で、許可が降りなかった」


 アルベルト様は、めっちゃため息をついた。


「皇家も『湖の宮』も、とにかく秘密秘密秘密。

 その癖、魔導研究所の装置アパラータスを再起動しろ、研究所を防衛拠点として再整備しろ、一度も反応のない離宮の装置もなんとかできないか。

 もう、うんざりだよ」


 だいぶストレスが溜まってるようだ。

 イライライラ〜って顔をしてるアルベルト様の傍につつつと行って、頭を抱いてよいこよいこってする。


「大丈夫ですよ。

 私がついてるですし」


 にゅふって笑って、多めに撫で撫ですると、アルベルト様は「ミナぁ……」としおしおの声で言いながら、むぎゅーって抱きついてきた。




 翌日は、朝からぐずついた天気になった。

 明け方降った雨は止んだようだけど、いまにも雨になりそうな暗い雲が垂れ込めている。


 動きやすいよう紺の散歩服を着せてもらい、サンドイッチとおやつの焼き菓子、お茶を詰めた水筒を入れたバスケットを持って馬車に乗る。

 アルベルト様もおでかけ用の普段着だけど、ノートや筆記具、拡大鏡やら測定器具を詰め込んだショルダーバッグを斜めがけにし、クリスタさんに持たされた着替えを入れた袋も抱えてなんだかかわゆい。


 昨日の車寄せには、サヴィーナ様が待っていた。

 バスケットは昼食だと言うと、びっくりされる。

 てっきり、宿舎に戻って食べるものだと思っていたらしい。

 お昼時になったら、私達が使って良い空き部屋に案内してもらうことになった。


 今回は建物に入らず、直接「塔」まで少し歩いて、目立たないところにある階段からまず半地下へ降りた。

 狭くて暗い通路には明かりもなく、サヴィーナ様が「ライト」をつけ、私達もそれぞれつけて足元を照らす。

 やがて突き当たった扉を、サヴィーナ様はなにか唱えながら開き、閉じないように木切れを噛まして、私達を招き入れた。


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☆★異世界恋愛ミステリ「公爵令嬢カタリナ」シリーズ★☆

※この作品の数百年後の世界を舞台にしています
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