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せめて、私だけでも

「別に、仲が良かったわけではない。

 むしろ、不愉快な記憶の方が多い。

 だが、弟は弟。

 せめて、私だけでもしのんでやりたいのだ。

 遺体も、まともに葬られておるまい」


 枢機卿鳥がどうなったかなんて、考えたこともなかった。

 皇家にしたって大神殿にしたって、ちゃんと葬ったとは思えない。


 そういえば、これまで皇族方と何度もお会いしたけれど、ノルド枢機卿の話が出たことはなかった。

 帝都では、最初っからそんな人はいなかった雰囲気になっているのだ。


 でも、エクトル殿下は、違う思いを持っていらっしゃるということか。


「……わかりました。では、お話します」


 大神殿を訪問した時のことから、ご説明した。


 アルベルト様のお使いで書庫にいたら、いきなり乱暴してきたこと。

 昼間なのにお酒臭くて、とにかく怖かったこと。

 学院長と神殿騎士に阻まれ、逃げていったこと。


 エクトル殿下は、なんで枢機卿が私に絡んできたのか不思議がられた。

 どうお答えしていいのか頭が真っ白になってしまったけど、アルベルト様が、それ以前からギネヴィア様と枢機卿の間に確執があり、当日も揉めていたこと、当時私がギネヴィア様の侍女候補だったことを補足してくださる。

 そういう情報が加わると、要はギネヴィア様が言うことを聞いてくれないから、侍女候補の私に八つ当たりしたのかなって流れになってくれて助かった。


 一応ご納得いただけたところで、アルベルト様は、逃走した枢機卿が旧知の子爵家で暴れ、逮捕されて皇宮に移送されたこと、そこで先代陛下に毒魔法を打って殺したこと、瘴気が溜まっていた遺跡に移動し、警備の者を殺して最深部に突入、なんらかの術によって魔獣襲来を引き起こしたと推測されていることを説明された。


 そこから私が、魔獣襲来の時に見聞きしたことを、できるだけ具体的にお話する。

 巨大人面鳥のおなかにノルド枢機卿の顔がついてて、皇位奪還とか言い出した時は、ほんとぶったまげたよね……


「皇位奪還? 皇位奪還だと?」


 エクトル殿下は、驚き呆れた様子で繰り返すと、半笑いして首を横に振った。

 サヴィーナ様は、無言のままだ。


「まかり間違って帝都をおとせたとしても、たった一人。

 どうやって、諸侯を従わせるというのだ」


「でも、確かにそう言っていたんです。

 それで……」


 ギネヴィア様を煽りながら、執拗に「グラシア・インフェッロ」を打ってきたこと。

 でも、生徒達が総攻撃する中、対空攻撃が不得手なギネヴィア様のために、アデル様が生み出した数式魔法「コタ・ドラコ」によって、上から叩き潰されたこと。

 その後、倒された枢機卿鳥がどうなったのか、私は魔導研究所に直行したので、見ていないとも申し上げた。


 しばらく、沈黙が降りた。


「……なるほど。

 水と土、二属性しか持たぬギネヴィアを軽んじて、してやられたのか。

 四属性の皇子であることしかすがるもののなかった、あやつらしい最期ではある。

 それにしても、なぜそこまで血迷ったのか」


「俺は一度も話したことはないので、人となりは直接、知りませんが……

 皇家でも神殿でも、積もり積もったものがあったようだと聞きました」


 アルベルト様は静かにおっしゃって、私の方を見た。


「お酒の飲み方も、悪かったんじゃないかと思います。

 神殿で腕を掴まれた時、めちゃくちゃにお酒臭かったので……

 嫌なことがあったら、まず飲んでしまって、周りに止める人もいなかったのかも、と」


 ややあって、殿下はアルベルト様の方に顔を向けた。


「アルヴィン。塔の地下と書庫への立ち入りを許可しよう。

 今日は宿舎に泊まり、明日の朝、また来るがよい。

 ただし、あまり長居をしてもらっても困る。

 立ち入ってよいのは、明日明後日までとする。

 こちらで饗応するつもりはないから、必要なものは宿舎で用意させるように」


 アルベルト様は、軽くのけぞった。


「さすがに2日間だけでは、今後の目処が立つかどうか」


「ならば、明々後日(しあさって)の午後までだ」


「……ありがとうございます、叔父上」


 今回はここまでと見極めたのか、アルベルト様は深々とお辞儀をする。


「ウィルヘルミナも、同行させてよろしいでしょうか。

 彼女も、魔導研究所の装置アパラータスに立ち入ったことがありますので」


「地下は良かろう。

 書庫は、お前一人だ」


 エクトル殿下とサヴィーナ様は、話は済んだとばかりに立ち上がる。

 なんかもう、これでさよならって感じだ。


「あ、あの……

 学院の魔獣襲来で魔力暴発を起こされたヒルデガルト・ロックナー様が、こちらで療養されているとうかがっています。

 お目にかかるわけにはいかないのでしょうか」


 ここでお願いしないともう機会はなさそうなので、慌てて申し上げる。


 幸い、エクトル殿下は振り返ってくれた。


「……なにを対価として差し出すかによる」


「え。た、対価って……?」


「ここは、皇家が存在そのものを忘れたがっている場所。

 ゆえに、情報も知識も技術も、いちいち働きかけねば、なにも得られぬ。

 我らの助力を得たいなら、対価として釣り合うものを差し出してもらわねばならん」


 と、言われても……


 私が、私だけの判断で教えてもいいこと、「湖の宮」に役に立つか、面白いと思ってもらえそうなことっていうと──


「あ、あの。私、魔獣の目眩ましに『ライト』を使ったことがありまして。

 その後、色々試していたら、『ライト』で魔獣が倒せるようになったんです」


「「は? 『ライト』で??」」


 お二人の声が揃った。


「とりあえず『ライト?』って呼んでいるんですけれど。

 そのやり方を、お教えするのではいかがでしょう」


 エクトル殿下は、納得いかなさそうな顔で首を傾げた。


「どのレベルの魔獣まで倒せるのだ?」


「学院の時は、魔羆まで倒せました。

 倒して倒して倒して、倒しまくりました」


 ほう、とエクトル殿下は嘆声をもらした。


「平民でも使える『ライト』を強化して、カイゼリン桃花章を獲ったというのか」


「はい。一体ずつ打たなければなりませんが、発動は最速です」


「それは面白い。

 サヴィーナ。明日、その魔法を習って『泉』に案内してやりなさい」


「よろしいのですか!?」


 サヴィーナ様は驚いている。


「皇家にす者に、一度見せておくのも悪くはあるまい」


 薄く笑うと、エクトル殿下は先に部屋から出ていった。


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☆★異世界恋愛ミステリ「公爵令嬢カタリナ」シリーズ★☆

※この作品の数百年後の世界を舞台にしています
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