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魔導研究所みたい

「それじゃ、私からお話します」


「頼む」


 アルベルト様は、軽く頭を下げた。


「枢機卿が大神殿で騒動を起こしたことも、ご存知だ。

 あの騒動の報告書で、ミナの名前を見たような口ぶりだった」


 久々に思い出して、そんなこともあったなあああってなった。


「じゃあ、ヨハンナとエドアルド様の説明をはみ出さないように、書庫にいたら枢機卿がやってきて、よくわかんないけど暴れてましたってことでお話しするしかですね。

 でも、大丈夫かな……」


 これまで、言ってはいけないことを避けながら、説明するっていうことは何度かあったけど、なんとなく不安だ。

 アルベルト様の口ぶりからして、エクトル殿下という方は一筋縄で行かない方のような雰囲気だし。


「もちろん、俺も同席するし、ヤバくなりそうだったら介入する。

 ま、なにはともあれ、エルスタルの絵が出てきたことだけは、絶対に秘密だ。

 アレが漏れたら、俺達もまぁまぁマズいが、ヨハンナがどうなるか」


「そですね……」


 ヨハンナのお陰で色んなことがわかったのは良かったけど、エルスタルがどうやって力を得たのかって話は正直知りたくなかったあああって、今でも思う。

 怖すぎるもん。


 私が頷くと、アルベルト様は遮音魔法を解除した。




 馬車に乗り込む時、近所の子どもなのか、ちっちゃな女の子達がパブの女主人に連れられてやってきた。

 ぺこりとお辞儀をして、「ごこんやく、おめでとうございます!」と小さな花束をくれる。


 なにこれかわゆい!!


 ありがとう!って、一人ずつお名前を聞いて握手した。

 今まで「お忍び」ばっかりだったけど、「皇族」として移動していると、こんなこともあるんだな……

 貰った花束は、馬車に備え付けの花差しに飾った。

 甘い香りが広がってくる。


 また何組か「お手振り」をしているうち、人家は途絶え、馬車は森の中に入った。


「あ、湖!」


 しばらく行くと、木々の間から、青い湖面がちらっと見えた。

 大きな湖なのか、さざなみが立っているようだ。

 クリスタさんも、ほんのりと身を乗り出して見入っている。


 馬車が進むにつれ、次第に湖──ピアト湖の全貌が見えてきた。

 湖岸を一周すると3時間くらいかかるという、三日月型のかなり大きな湖の凹んだ部分の汀に、塔が何本も立ち並ぶ宮殿が建っている。

 屋根は瑠璃色、壁は真っ白な宮殿は、湖に映えて美しい。

 「湖の宮」という名の通り──なんだけど。


「アルベルト様、真ん中の部分……魔導研究所みたいですね」


 魔導研究所の「塔」と同じく、二階建ての建物の真ん中に太めの主塔がそびえ、囲むように主塔よりも高い4つの塔が建っている。

 その4つの塔の外側に、渡り廊下でつながった大きな別棟がいくつもくっついているようだ。

 なんだか魔導研究所を拡張してパワーアップしたように見える。


「そうだな」


 アルベルト様は、そっけなく頷いた。

 ここで、あまり詳しい話はしたくないらしい。


 馬車は二度、検問所を抜けて、宮殿の手前にある建物の前で私達は降ろされた。


 ここは訪問者用の建物のようで、アルベルト様と別れて、女官に案内された二階のお部屋は、寝室と居室の二間続き。

 私の荷物が運び込まれ、クリスタさんがてきぱきと指示して、クローゼットにしまわれる。


「ウィルヘルミナ様、お召し替えを」


 温かいお茶を飲んで一息ついたところで、ガラテア様の形見を仕立て直した、深い青のデイドレスに着替えた。

 髪も結い直し、婚約祝いに先代バルフォア公爵から頂戴した、真珠のイヤリングと揃いのネックレスをつける。

 大きな鏡の前で軽く動いて、クリスタさんに最終チェックをしてもらう。

 細かいところもいい感じに整えてもらって、大丈夫!ってなった。




 魔導省の式服に着替えたアルベルト様のエスコートで下に降りて、迎えに来ていた二人乗りの馬車に乗る。

 クリスタさん達は、留守番だ。

 皇宮の侍女とか近衛騎士は、「湖の宮」には入れないみたい。


 馬車はすぐに宮殿に着き、別棟の車寄せで私達は降ろされた。

 内側から扉が開かれ、背の高い、白いローブを着たすらりとした女性が、一人で出てくる。

 瞳が深い緑色なのはわかるけれど、口元は高い襟で覆われているし、ローブのフードもかぶっているので、ほとんど眼しか見えない。

 なんとなく、私達より少し上?って雰囲気だけど。


「アルヴィン殿下、レディ・ウィルヘルミナ。

 ようこそおいでくださいました。

 エクトル殿下がお待ちです」


 声は、穏やかなアルト。

 軽く腰を折ると、女性は名乗らないまま、私達にさっと背を向けて、玄関ホールの階段を上がっていく。

 侍女っぽい出迎え方だけど、どういう人なのかさっぱりわからない。

 けれど、ついていくしかないみたいだ。




 おろっとしながら二階に上がると、女性は長い廊下をずんずんと進んでいった。

 置いていかれないように、ちょっと大股に追いかける。


 なんだか妙な建物だな、と思った。

 廊下の幅は広く、天井は高い。

 床だって大理石だ。

 造りそのものは宮殿みたい。


 でも、皇宮なら、扉とか窓枠とかの建具は彫刻とかなんとかでコテコテに飾られている。

 廊下の壁まで、絵画やタペストリーで埋め尽くされてる。

 ここは、そういう装飾がほとんどなくて、まるで病院みたいな素っ気なさだ。

 女官や従僕の姿も見かけない。


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☆★異世界恋愛ミステリ「公爵令嬢カタリナ」シリーズ★☆

※この作品の数百年後の世界を舞台にしています
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