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心の準備

「だけどミナ、前は『お手振りなんてできません』って言ってたじゃないか」


 珍しく、意地悪な感じでからかってくる。


「それは……あの時はそう思ったですけど。

 でも、手を振ってもらったら、ちゃんとわかったよーって伝えたくなるですし」


 ぷすぷすとむくれながら言うと、アルベルト様はごめんごめんと謝ってくれた。


「ギネヴィアが、気にしていた。

 ヨハンナにしても、ミナにしても、俺達と一緒にいるために、やりたくないことも、本来やらなくていいことも、しなきゃいけない。

 その負担が大きすぎるんじゃないかって」


「ほへ? ああああ……」


 この間の、ヨハンナの研修の話か。


「私は、負担とか思ってないです。

 大変なことはいっぱいあるけど、楽しいこと、面白いこともいっぱいあるし。

 それに、私達だけが大変なんじゃなくて、アルベルト様やギネヴィア様も、一緒にいるために色んなことをしてくださっているでしょう?」


「ギネヴィアや俺が? なんかしてるっけ?」


「ギネヴィア様、フオルマにお嫁に行きたくないなら、全力で仮病使うとか、もっと楽な方法はあったはずじゃないですか。

 でもめっちゃ頑張って力をつけられたのは、皇家に貢献できることを示して、最終的にはヨハンナと一緒にいることを認めさせたかったのでしょう?」


「あああ……ま、そういう面もあるか」


「アルベルト様だって、私の地元に行ったり、トマによじのぼられたり、謎の踊りを覚えたり。

 帝都の社交も、頑張ったりされてるじゃないですか」


 にゅふって笑うと、アルベルト様は苦笑した。


「村もトマも大好きだけど、社交はなぁああああ……

 さらっとまるっと逃げているティアン兄上が、羨ましいよ」


「そいえば、なんでティアン殿下って、お出ましナシでOKなんですか?

 人前に出るのがお嫌いなのかもですけど、内々の集まりでも全然お見かけしないですよね?」


 クリスタさんも、確かにって頷いている。


「さあ……父上ですら、逃げ回るティアン兄上をどうにもできなくて、めんどくさいから放置!ってなったらしいからなぁ……」


「先代陛下でも無理って、どういう……」


 逆になんだそれ??ってなってしまった。




 そこそこ大きな町に入って、パブの貴賓室で昼ご飯を食べることになった。

 事前に連絡が行っていたのか、宿の主人以下総出でお出迎えしていただいてしまった。


 ここの貴賓室は離れになっている。

 中庭に面した、明るい部屋に案内された。

 当たり前のように貸し切りだ。


 すぐに、お昼ごはんが運ばれてきた。

 とろっとろの熱々オムレツに、皮ごと焼いたじゃがいも、ふっかふかの丸いパンをいただく。

 宮廷風の料理じゃないものを食べるのは、わりと久しぶりで、アルベルト様も私もがつがつ食べてしまった。

 宮殿の料理はめちゃくちゃ美味しいけれど、ご馳走ばっかりだとじわじわ疲れてしまう気がする。


 食後のお茶が来たところで、アルベルト様は手のひらを上に向けて、軽く呪文を唱えた。

 緑色の魔法陣が現れ、しゅるるっと音を立てて広がり、淡い緑色の光の壁が私達を包む。

 遮音魔法だ。


「ミナ。ミナは、大人になっても背が伸びない病気の人を見たことはあるか?」


 いきなり言われて、ぱちくりした。


「あー……隣村の靴屋さんの息子さんが、そんな感じで。

 20代後半のはずだけど、今の私の胸くらいの背でした」


 村には靴屋がないので、ちゃんとした靴は隣村まで買いに行く。

 私もそのお兄さんに作ってもらったことがあるけど、おまけとして、革の切れ端で造った、かわゆいお花の飾りをつけくれて、めちゃ嬉しかったのを覚えている。


「そうか。今から行く『湖の宮』には、障害を持つ皇族がたくさんいるんだ。

 身体の障害、心の障害、魔力の障害……それらが重なっている人もいる」


 あ、と思った。

 障害を持つ皇族は多いと聞いていたのに、今までそんな方とは一度も会わなかった。

 そういう方は離宮にいらっしゃるということなのか。


「今の『湖の宮』の守護者、エクトル叔父上の場合は、十歳くらいから成長が止まってしまった。

 さらに、成人してから失明もされている。

 少なくとも、エクトル叔父上にはお会いするのは決まっているから、なんというか……心の準備をしておいてほしい」


 いきなり会ったらびっくりするから、先に言っておくってことみたい。


「わかりました。

 というか……結局、ヒルデガルト様にはお会いできるんですか?」


「約束は貰えていない。

 ま、エクトル叔父上次第、かな。

 もともと『湖の宮』で確かめたいことがあって、一度訪問したんだが、その時はなにも見せてもらえなかった。

 ミナを連れてきて、ノルド枢機卿の最期の様子を教えてくれれば見せてやるって話になってる」


「え。あちらはどうしてそんなことが知りたいんですか?」


「エクトル叔父上は、母君は違うが、ノルド枢機卿の2歳上の兄にあたる。

 子供の頃、『雛の宮』でよく一緒だったとかじゃないのかな?」


 そっか。ノルド枢機卿にだって子ども時代はあったんだ。

 その頃は、かわいい弟だったりしたんだろうか。


 枢機卿の話を聞きたいのならギネヴィア様の方が良くない?と一瞬思ったけど、ギネヴィア様は枢機卿鳥を倒した本人だ。

 ギネヴィア様だって、話しにくいだろう。


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☆★異世界恋愛ミステリ「公爵令嬢カタリナ」シリーズ★☆

※この作品の数百年後の世界を舞台にしています
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