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お手振りって楽しいですね!

 数日後──


 アルベルト様と私は、「湖の宮」に泊りがけで行くことになった。

 宮で静養されている皇族方に、ご挨拶するためだ。

 今は、アルベルト様の叔父様がお一人、兄君姉君が合わせて三人、甥、つまりギネヴィア様の兄君がお一人、「湖の宮」にいらっしゃる。

 でも、ディアドラ様は「わたくしの時は、そんなことをしなかったのに」と不思議そうに首を傾げられた。

 ギネヴィア様も「湖の宮」には、いらしたことがないらしい。

 兄君は子どもの頃から療養されているそうなんだけど、やりとりも一切ないそう。

 皇族方の間でも、なんとなくタブーのようになっている雰囲気だ。


 なんでも、新年の賀や陛下の誕生日、建国祭などの祝い事の時、帝都にいらっしゃらない皇族方は陛下にご挨拶のお手紙を送るけれど、「湖の宮」だけは逆に陛下がご挨拶を送るそう。

 訪問するにしても、皇家に願い出て、皇家が承認したらあちらに連絡して、あちらのお許しがあって初めて伺えるという関係らしい。

 アルベルト様は、魔導研究所の再建のことで、皇太子殿下経由でお願いし、どうにかこうにか一度お伺いしたそうだけれど。


 なかなか行けることではないっぽい「湖の宮」に行くのなら、療養されているというヒルデガルト様にお会いしたいなってまず思った。

 結局、どうされているのか、伝聞の伝聞でしかわからないのだ。

 アデル様もずっと心配されているし、エレンだってそうだろう。

 ローデオン公国にいらしたファビアン殿下は、なおのことだ。

 でも、そのへんどうなんですかとアルベルト様にお伺いしても、煮えきらないお返事だった。


 なにがなんだかよくわからないけれど、お泊りの支度をして、朝一で馬車に乗る。

 幸い、お天気はいいかんじだ。

 半日、馬車に乗るので、男爵家で作っていただいたくすんだ赤の散歩服を着て、髪はコンパクトにまとめてもらった。

 泊まりがあるので、お目付け役?のクリスタさんも一緒だ。


 今回は、皇族への正式な訪問だから、乗るのは皇家のゴージャス馬車。

 ドアには大きく皇家の紋章が打たれ、中は例によってキンキラキン。

 普通の馬車よりも、窓が横に広く取られている。

 外の風景もよく見えるけど、外からも中がよく見えそう。

 近衛騎士は、前後に合わせて6騎つく。


「この馬車……もしかして『お手振り』とかする感じです??」


 乗り込んでから、アルベルト様にこそっと伺う。


「あー……帝都だと、このくらいの馬車は珍しくないから特に反応ないと思う。

 帝都を出てから、子どもが手を振ってくれたら振り返すくらいの感じかなあ」


「え。アルベルト様、いつの間に『お手振り』デビューしてたんですか!?」


「結構、前からしているぞ。

 ギネヴィアに、外に出るならそれくらいはしろとめちゃくちゃ釘を刺されたからな……」


 知らんかった……ってなりつつ、帝都を出る。


 「湖の宮」は、帝都から南西方向に当たる。

 私はこっち方面は初めてだ。

 来たことがあるアルベルト様は、これがポラータ橋、遠くに見える尖った高い山がヴィオス山と、名所っぽいところを教えてくださる。

 ちょっとドヤ顔になってるのがかわゆい。


 気がつくと、人家はまばらになり、まわりは畑が延々続いている風景に変わった。

 山はずうっと遠くに、青い稜線が見えるだけ。

 こんなに開けた土地を見るのは初めてだ。


 ほとんどが収穫を終えて、土が剥き出しになったままだけど、冬野菜を育てているのか、ところどころ緑色が列になってるところもある。

 日差しはまばゆくて、ぽかぽか。

 春も、もう近いんだなって感じだ。


「あ」


 畑の向こう、結構遠くでなにか作業をしてたおじさんが、帽子をとって、こっちにお辞儀をしたのが見えた!


「あ! あ! あ!」


 慌てて腰を浮かせたけど、馬車はどんどん進むから、窓にへばりつくようにして必死で手を振る。


「い、今のおじさん、私が手を振ったの、ちゃんと見えたかな……」


 おじさんが見えなくなって振り返ると、アルベルト様は「ミナかわいい! 慌てるミナちょうかわいい!」と謎に萌え転がっている。


 クリスタさんが、こほんと咳払いをした。


「ウィルヘルミナ様は、ギネヴィア殿下の『お手振り』をご覧になったことがあるのですよね?

 殿下は、どのように『お手振り』されていましたか?」


「えええっと、なんというかこう、めっちゃ上品な感じで……」


「どんな風に座ると、上品に見えると思いますか?」


「えええええええっと……??」


 見ると、クリスタさんは背もたれにはもたれず、背筋をぴしっとして座っている。

 誰がどう見たって、上品だ。

 こそっとまねっこすると、それ以上は言わず微笑んでくれた。


 とかやっていると、今度は子どもが三人、こちらに気づいて手を振ってくれてるのが目に入った。

 お使いの途中なのか、大きなカゴを年長の二人が両側からぶら下げている。

 上品に上品にって、手を振ると、ちゃんとわかったのか、トマくらいのちっちゃい子はぴょんぴょん飛び上がりながら大きく両手を交差させて振ってくれた!


 なんだこれ、超かわいい!


「こんな躍動感のある反応は、初めて見たなぁ」


 アルベルト様も、笑いながら身を乗り出して子どもたちに手を振っている。


「アルベルト様、お手振りって楽しいですね!」


 興奮気味に言うと、そうだなとアルベルト様は頷いた。


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☆★異世界恋愛ミステリ「公爵令嬢カタリナ」シリーズ★☆

※この作品の数百年後の世界を舞台にしています
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