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端の始末するまでが織り織り!!

 私と同じだ。

 私だって、アルベルト様と一緒になるには、したことがないこと、自分がすると思ってなかったことに取り組んで、どんどん変わっていかないと追いつかない。


「そっか。そういうことなら、もう頑張れって言うしかないけど……

 って、あれ??」


 だいぶ織れたので、また手前に巻き取ろうとして、巻き取れないことに気がついた。

 これ以上、織れないってことだ。


 捨て織りをし、ドキドキしながら織り機から外して測ると、ちゃんと予定通りの幅と長さで織れている!


「やったーー! 織り織りやっと終わったーー!

 たぶん花嫁衣装間に合うーー! たぶんーーー!」


「おめでとうなのです!!」


「って、始末! 端の始末するまでが織り織り!!」


 経糸たていとを生地に縫い込むように、端の始末をしていく。

 ヨハンナがやたら褒めてくるので、母さんや村のおばさん達なら、もっと速いし仕上がりも綺麗だからって言うと、ミナの実家村なんなん!?と、ぱちくりしてた。

 いや普通のド田舎村だから……


 仕上がったところで、どや!とヨハンナにリボンを広げて見せる。

 幅広のリボンは、微妙に波打っていたりするところもあるけど、だいたいのところは滑らか。

 上等な絹ほどじゃないけど、ツヤもしっかりある。


 ヨハンナは触ろうとしかけて、ふと手を引っ込めた。


「手、どうしたの?」


 見ると、かさかさになって、粉を吹いてるとこまである。


「あー……その。掃除洗濯などしたことがなかったので。

 クリームを塗ってみたのですが、どうにもこうにも」


「ああああああ、ちょっと待ってて!

 母さんのハンドクリーム取ってくる!」


 私の部屋に走って、母さんが練ったハンドクリームを取ってきた。

 うちはやってないけど、村では養蜂をしている家もある。

 譲ってもらった蜜蝋とはちみつに、アーモンドオイルを少し混ぜて練って、ちょっと黄色っぽいクリームに仕上げるのだ。

 ジャーから、多めにクリームをすくう。


「ちょっと硬いけど、めっちゃ効くから」


 手のひらでクリームを温めて、ヨハンナの手を取り、すりすりとすり込んだ。

 素っ頓狂なところも色々あるけど、ヨハンナは大事な大事な友だちだ。

 頑張れー頑張れーって気持ちを込めて、すりすりする。


「ていうか、女官の実習をしてること、ギネヴィア様はご存知なの?」


 あー……とヨハンナは視線を泳がせた。


「まだ申し上げておらんのです。

 手紙では、巧くご説明できる気がせず」


「ええええええええ……

 それ、早くお伝えしとかないと!」


 座学の代わりに掃除や洗濯をしていることだけギネヴィア様がどこかでお聞きになったら、ヨハンナをいじめているのかとお怒りになるかもしれない。

 キレた勢いで、皇宮の陰の実力者っぽいアンナ妃殿下と揉めでもしたら、後々禍根を残してしまうかも。


「それもあって今日来たのですが、夕食には戻らねばならんのです」


 何時から?て聞いたら、6時からで時間厳守とか。


「ヨハンナが来るなら、今日は速攻戻るっておっしゃってたけど、間に合うかな。

 定時でお戻りになる時でも、6時過ぎくらいになることが多いし」


 どっしよってなりながら、なにはともあれすりすりしていると、クリームはヨハンナの肌に馴染んで消えていった。


「お会いできなければ、ミナから、平民の侍女とか気に食わねえなどという話ではなく、アンナ妃殿下の親心的なアレなのでと説明してもらうしか。

 うお、しっとりつやつや!なのです!」


 ヨハンナは、両手を上げて喜んでくれた。

 血色感を取り戻した手は、ぴかぴかだ。


「クリーム、使いかけで悪いけど、持ってって。

 時間をかけてすりこまなきゃいけないのがアレだけど、めっちゃ効くっしょ?」


「よいのですか? 助かるのです!

 って、そろそろ時間がががが」


「え。もう?」


 言われて時計を見た。

 でもまだ5時前だ。


「ここまで来るのに、わたくしの早足で30分以上かかったのです。

 遠いのですよ侍女の宿舎……」


 とりあえず、ヨハンナは帰り支度を始めた。

 ギリギリまで玄関で待って、駄目なら私が送りながらもうちょい話そうってなって、外套を取ってきて、玄関ホールの隅っこで待機する。


 じりじりしていると、カラカラと軽快な馬車の音が聞こえた。

 やったー!と思って、窓を覗くと、今日はお忍びでお友達のお茶会にいらしていたディアドラ様の馬車だ。

 寒いのが苦手で、毛皮のコートでもこもこになったディアドラ様が、クリスタさんを連れて降りて来る。

 ヨハンナは、綺麗に跪礼をしてご挨拶した。


「あらヨハンナ。久しぶり。

 どうしたの? こんなところに二人で」


 ヨハンナがご説明すると、「せっかくだから、こちらで食べていけばいいのに」とディアドラ様は首を傾げられた。


「そうさせていただきたいのは山々なのですが、『特別扱いしていただいちゃってるんですよ感』を出すのは、現状、好ましくなく」


「そういうものなの?

 あなたがギネヴィアの『特別』なのは、皇宮の者は皆知っているでしょうに」


 ディアドラ様は、傍らのクリスタさんをちらっと見た。

 ベテラン侍女のクリスタさんは、「そういうものでございます」と頷く。

 ディアドラ様は、また遊びにいらっしゃいとヨハンナに微笑んで奥へ向かわれた。


 しかし、傾いていた陽が沈みそうになっても、ギネヴィア様はお戻りにならない。


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☆★異世界恋愛ミステリ「公爵令嬢カタリナ」シリーズ★☆

※この作品の数百年後の世界を舞台にしています
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