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侍女見習いの朝は、早い

 ところで、4月からギネヴィア様付きの侍女になるヨハンナも、研修を受けに皇宮の侍女棟に滞在している。

 けど、建物が結構離れているし、なかなか会えるタイミングがない。

 2月のなかばくらいになって、ようやくタイミングが合って、ディアドラ様の小宮殿でお茶することになった。


 といっても、花嫁衣装作りが終盤なので、こっちは作業しながらだ。

 学院を卒業したら、少しは時間の余裕できるかなって思ってたけど、妃教育&挨拶まわりがめっちゃ大変だし、なんかもうギリギリ感がヤバい!


 昼過ぎに小宮殿に戻り、ディアドラ様のアトリエで必死に最後のリボンを織っていると、女官に案内されて、ヨハンナがやってきた。

 侍女見習いの制服なのか、紺色の地味なワンピースを着て、うなじで髪を丸めてるんだけど、なんだかへろへろしている。

 目の下に、うっすら隈も出てるし。


「ちかびれた〜……なのです」


 女官が下がった瞬間、手近なソファに、ぽすっとうつ伏せにダイブしてしまった。


「どうしたのヨハンナ! 大丈夫!?」


 慌てて駆け寄ると、ヨハンナはもがもがともがいて、でも力尽きて、顔だけこっちに向ける。


「侍女見習いの朝は、早い! 早すぎる!! なのです!」


「そっか。侍女はあるじの身支度の前に自分の身支度するし、見習いは侍女の身支度を手伝うから……」


「主が起きるのが7時とすれば、朝6時に自分の身支度完了でギリなのです」


「てことは、起きるの5時半じゃん!

 ヨハンナは、そうでなくても朝が弱いのに……

 お茶でも飲む?」


「毎日毎日、紅茶を淹れて淹れられてで、おなかたぷんたぷんなのです」


「じゃ、コーヒーは」


「よろ! 激しくよろ! なのです!」


 給茶室でお茶の支度をしかけてた女官に声をかけ、自分でコーヒーを淹れて戻る。

 アルベルト様もギネヴィア様もコーヒーがお好きなので、私はコーヒーの方が淹れ慣れているのだ。


「ふいいいい……」


 どうにか起き上がったヨハンナはくぴくぴとコーヒーを飲んで、おもむろに復活した。

 私も傍のオットマンにかけて向かい合う。


「ていうか、大丈夫?

 侍女の研修って、まわりはみんなご令嬢ばっかりじゃん。

 いじめられたりしてない?」


「今は全然オッケーなのです。

 午前中は、同時開催の女官コースに参加してるですが」


「は?? なんで??」


 ヨハンナが平民だから!?ってブチ切れそうになったけど、ヨハンナは「ちと長話になるので、作業を続けるのです」と淡々と勧めてきた。

 毒気を抜かれて、そんなら……って、織り始める。

 ヨハンナは「布とはこうやって織るものなのですか」とか眼鏡を押し上げてガン見しながら、例によってつらつらと経緯を説明してくれた。


 まずは初日。

 午前中は研修全体のガイダンスがあり、午後はあちこち皇宮内の施設を見学していたところ。

 二十人ばかりいる侍女見習いの一人が、すれ違いざまに足をかけてきて、ヨハンナはべしゃっと転んでしまった。


「え、なにそれ!?

 そんなベタな嫌がらせ、学院では誰もしなかったじゃん!?」


 思わずを強く引っ張ってしまって、慌てて直して専用の櫛でトントンする。


「わたくしもびっくりしたですが。

 学院に通わず、親元で花嫁修業されていた方でしたので。

 とりま、べしゃっとなったまま、その方の系譜と親兄弟の経歴をつらつらそらんじてみせたのです」


 軽く噴いた。

 お前が誰だかわかっているし、お前の家族がどこのどういう人間なのかもわかってるぞってことだ。


「そんなことしたら、まわりがドン引きすると思うんだけど」


 ジト目で言うと、ヨハンナは視線をそらした。


「あちらがド平民に貴族社会の洗礼を受けさせてやる!ということならば、わたくしもわたくしの洗礼をかまして置かねばと思うたので」


 で。侍女見習い達の「先生」である年配の婦人・アンナが見咎めて、なにやってんだお前らってなった。

 嫌がらせ令嬢は「わざとではない」と雑に言い訳する。


 が、これがまずかった。

 先生は軽くキレ、ついうっかりで高齢の皇族を転ばせたらどうする、ご懐妊中の妃を転ばせたらどうする、そんな身のこなしが不確かな者は、宮中には不要だと声高に言い渡した。

 嫌がらせ令嬢は逆上し、たった一度の失敗で放逐など不当だ、家から抗議すると抗弁する。

 ヨハンナは名前を言わないけれど、ま、そう言い出すくらいだから、それなりの家格の方なんだろう。


 先生は、芝居がかった高笑いをした。


「わたくしに、抗議ですって?

 ああ、夫を亡くすとはなんと辛いことでしょう。

 亡くなられてまだ二年も経たぬというのに、臣たる者からこのようなあなどりを受けるとは」


 ただ「アンナ」としか名乗っていなかった「先生」は、先代皇帝の妃殿下の一人だったのだ。

 子爵家から侍女となって先代皇帝の手がつき、アルベルト様の姉君にあたる皇女を二人お産みになって、それぞれ他国の王族に嫁がせている方。

 やたらめったらいた先代皇帝の妃殿下の中でも、明らかに勝ち組だ。

 けれど、皇妃ではないので表にはほとんど出ておられず、侍女見習い達は誰もお顔を知らなかった。

 ヨハンナも、てっきりベテラン侍女とかそういう人なんだろうと思っていたそう。


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☆★異世界恋愛ミステリ「公爵令嬢カタリナ」シリーズ★☆

※この作品の数百年後の世界を舞台にしています
― 新着の感想 ―
ミナに課せられた宿題でもある晩餐会、大変そうです。 直近ならローマ教皇の葬儀、ちょっと前なら天皇陛下の即位の際の席順とか……同格、しかも国家元首クラスが多いので頭痛くなりそうで……! ジェラルディン様…
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