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味方を増やしていかねば

 ジェラルディン様は頷いた。


「その認識で、正解です。

 貴族の舞踏会に平民を招くのは、あまり褒められたことではありませんが、ガーデン・パーティなら特に気にしないものですから。

 フィリップスの場合は、有力な平民の弁護士ともつながりがありますから、そういう者にも次期子爵を見せておきたかったのでしょう。

 ついでに言うと、ガーデン・パーティならデビュー前の子どもでも出席することができます」


 そういえば、それっぽい人も結構来ていた気がする。


「わかりました。ありがとうございます。

 そういえば去年、アルヴィン殿下のお誕生日に、研究者の方々をお招きして、正式な晩餐会ではなくビュッフェスタイルの食事会をしたんですけれど。

 そういう会は晩餐会とガーデン・パーティの中間で、ガーデン・パーティ寄りみたいな感じですか?」


「正解。研究者仲間ならそれでも良いですが、夜の催しならば、晩餐会か舞踏会にした方が好ましくはあります。

 普通の貴族だと、侮られたととる人もいるでしょうから」


「なるほど……」


 確かに、ギーデンス公爵夫妻をああいう席に招いたりしたら、絶対ブチ切れそうだ。

 ビュッフェスタイル、どうしてもわちゃわちゃした感じになるし。

 先代バルフォア公爵であるアルベルト様のおじいさまは隠居の身だし、気軽に来てくださるかもだけど、バルフォア公爵夫妻をお招きするのはちょっと……って私でも思う。


「仄聞するに、アルヴィン殿下は社交が苦手な方のようですから、レディ・ウィルヘルミナ、あなたが積極的に社交をしなければなりません。

 それには、招かれるばかりではなく、ホストも務めねば。

 少なくとも年に1度、殿下とあなたの主催で晩餐会を開くのを目標にしなさい」


「え。わ、私達が、ですか?」


 舞踏会なら少しは慣れたけど、晩餐会はまだまだ普通に怖いのに!?


「ええ。皇族のまま研究を続けるなら、その成果でもって帝国に貢献しなければなりません。

 そのためには、陛下や皇太子殿下に頼るだけでなく、アルヴィン殿下の研究を理解し、助けようと考える味方を増やしていかねばなりません。

 人気取りをする必要はありませんが、皇族としての存在感は示していかねば。

 それに、あなたが良い妃だと知られるようになれば、ベルフォード男爵家の者も優遇されるでしょう」


 前にヨハンナが言ってたことと、かぶるけど──


「男爵家の者が優遇される、というのはどういうことですか?」


 あれ?この子肝心なところがわかってないの??って感じで、ジェラルディン様は目を瞬かせた。


「あなたとアルヴィン殿下が結婚すれば、男爵家の子息は、皇弟殿下の義理のきょうだいになります。

 子息の子なら、皇弟妃が義理の叔母。

 子息の孫なら、義理の大叔母が皇弟妃。

 どうしようもない無能ならとにかく、人並みの能力があるならば、出世にしても縁談にしてもなにかにつけて考慮されます。

 あなたが賢妃として知られるようになれば、さらに有利になるのではないですか?」


「ああああああああ……」


 そっか。特に口利きとかズルしなくたって、そういうことになるんだ。

 ご恩返しが全然追いついていない領主様達にも良いことがあるのなら、もう妃殿下人生?を頑張るしかない。


「わかりました。励みます!」


 気合を入れると、ジェラルディン様は、ほんのりと微笑んでくださった。


「だからこそ、皆、こぞって皇家との縁を欲しがるのですよ。

 それにしても、あなたは運が良い。

 結んだ縁をかさに着すぎて評判を落とし、逆に縁を繋いだ者の足枷になるような家も珍しくないのに、ベルフォードはわかっているようですね。

 男爵家は、あなたの婚約の披露目をしなかったのでしょう?」


「ええ。していません」


 言われてから、またまた今頃気がついた。

 もし、男爵家が大々的に婚約披露をしていたら、アルベルト様との縁を見せびらかしているようで、招かれた方々はイラッとすることにもなったかもしれない。

 自慢するつもりは全然なかったとしても。


「領主様も奥様も、堅実で、信義を重んじる方々なので」


「そこは『父も母も』と言うべきですが。

 いずれにせよ、得難い美徳です。

 嫁いでからも、大切にしなければなりませんね」


「はい!」


 よろしい、とジェラルディン様は頷いてくださった。




 講座や「お話」に少し慣れたところで、挨拶まわりも始まった。


 まず、アルベルト様と伺ったのは、先代皇帝の第四皇妃殿下。

 第一から第三皇妃殿下は亡くなられているので、皇宮にいる皇妃のトップとなる。

 皇太子殿下案件として結ばれた私達の婚約でも、ひっくり返そうと思えばひっくり返せないこともないお立場なので、めっちゃ緊張した。

 でもお会いしてみると、ふくよかなぽわんとした感じの方で、今は趣味の音楽に打ち込まれているそう。

 楽器はなにかできるのかと聞かれて、特になにもとアルベルト様と顔を見合わせると、それなら興味ないわー感をわりと露骨に出してこられたので、頑張ってゲルトルート様のお母様のサロン・コンサートの様子をお話をした。


 次に伺ったのは、第一皇妃であるイングリット妃殿下と一緒にお茶をした。

 妃殿下は古代叙事詩が大変お好きとのことで、アルベルト様と魔導考古学の話で盛り上がっていらした。

 古代叙事詩では、正義の女神ユスティアに捧げられた大神殿がなにかにつけて出てくるのだけど、遺構は残っていない。

 なので、実在するのかどうか、実在するならどこにあったのか、歴史学では何百年も論争が続いているのだけど、魔導考古学のアプローチで決着がつくのではないかと妃殿下は期待されているようだった。

 眼をキラキラさせて早口に語る妃殿下のご様子には謎の既視感があり、ぶっちゃけ萌え語りで盛り上がるヨハンナとかアデル様みたい。

 妃殿下が本当に貴腐人でいらっしゃるかどうかはわからないけれど、神絵師ことクラリッサ様のように、萌えが妃殿下の支えになってたらいいなと内心思ってしまった。


 その他、実務家肌の第二皇妃殿下とのお茶で結婚準備の進捗状況をぐいぐい訊かれてダメ出しをされまくったり、皇太子殿下ご夫妻と内々で夕食を食べたり、アルベルト様のきょうだいの集まりとか、妃殿下方の集まりとか、若手皇族の集まりにも顔を出させていただいた。

 ティアン殿下にお目にかかれたら、今度こそちゃんとお礼を言わなきゃって思ってたのに、こういう場にはお出ましにならないって聞いて、ちょっとがっかり。

 今は公爵夫人となられているアルベルト様の姉君に「田舎男爵の養女が、どうやって皇子を籠絡したの?」と直球でぶっこまれたりとか、色々色々あったけど、とりあえず「どんな横紙破りが嫁いでくるのかと思ったけど、思っていたよりはマシっぽい」程度には受け入れていただける感じになって、ほっとした。


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☆★異世界恋愛ミステリ「公爵令嬢カタリナ」シリーズ★☆

※この作品の数百年後の世界を舞台にしています
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