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怒涛の「妃教育」

 領主様達と合流して、バルフォア公爵家の方々と夜食をとった。

 今回は、ギネヴィア様やディアドラ様も一緒で、「ウィルヘルミナは、舞踏会ももう大丈夫ね」とお二人に褒めていただいて、ほっとする。

 でも、アルベルト様が「俺は? 俺は?」と聞くと、「なにをしでかすかわからなくて、まだまだ怖い」と斬り捨てられていて、しょんもりしていた。

 ま、でも、ぶっちゃけ、怖いか怖くないかで言えば、私もまだまだ普通に怖い……

 ディアドラ様に、セルト大公の件をこそこそっとお伝えしたら、ディアドラ様はいたましげに眼を伏せられ、後で大公とお話してみましょうとおっしゃった。


 少し休憩して、フランシス卿とも踊った。

 フランシス卿は、晩餐会の時よりもお話しやすくなっていて、「ライト?」をどう定式化していけばよいか相談させていただいた。

 ゲルトルート様はご懐妊で、今回の舞踏会はお休みだったけれど、エミーリア様とはお話できて、ミカエラ様を巡る貴公子達の熾烈な恋の鞘当話を聞かせていただく。


 お話したい人とお話し、踊っておきたい方々と踊って、明け方、舞踏会は無事終了!

 全体で言えばめっちゃ楽しかったけど、やることが多すぎて、大変だった。

 来年からは、もう少し楽になるといいな……


 そして新年のあれやこれやも無事終わり、数日後、私はディアドラ様の小宮殿に戻った。


 ついに、怒涛の「妃教育」の開始だ。


 十代前半からなかばくらいの皇子・皇女殿下と皇族の子どもたち──つまり、アルベルト様やギネヴィア様の弟妹や、いとこ達──と一緒に、帝国内外の地理と歴史、文化などについて学ぶ基礎講座的なものを受けつつ、妃向けに整理された皇家や主要貴族の歴史のお話もあり、合間に皇族方への挨拶まわりや大貴族との社交らなにやらも詰め込まれ、スケジュールは秒で真っ黒になった。


 12月、試験勉強でひーひー言っている私を見て、ディアドラ様は「妃教育の頃を思い出すわ」とおっしゃっていた。

 そんなにハードなのかと思っていたけれど、ほんとにハードだ。


 週1回の基礎講座には、そもそも「教科書」というものがない。


 副読本として指定された本を事前に読んだ上で、講師の板書をひたすら書き取り、整理して抜書したものを講師補佐に見てもらって、大丈夫だったらOK、重要なところが抜けていたら、ノートから作り直しだ。

 学院でも歴史や地理の授業は受けてたけど、全然聞いたことのない話もバンバン出てくる。

 昔、ヨハンナに貸してもらった少女小説では、王子に見初められた男爵令嬢が妃教育を受けて、ついていけなくて投げ出すってパターンがちょいちょいあったけど、一般的な花嫁修業しかしていない人がいきなりこんなことやらされたら、まずついていけないと思う。

 一緒に講座を受けている方の中には、「雛の宮」でお話したことのある方もちょいちょいいて、講座の後にお茶に招いていただいたりした。


 ある意味、講座は学院の延長みたいな感じだったけど、妃向けの「お話」はヤバかった。

 先生と一対一なのだ。


 先生は、先々代皇帝の元皇女、ジェラルディン様。

 もう60歳を越え、真っ白になった髪をふんわりと大きく結われている。

 優しそうだけれど、背筋がぴしっと伸びた、めちゃめちゃ上品な方だ。

 侯爵家に降嫁されたけれど夫君に先立たれ、お子様もいなかったことから皇宮に戻って、ずっと皇族や妃の教育に携わっていらっしゃるそう。


 教えていただくのは、サンルームのついた小さなサロン。

 ベージュを基調とした柔らかなトーンでまとめられた居心地のいい空間で、傍から見たら、優雅にお茶を楽しんでいるように見えるかも。


 最初に、妃となる者が皇家や貴族の歴史をしっかり学ばなければならないのは、晩餐会を開く時、どんなゲストを招いても、妥当な順番でダイニングに入場してもらえるようになるためだと言われた。

 なんでそんなことが目標なの??と一瞬ポカンとしたけど、並び順がおかしいと、下げられた側はイラッとするだろうし、上げられた側だって居心地が悪いだろう。

 そして、全員が「このホスト、全然わかってないな」って思うに決まってる。


 で。この順番というのが曲者なのだ。

 ホストが客をどう評価しているのか、誰の目にも明らかになってしまう。


 主賓は、どんな立場の者でも先頭。

 主賓の関係者も招いていれば、上から挟み込んでいく。

 これは、バルフォア公爵家の晩餐会がそうだったから、すぐに理解できた。


 問題はその他のゲストなんだけど、皇族・公爵または辺境伯・侯爵・伯爵・子爵・男爵・騎士爵が1組ずつなら、普通に格の高い順でいい。

 といっても、公爵家の跡継ぎが、公爵家が持っている伯爵位を名乗っているとかだと、将来を見越して、公爵に準ずる者として扱う。

 跡継ぎ以外の子の場合は、ケース・バイ・ケース。

 こういう話で「ケース・バイ・ケース」って、落とし穴になる予感しかしないんですけど……


 それはとにかく、上手いこと爵位がバラけていることはほぼないので、同格の者が複数いた時の判断を考えなければならない。

 公爵の場合は、皇族公爵が優先。

 皇族公爵が複数いたら、名乗っている称号が作られた順。

 普通の?公爵も、公爵位を得た時期が古い順になる。

 もとは小国だったバルフォア公爵家が、そこそこ大きな国だったギーデンス公爵家より優先されるのは、このルールのためだ。


「では、レディ・ウィルヘルミナ。

 領地貴族のA伯爵夫妻は、帝国創立時からの古い家柄。

 同じく領地貴族のB伯爵夫妻も、帝国創立時からの古い家柄。

 この場合、なにを見て優先順位を決めると思いますか?」


 ジェラルディン様の口調はゆったりとして、表情は柔らか。

 でも、質問される時は、ちょっとだけ身を乗り出されるので、なにげに圧が強い。


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☆★異世界恋愛ミステリ「公爵令嬢カタリナ」シリーズ★☆

※この作品の数百年後の世界を舞台にしています
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