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よろしければ、一曲

 婚約者を他の男と踊らせたくないのわかるー!ってめちゃくちゃ同意しているエドアルド様に、ウィラ様が苦笑された。


「そういえば、去年はミナと踊らなかったな」


「そですねー……

 皆様、物凄い勢いだったので、出遅れてしまって」


 男装ウィラ様とちゃっかり?踊っていらした公爵夫人が、誰のことかしら?とばかりに明後日の方を向いていらっしゃる。


「そうか。こんな格好でも良ければ、踊ってみるか?」


「へ? いいんですか!?」


「もちろん!」


 ウィラ様は笑顔で頷いてくださった。


 アルベルト様は露骨にほっとし、エドアルド様は渋々というお顔だ。

 相手が女性なら全然OKのアルベルト様と、相手が私でも微妙な雰囲気を出してくるエドアルド様。

 エドアルド様の方が、闇が深い気がする……


「ではレディ・ウィルヘルミナ。お手を」


 貴公子のお辞儀をしながら、ウィラ様が手を差し出してくださる。

 キリッとした表情を作られて、ドレスをお召しなのに、女の子が夢見る理想の王子様みたい!


 思わず赤くなりつつウィラ様に手を預けて、くるくるって回ったと思うと、もう踊りの輪の中にいた。


 ウィラ様のリードは、風のように軽い。

 ダンスが上手い男性というと、オーギュスト様やブレンターノ公爵がすぐ思い浮かぶけれど、男性とは違う柔らかさがあって、めちゃくちゃ踊りやすい。

 ウィラ様のお優しさが、そのまま出ているよう。

 うっとりほわほわした気持ちで踊っているうちに、あっという間に曲が終わってしまった。


 もっともっと踊っていたいー!ってなるけれど、エドアルド様がちょっと怖い。

 ウィラ様と軽く腕を組んで戻ると、セルト大公とミカエラ様がアルベルト様達に加わっていた。

 慌てて、ご挨拶する。

 ミカエラ様には素敵な婚約祝いを頂戴したけれど、お会いするのは1年ぶり。

 改めて婚約おめでとうございますとおっしゃっていただいて、ありがとうございます!ってなった。


 と、ここでセルト大公は、なにか念を押すようにちらりとアルベルト様を見た。

 アルベルト様は、微笑んだまま頷き返す。


 和やかな雰囲気なのはいいけど、なんだろう?と戸惑っていると、セルト大公は私に手を差し出してきた。


「レディ・ウィルヘルミナ。よろしければ、一曲」


 あ、と思った。


 去年の叙勲式の舞踏会で、アルベルト様とセルト大公は、ミカエラ様と踊る踊らないで揉めてしまった。

 先代バルフォア公爵のおかげで騒動になる前になんとかなったし、その後、ブレンターノ公爵の仲立ちで和解されているけれど、そのことを知っている人より、揉めてるとこだけ見た人の方が絶対多い。

 もう修復済みですよと示すためには、大公閣下と私が踊るのが一番手っ取り早い。


 ──という話になって、本当に踊るかどうかは私の判断に任せるってことになった……のかな?


 ミカエラ様は、ほんのり心配そうに私をご覧になっている。

 いやいやいや、アルベルト様が仲直りされている以上、ここで私が突っぱねるとかないので!


「光栄です。ぜひ」


 にこっと笑って、大公閣下に手を預けると、ほっとした空気になった。


 そのまま、フロアに出る。

 これはもう、ど真ん中で堂々と踊らないといけないやつだ。

 セルト大公に道を譲るように、人々が分かれていく。

 落ち着いて落ち着いてって自分に言い聞かせながら、背筋をぴんとして肩を下げる。

 肩を下げた方が、首が長く見えて優美に見えるのだと、ゲルトルート様にワルツのレッスンで最初に教わったのだ。


 こっちを見て、ひそひそしている人があちこちにいる。

 大公家がどうの、私がどうのと言ってるっぽい声も漏れ聞こえた。

 長い間、大公閣下が帝都に出てこなかったのは、この辺もあるんだろうなって、秒でわかってしまう。


 短調の、めっちゃ有名なワルツが流れてくる。

 ぽかっと空いたフロアの真ん中で組んだ。


 大公閣下の動きは大きくて、リードはどこかぎこちない。

 でも、気を遣おうと変に縮こまっていない分、こちらが合わせていきやすい。

 なんとかなりそうだ。


 といっても、なにをお話すればいいのか、さっぱりだ。

 帝都の貴公子にめちゃモテなミカエラ様のお相手がどうなるのか気になるけど、閣下お訊ねするのはいくらなんでも無遠慮だし。


 セルト大公のいかめしいお顔を見上げたまま、しばらく踊る。

 去年は、皇家へのお怒りぶりなど「とにかく一本気な方」という印象だったけれど、どこか憂わしげだ。


「叙勲式の折りは……不躾なことをした。

 貴女も、さぞ不快に思われただろう」


 セルト大公は、眉尻を下げて目礼された。

 これって、大公という立場でできる範囲で、私に謝ってくださってるってこと……でいいのかな??


「私は、ちっとも気にしていません。

 皇弟殿下と男爵家の養女なんて話、驚かれるのが当たり前です」


 実際、私は気にしていない。

 継承権持ちの皇族と男爵令嬢なんてナイだろって言われはしたけど、領主様達や、私の実家を直接馬鹿にされたわけじゃないし。


 大公閣下は、ほっとしたように吐息をついた。


「そうか。そう言ってくれるとありがたい。

 あれから、ミカエラにだいぶ叱られたのだ。

 自分が愛する者と引き裂かれたからといって、次代に同じことをするつもりなのかと」


「ミカエラ様が、閣下をお叱りになったのですか!?」


 おっとりして愛らしいミカエラ様が、怖い伯父様を叱ったとか、びっくりだ。

 思わず聞き返してしまった。


Dmitri Shostakovich - The Second Waltz

https://www.youtube.com/watch?v=IOK8Jb76ibc

※映像は『山猫』(1963)『アンナ・カレーニナ』(1997/2012)ほか

ミカエラ「18秒あたりで一瞬映る、イケオジすぎる伯父と婚約者が踊ってるのを憂わしげに眺めているアラン・ドロンの顔の良さ……!」(早口)

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☆★異世界恋愛ミステリ「公爵令嬢カタリナ」シリーズ★☆

※この作品の数百年後の世界を舞台にしています
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