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塔の研究室

 私、ミナ……じゃなくて、ウィルヘルミナ・ベルフォードが、秋学期からヘルメネア帝国の貴族学院1年に編入して1ヶ月ほど経った10月の放課後──


「え!? ミナ、今日はギネヴィア殿下のお茶会に呼ばれてたんじゃなかったっけ?」


 いつものように授業が終わった後、貴族学院のキャンパスの外れにある魔導研究所の研究室に顔を出したら、目が見えないくらい分厚い瓶底眼鏡をかけた研究員のアルベルト様にびっくりされてしまった。


「あああああ!そうだ、そうだったああああ!」


 この学院は名前の通り皇族や貴族、あとは若干の富裕な商人の子供なんかが勉強する学校。

 私は田舎の農家生まれだけど、適性を持つ人がほとんどいない光魔法が使えることがわかり、領主様の養女になって学院に通わせてもらっている。


 学院に入ったのは魔法の使い方を習うため。


 魔力自体は生まれつき誰にでもあるけど、ほとんどの人は少ししかなくて、魔法を使うことはできない。

 貴族や皇族はもんのすごい魔法を使える人がたくさんいて、初代皇帝なんて魔法で海を割って、魔獣の群れに追い詰められた民を導いたという話まである。


 で。もともと皇族と貴族のために作られた貴族学院以外で魔法を教える学校はない。

 なので猛勉強してなんとかかんとか編入できたのは良かったけれど、魔導演習の先生方にあなたは規格外すぎて、実習は指導できませんと言われてしまった。

 先生方に連れられて、この魔導研究所に相談に来たら、なんだかんだあったあげくアルベルト様が引き受けてくださることになって、普通の授業は学院で受けて、魔法の使い方はここでアルベルト様に習うことになったのだ。


 魔導研究所は、5つの塔で構成された大きな石造りの建物だ。

 学院から見ると、2階の屋上から5つの塔がにょっきり生えている?ように見える。

 アルベルト様は、見た感じ20歳くらいの若い研究員なのだけど、「火の塔」「水の塔」「風の塔」「土の塔」に囲まれた「主塔」と呼ばれる塔の最上階をまるっと研究室として一人で使っているから、エラい人なんだろう。


 そんなこんなで頑張って入ったのにちょっと当てが外れた学院だけど、そういう学校だから、生徒にはもちろん皇族や他国から留学している王子様、王女様もいる。


 今日はギネヴィア第8皇女殿下のお茶会に招かれていたのに、すっかり!忘れて!はるばる研究所まで来てしまったみたい。

 しかも最上階、5階まで……


「じゃ、終わったらまた来ます!」


「ちょ、ちょっと待って。そのままじゃなんだから……」


 アルベルト様はダッシュで戻ろうとした私を椅子に座らせると、資料やよくわからない器具でごたごたしている机のどこかからブラシを見つけて、雑に二つ結びにしていた私の髪を梳いてくれた。


 アルベルト様は、男の人だけど、腰まで伸ばした栗色の髪を毎日自分で三つ編みにしているとかで、髪をいじるのに慣れてる。

人に髪を触られるのが苦手なんだって。

 うーんうーんと言いながら、あれこれ試して、結局2つに分けて耳の上でそれぞれ綺麗に結んでくれた。

 作業用の厚手の手袋をしたままでこれって、ほんと器用だな……


 はいできたーと、いい笑顔で言われて、鏡で見せてくれた。

 もう16歳なのに、子供っぽいんじゃ?て、ちょっと思ってたけど、まだ似合ってるしいいか!ってなった。


 アルベルト様はついでに襟とか肩のラインも直してくれた。

 女子の制服は、胴を絞ってスカートを膨らませた、プリンセスラインの膝下丈ワンピースなのだけど、私の着方が悪いのか、令嬢と違ってどたばた動くのが悪いのか、しょっちゅう襟がひっくり返ったり、変なことになってしまう。


「ありがとうございます!」


「殿下にお会いする前に、ちゃんとしているか確かめるんだよ」


「はーい!」


 まったく世話がやける……とぶつくさ言っているアルベルト様に手を振って、私は階段を駆け降り、お茶会が開かれる皇族寮へ走った。


ベルフォード男爵「やっぱり学院でも無理だったか……」(がっくり)

男爵夫人「ままま、指導できる方と巡り会えたようですから……」(肩ぽん)

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☆★異世界恋愛ミステリ「公爵令嬢カタリナ」シリーズ★☆

※この作品の数百年後の世界を舞台にしています
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