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ちょっと心配そうに

 というわけで、母さんになんとかなりそうだと返事を書いて、まずは織り織りだ。

 小さな織機なので、一気に織るのではなく、2m分ずつ作業していく。


 貴族の女性は、刺繍はするけれど手織りは普通しない。

 興味津々のディアドラ様がガン見してくる中、経糸を母さんに教わった通りに整えて、どうにか張れた。

 あとは歪んだりしないよう注意しながら、織りまくるだけ!


 一番下、裾になる部分の刺繍は、アーモンドの花の模様に決めた。

 アーモンドの花は、淡いピンクの五弁の花で、付け根の方は濃い赤。

 ディアドラ様のアイデアで、黄色い糸でころんとした結び目を散らし、雄しべってことにする。


 他の部分は、色んな方にお願いして、赤系縛りで好きな花の模様を刺していただくことにした。


 学院にも持っていって、ヨハンナやリーシャに頼んでいたら、アントーニア様も刺してくださることになった。

 というか、お昼休憩の30分くらいでゴージャスな赤いバラの文様を1つ完成させてくださって、しゅごい……しゅごい……となる。

 以前、刺繍の「生命の樹」を見せてくださったラトゥール伯爵家のブリュンヒルデ様は、わざわざおうちに持ち帰って、めっちゃリアルで超かわゆいアマリリスの続き模様を刺してくださった。


 行軍訓練などハードな研修を終えて帝都にいったんお戻りになったギネヴィア様も、「刺繍なんて久しぶり」とおっしゃりながら、赤いカメリアを刺してくださった。

 ギネヴィア様は、わたくしも村の結婚式を見たい!とおっしゃったけど、魔導騎士団の任務の都合もある。

 皇宮で行う結婚式には出席していただくので、その時に村の花嫁衣装をお見せすると再度お約束した。


 とか準備をしつつ、勉強も頑張る。


 秋期は、帝国の大使を長年務められたチェンバース卿──オーギュスト様の大伯父様で、神絵師ことクラリッサ様の旦那様──の特別講座「異文化交流特論」がめちゃくちゃ面白かった。

 チェンバース卿は、北方諸国の大使を歴任し、フオルマや大陸中心部にある遊牧民族国家トゥーランにも赴任経験がある方。

 ただ、先生が一方的に喋る講義ではなく、受講者数を絞って生徒もコメントしたり発表する演習形式なので、準備がどえらいことになった。

 毎週、指定された本を二三冊は読んでいかないと話についていけないし、自分の発表も準備しないといけない。

 このへんは、アルベルト様に資料の探し方とか本の読み方、まとめ方を教えてもらって、めっちゃ助けてもらった。


 私は、帝国内の諸地域や、各国の花嫁衣装の違いを調べて発表することにした。

 帝国では、一般的には白いドレスが多い。

 貴族や富裕な平民なら、ゲルトルート様のように白いドレスを式だけのために仕立てる。

 そこまでじゃない平民なら、仕立てるか借りるかして白いワンピースを用意するものだし、それも難しければ手持ちの服で一番綺麗な服を着る。

 ヴェント村の隣町もそんな感じ。

 あまり意識したことはなかったけど、村の花嫁衣装は、めっちゃ独特なのだ。


 といっても、世の中には色んな花嫁衣装があって、ウィラ様の地元・パレーティオ領だと、平民は黒地に白と赤や青など原色で刺繍したエプロンドレスっぽいものを着る。

 北方諸国の西側では、緑を基調とした色とりどりの縦縞が入った生地でふんわりしたスカートを仕立て、上は白のブラウスに赤のベストが定番。

 北方諸国でも東側だと、スカートの上から袖がゆったりした膝丈のチュニックを着て、華やかな頭飾りをつける。

 女神フローラ信仰のお膝元であるフオルマでは、花嫁の誕生月にちなんだ花の色のドレスかワンピースを着て、編み込んだ髪に生花をいっぱいつけるそうだ。

 式でも花びらを大量に撒いたり、会場を生花で飾り立てたりするので、生花が少ない冬場はあまり結婚式をしないらしい。

 女神フローラは、春の女神で花の女神でもあるから、めっちゃわかりやすい。

 トゥーランでは、晴れ着ならなんでもよいのだけど、とにかく金のネックレスや腕輪をじゃらんじゃらんにつけるそう。

 セリカンやその周辺国だと、皇族・王族は紫色の絹に金糸で龍とかおめでたい柄の刺繍をした衣装を仕立てる。

 紫は「禁色」なので、貴族は黄色、庶民は青を着ることが多いけど、帝国と同じく色んな民族がいるのでそれぞれ色々あるっぽい。


 などなど、色々な花嫁衣装があり、それぞれの文化や信仰の違いに結びついていて、調べれば調べるほど嵌まってしまった。


 でも、あれこれ探したけど、ヴェント村と似た衣装は見つからなかった。

 アルベルト様も折々調べていらっしゃるのだけど、村の歴史は相変わらずわかってない。

 もっと言うと、季節ごとに行うお祭りも、なにを祀っているのか誰も知らない。

 よそでは、祭りというものは神様とかそれに近い存在を祀るものだ。

 でも、村の祭りは女神フローラに捧げるものではないし、村独自になにか神様がいるわけではない。

 祭司のようなことをする決まった家があるわけでもない。

 アルベルト様は村の昔話を集めたりされてるけど、そこまで古い話は残ってないようで、もしかしたら疫病かなにかで伝承が途切れたんじゃないかと首をひねってる。

 だから、どこかに村の花嫁衣装と似た衣装があったら、そのへんのヒントになるかな?と思ったのだけど、にんともかんともだ。




 なんとか自分の発表が終わった週末。

 少し前から、アルベルト様は、頑張ったご褒美に、おされカフェにでも行こうとおっしゃってくださっていた。

 でも、当日になってみると、結構冷え込んでいる上に、朝から雨がしとしと降り始めて、止む気配がない。

 ギネヴィア様とディアドラ様は、魔導騎士団の家族会にお出まし。

 でも私達はお出かけ面倒くさいかも……となって、アルベルト様の小宮殿でだらだらすることになった。


 朝食室の隣、小さな居間のソファに並んでくっついて、久しぶりにまったりと魔力循環をした。


 ディアドラ様の小宮殿は、なんだかんだでお仕えしている人が常時三十人以上いるけれど、アルベルト様の小宮殿は最小限。

 だから静かだし、人の気配もほとんど感じない。

 一応、ドアは半分開けたままだけど。


 なんだか、ひたすらひっついて過ごした去年の夏とか、その前の「塔」のアルベルト様の部屋に戻ったような気分だ。

 アルベルト様は、出張やら会合が入っている時以外は、だいたい晩ごはんを食べに来るから、半分一緒に暮らしているようなものだけど、ディアドラ様の小宮殿ではさすがにぴとーっとくっつけない。


 窓の外は、冬枯れの寂しい庭に冷たい雨が降り続いているけれど、暖炉では薪がパチパチ燃えててあったかい。


 アルベルト様にくるまって、ぼへーとしているうちに、気がついたら私は寝落ちしていた。

 って、アルベルト様も、くかーとうたた寝している。


 めちゃめちゃ無防備で、めちゃめちゃかわゆい。


 いつのまにかかけてもらっていたひざ掛けをアルベルト様の身体にもそっと広げる。

 起こさないようにじっとしたまま、相変わらずまつ毛長いなぁと思いながら眺めていると、ふにゅ?とか言いながらアルベルト様は目を開けた。

 まだ寝ぼけてる感じで、むにゃむにゃ言いながら私の頭を撫で、抱き寄せてくださる。

 私もむぎゅーって抱きついた。


「すやぁしてるミナを見守ってたはずが、いつの間に……」


 しばらくむぎゅむぎゅして、ようやく目が覚めた感じになったアルベルト様は照れ笑いした。

 きゃわわ!


「アルベルト様、最近出張多くてお疲れでしたもんね」


 よい子よい子のなでなでをしておく。


「んむ。というか、ミナこそ花嫁衣装作りもあるし、学院の勉強とか叔母上のお供とか、色々あるだろう。

 大丈夫か? 無理してないか?」


 アルベルト様は心配そうに私の顔を覗き込んで、ついでにほっぺをむにっとつまんだ。


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☆★異世界恋愛ミステリ「公爵令嬢カタリナ」シリーズ★☆

※この作品の数百年後の世界を舞台にしています
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