天体のワルツ
ぴったりのタイミングで楽団が奏で始めたのは、「天体のワルツ」。
神秘的な感じの序奏が始まると、お二人は軽く組み、身体をゆらゆらっとさせて拍をとる。
ミハイル様は魅入られたようにゲルトルート様を見つめ、ゲルトルート様はうるうるの瞳で見上げていらっしゃる。
華やかなメインテーマと共に、お二人は滑るように踊り始めた。
学院にいた頃はダンスは苦手だとおっしゃっていたミハイル様の、自信に満ちたリード。
ゲルトルート様はミハイル様に身を委ね、自在に舞われている。
満座の客がみんなお二人に注目してるのだけど、お二人とも意識されてないと思う。
世界はもう、二人だけって!ってご様子だ。
私が初めてお二人にお会いした頃。
ゲルトルート様はミハイル様に嫌われていると思い込み、ミハイル様は自分はゲルトルート様にふさわしくないと無駄にもだもだもだもだしていた。
そのお二人が、無事ご結婚され、こんなに幸せそうにされてるだなんて。
アルベルト様とぎゅっと手をつないだまま、うるうるしてしまった。
二曲目はお二人に加えて、ブライズメイド達もそれぞれのパートナーと踊る。
ブライズメイド達も、昼とは違う、濃いめのピンクのシュッとしたドレスだ。
ウィラ様がピンクをお召しになっているのは初めて見たけれど、めっちゃお似合い!
エドアルド様が踊りながらなにか囁かれて、真っ赤になっていらっしゃる。
叙勲式の後から親戚めぐりの旅に出ていらしたオーギュスト様は、この結婚式に合わせて一時帰国されたのだけど、少し日焼けして、ほんのりエキゾチック方向に魅力を増していらっしゃる。
エミーリア様も、ドキドキされている雰囲気だ。
妹君達は、初々しくてめっちゃきゃわわ!
二曲目も無事終わり、三曲目は、花嫁と花婿の幸せにあやかるため、婚約しているカップルがみんな入ることになっている。
というわけで、わらわらっと加わったカップル達と一緒に私達も前に出た。
曲は超有名な「花のワルツ」。
可愛らしくて、楽しい曲だ。
アルベルト様に手をとってもらい、ささっと組んで踊りだす。
「人前で踊るのも、だいぶ慣れてきたな」
キラキラしく私をリードしながら、アルベルト様はおっしゃった。
「ふふ。そかもですね」
叙勲式の時はとにかくちゃんと踊れるかな??って心配が強かったけど、その後、何度か舞踏会に出たし、そこまで緊張せずに楽しめるようになった気がする。
なんかチラチラと視線が来てるけど、細かいことは気にしない!
アルベルト様は、ふわわっとした笑みを浮かべて、目を細めて私を見つめてくださってる。
そんな風に見られてると、私もふわわわってなる。
というか、このままぴとーっとくっついてしまいたい……
アルベルト様もそう思ってくださっているのか、私の腰を抱く手に力がこもってくる。
とか、ほわほわしていたら、曲が終わってしまった。
ここで、ミハイル様とゲルトルート様から短いけど立派なご挨拶があり、あとは自由に踊ったり喋ったり飲んだりタイムだ。
って、まずはお祝い言いに行きたいけど、みんな思うことは同じなので、めっちゃ人だかりになる。
こういう時どうしたらいいのかよくわかんないので、アルベルト様の肘を取ったまま、二人でおろおろっと切れ目が出来るのを待つ。
「ミナ! こっちよ!」
少し落ち着いたのかな?ってところで、ゲルトルート様が手を高く上げて私を呼んでくださった。
傍にウィラ様とエドアルド様もいらっしゃる。
……エミーリア様たちは、早々にどこかに抜け出されてたけど、探しに行ったりしたら間が悪いことになりそうな予感がする。
「ゲルトルート様! ミハイル様! ご結婚おめでとうございます!」
まずは、むぎゅううっっとゲルトルート様と熱いハグだ。
ヘブン……ほんとヘブン……
「アルヴィン殿下、レディ・ウィルヘルミナ。
ご来駕賜り、まことにありがとうございます。
そして御婚約、おめでとうございます!」
ミハイル様が騎士の礼を取り、ゲルトルート様もアルベルト様にカーテシーをされた。
「今日は結婚、おめでとう。
そして、祝いの言葉をありがとう。
生まれて初めて結婚式というものに出たが、感動したよ」
アルベルト様はミハイル様と握手して、手をぶんぶんする。
「お二人の結婚式は、来年の6月ですか?」
「その予定……だよな?」
アルベルト様がこちらに確認してくるので、こくこく頷く。
ゲルトルート様は、ちょっと心配そうなお顔になった。
「ミナ。1年なんてあっという間よ。
どんな式にしたいのか、よく考えて動いていかないと」
「ええええ……なるべく地味に、って考えてるんですけれど。
皇家とベルフォード男爵家は、親戚付き合いはしないってことになっていますし」
うむうむとアルベルト様は頷く。
今日はめちゃめちゃ盛大な結婚式だけど、ミハイル様はアントノフ侯爵家の跡取り、ゲルトルート様はジンメル侯爵家の長女だから、この結婚式には、家同士のつながりを披露するという意味もあるはず。
私達の場合は、そこまでいらない……はず??
「そうは言っても、殿下の後ろ盾であるバルフォア公爵家はしっかり披露目をしたいんじゃないですか?
せっかく『奇跡の恋人』として、帝国一有名なカップルになられたのだし」
エドアルド様が、からかうようにおっしゃる。
「「あばばばばば……その話はナシ! その話はナシ!」」
慌てて二人で手をぶんぶん振った。
そうなのだ。
ヨハンナのショーウィンドウ作戦は案の定当たり、豪華分冊本の私達号は結構売れているらしいのだ。
学院でも面白がられてる。
リーシャには、「ちゃんとミナと殿下だってわかるし、盛りすぎとは言わないけどさぁ……作画が良すぎたよね」と、なんか微妙な感じで慰められた。
「式の準備で、なにかわからないこと、不安なことがあったらいつでも相談してね。
お式の前に、あの時、ミナがミーシャを叱ってくれなかったら、わたくしは今頃、修道院で女神フローラにお仕えしていたでしょうねって、話していたの。
ミナ。本当にありがとう。
感謝しているわ」
ゲルトルート様はむぎゅうっと追いハグをしてくださった。
「これからも、よろしく頼む」
ミハイル様がカチッと踵を鳴らして、私達に敬礼してくださる。
「こちらこそです!」
きぱあっと答えると、ウィラ様が「何度でも言うけど、私だって、二人は誤解しているだけだとさんざん言ったのになぁ……」とぼやかれ、みんなで笑ってしまった。
Sphärenklänge
https://www.youtube.com/watch?v=_hVWI4zbsYA
※ワルツ「天体の音楽」:ヨーゼフ・シュトラウス作曲
ウィーン・フィルハーモニー・オーケストラ・ニューイヤーコンサート(1992年:カルロス・クライバー指揮)
Waltz of the flowers
https://www.youtube.com/watch?v=Zp1aDnVySf8
Symphonic Gems: Tchaikovsky - The Nutcracker - Waltz of the Flowers | Concertgebouworkest