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「奇跡の乙女」

 フランシス卿の向こうはギネヴィア様なのだけど、眼だけで笑って、知らん顔をされている。

 自分で答えなさいということだ。


「その……魔導球で測定しようとすると、割れてしまうので、まだ判定できていないんです」


 うまく話題をそらすとか出来ないので、本当のことを申し上げるしかない。


「は? 回路の不具合ではなく?」


 くいいっとフランシス卿は眼鏡の真ん中を押し上げて、私を二度見した。


「学院のと研究所のを、合わせて3つ割りました……

 4回目は、アルヴィン殿下が回路を増強?してくださったんですけど、回路が焼ききれてしまって」


「え!? 研究所でも!?」


 そっちはご報告していなかったので、びっくりした奥様が声を上げる。

 研究所でのあれこれはわりとナイショだよって言われてたのででででで!


「す、すすすすみません……」


 あうあうと肩を竦めると、アルベルト様がディアドラ様越しに、フランシス卿の方にずいと身を乗り出した。


「抵抗回路を通常仕様の16倍積んで、ようやく魔導球の核が割れずに済んだんだ。

 俺はもう、魔導球でウィルヘルミナの魔力を測定するのは諦めたから、そちらの予算で挑戦してくれると助かる。

 測定には俺も立ち会うから」


「あー……いや……」


 そんなことある??って顔で、フランシス卿はアルベルト様と私を見比べた。


「レディ・ウィルヘルミナは、皇家がぜひにと望んだ令嬢。

 我がバルフォアの血を引くアルヴィン殿下が娶ることとなったのは、欣快の至りである」


 先代公爵閣下が少し声を張って、重々しくおっしゃった。

 公爵閣下も頷いてくださる。


「しかし、なぜそんなに度外れた魔力があるのです?

 殿下は、どうお考えなのですか?」


 ド田舎男爵領のちっちゃな村の農家の娘なのにって書いてあるようなお顔で、フランシス卿はアルベルト様にお訊ねになった。


「んー……」


 アルベルト様は考え込んで、なにか思いついたようにぴかーんと眼を輝かせる。


「ミナが可愛いからじゃないかな!!」


 高らかにアルベルト様が叫んだ瞬間、ぶぶッとギネヴィア様が思いっきり噴かれた。


「……失礼」


 ナフキンで口元を軽く抑えると、ギネヴィア様はなにごともなかったように微笑まれた。

 立ち直りの速さにあっけにとられて、赤くなるのを忘れてしまう。


「アルヴィン叔父様に、ウィルヘルミナのことを訊ねると、ミナがかわいいミナがかわいいミナがかわいいしかおっしゃいませんから。

 本当に、それしかおっしゃいませんから。

 そのあたり、あまり触らない方がよろしいと思いますの」


 ギネヴィア様の笑顔が怖い。


「なる、ほど……??」


 フランシス卿は眼鏡を抑えながら、ドン引きした眼でにっこにこのアルベルト様と私を見比べる。

 アルベルト様の暴走?に慣れている先代公爵閣下はとにかく、公爵閣下もだいぶ引いている。


「あの。なんと申しますか……温かく見守っていただきますと、嬉しいです」


 もそそっと言って頭を軽く下げると、意味がわからないよってお顔ながら、フランシス卿にもなんとか頷いていただけた。




 デザートは、発泡ワインを凍らせた氷菓子に、飾り切りした果物やフルーツのソースを添えたもので、芸術品?てなるほど綺麗な上に、めちゃくちゃ美味しかった。

 食事が終わったところで男女で分かれて、歓談タイムだ。

 奥様達のフォローなしで頑張らないといけない領主様とお義兄様達が、天を仰いでいらしたような気もするけれど、男性は喫煙室などで強いお酒を楽しみ、女性は談話室パーラーで紅茶をいただいておしゃべりするのが通例なのだ。


 メリッサ夫人のあれこれを聞いて以来、正直、女性の方が怖い。

 奥様と一緒に、できるだけディアドラ様ギネヴィア様にくっついて廊下を進む。

 お義姉様方は、傍系の夫人達と子育てトークで盛り上がっていらっしゃるようだ。


 が。柔らかそうな若草色のソファやオットマン、ドレス姿でも座れそうなゆったりした肘掛け椅子があちこちに置かれた、明るく優しい感じの談話室に入った途端、私はあっという間に令嬢たちに囲まれた。


「ウィルヘルミナ様って、例の『奇跡の乙女』ですよね!」


「ぜひお話したかったのに、離れた席に座らされて。

 お祖父様ったら意地悪だわ」


「はいいい?? き? 奇跡の乙女?」


 めちゃくちゃ前のめりに食いつかれて、なにがなにやらでポカンとしてしまった。


「あら。ご存知ないんですの?

 二三日前から、ベルトラ書店のショーウィンドウを全部使って、ゲンスフライシュ商会の分冊本の次回予告が出ているんです」


「え!? そうなんですか!?

 婚約式の支度があったので、全然さっぱり……」


 あ、そっか、と令嬢方は顔を見合わせた。


 ベルトラ書店というのは、帝都でも一番格式の高い書店だ。

 大手宝石商とか帝国劇場とかが立ち並ぶ一等地に大きな路面店を持っていて、そのショーウィンドウに並ぶと本の売れ行きが結構伸びると言われている。

 ショーウィンドウごとに分けて、ジャンル別ベストセラーが展示されているので、今、売れ筋の本をチェックするのに便利。

 あのあたりに行くなら、ベルトラ書店のショーウィンドウもついでにチラ見するのが帝都の人々のお約束だ。


「ショーウィンドウごとに、とっても素敵な続き絵が描いてあるんですよ!

 まず、一番左が、倒れ伏した貴公子に駆け寄る乙女。

 次が、瀕死の貴公子を膝に抱き上げて涙にくれる乙女」


「え? えええええ……」


「その次の場面で、乙女の愛で息を吹き返した貴公子が、そっと乙女の頬に触れて。

 最後は、歓喜のあまり二人が抱き合う絵!

 『運命の恋人達を、愛の奇跡が救う』ってタイトルも入ってるんです」


 きゃいきゃいと令嬢方は盛り上がっている。


「帝都の令嬢の間で、話題沸騰ですのよ。

 生半なまなかの恋愛小説より、次回は凄いんじゃないかって!

 わたくしもお友達から聞いて見に行って、感動しました!」


「ショーウィンドウの前は、人だかりになっていましたわ」


「あああああああああああ……」


 膝から崩れ落ちそうになった。

 ヨハンナ、やってくれた!!!


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☆★異世界恋愛ミステリ「公爵令嬢カタリナ」シリーズ★☆

※この作品の数百年後の世界を舞台にしています
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