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ぐるぐるの果て

 ギネヴィア様とディアドラ様にめちゃくちゃお世話になっている身としては、あんまりメリッサ夫人に近づきたくない、気もする……

 魔獣襲来でファビアン殿下と共闘する前の話だけれど、ギネヴィア様は、陛下がお子様たちの中でファビアン殿下ばかり大切にしていらっしゃるから、つい嫉妬してしまうとおっしゃっていたし。

 はっきりうかがったことはないけれど、ディアドラ様だって、メリッサ夫人のことは良く思っていないだろう。


 ああああ、でもファビアン殿下には、お母様を無視したりしないってお約束したんだった!

 そもそも、いくら「今日はプライベートだぞ☆」って言われたからって、陛下に紹介された方を粗略に扱うとかありえないし。


 あ? もしかして、こうなるってわかってたから、ギネヴィア様はわざわざ「こちらを気にするな」っておっしゃったんだろうか。

 そういえば、ディアドラ様も朝食の時、微妙に沈んでいらした気もする。


 というか、叙勲式の時、陛下に乗馬をお誘いいただいた時、ディアドラ様や皇妃方は、私達をメリッサ夫人に会わせるつもりだって、すぐにわかったんじゃなかろうか。

 ぎょっとしたり、イラッとしたとしても、それでも和やかな雰囲気を壊さないよう、表情には出さなかったのかも。

 怖い。皇妃様方怖い!

 あ、ディアドラ様はめちゃくちゃかわゆい方なので、ディアドラ様以外ってことだけど!


 頭がぐるぐるする。

 ほんの数秒だったけど、ふっしゅー!と頭から湯気が出てきそうなぐるぐるの果てに、私は覚悟を決めた。

 もう余計なことは考えず、「お世話になったファビアン殿下の母君にご挨拶する」ってことにする!

 


「ベルフォード男爵が養女、ウィルヘルミナと申します。

 ファビアン殿下には、大変お世話になりました」


 スカートの裾をつまんでちょこんと腰を落とし、略式のカーテシーをした。

 顔を上げると、メリッサ夫人は穏やかに微笑んで、もう一度深々と頭を下げてくれた。




 というわけで、アルベルト様と私はコテージの中に招かれた。


 小さな風除室を抜けると、すぐに広々とした居間。

 細かな寄木細工の床はつやっつやだけど、壁はコテの跡を残した漆喰塗で、皇宮のほかの建物と雰囲気が全然違う。

 暖炉も、ディアドラ様やアルベルト様の小宮殿だと、めちゃめちゃ細かい彫刻をした上に金泥を塗りまくったゴージャス!なものだけれど、こちらは切石を積んだだけのシンプルな造りだ。

 飾りといえば、壁にかけられている草原を駆けてゆく馬の群れの絵くらい。

 床以外は、質実剛健というか、豪農の家とかそんな雰囲気だ。


 もとからあった建物を、メリッサ夫人のご実家を模して改装したとか、そういうことなのかな……

 聞いてみたいけど、失礼にならない聞き方がわからない。

 

 陛下とメリッサ夫人は、それぞれ革張りの大きな肘掛け椅子、私達はソファにかけると、すぐに女官がお茶を持ってきてくれた。

 アルベルト様が水を向けてくれて、お祭りクッキーを差し上げる。

 後で、おやつに食べようということになった。


 陛下に、これまでどんなレッスンを受けたか訊ねられた。

 私はウィラ様に馬のお世話をするところから習ったけど、アルベルト様はいきなり乗るところからで、しかも皇族らしく?とにかく姿勢良く威儀を正して乗るように言われてるだけらしい。


 じゃあ、まずは馬の世話から始めよう、と陛下はおっしゃり、ぞろぞろっとコテージの裏へ向かう。

 裏手には小さな馬房があり、4頭の馬が待っていた。

 どれも毛艶のよい、立派な馬だ。

 陛下が公務でお使いになる馬は、老いてしまう前に早め早めに引退する。

 引退が決まった馬の一部をここに引き取っているとか。

 先に立った陛下は一頭ずつ鼻先を撫で、名を呼んで挨拶していった。

 陛下的には、ここのお馬さん達は「ペット」という扱いなのかもしれない。

 

 私達も葉っぱ付きの人参をあげたり、ブラシをかけてあげたりした。

 陛下はめっちゃ気さくに、アルベルト様にやり方を教え、アルベルト様も自然に「兄上」って呼ぶようになっていた。


 血を分けた兄弟だけれど、アルベルト様と陛下が顔を合わせたことって、まだ数えられるくらいしかないはず。

 背は同じくらいだけど、陛下は金髪でがっしり、アルベルト様は焦げ茶の髪でひょろっとしてるし、顔立ちも全然違う。

 そもそも、お母様も違うし、年だって親子くらい離れてる。

 でもこうしてみると、ふとした表情がびっくりするくらい似て見えてきた。


 だいぶ馬に慣れた、というかお馬さん達の方が、「ようわからんヤツが来てるけど、まあええか」ってなったあたりで、ちょっと乗ってみようということになる。


 陛下は私達に馬を選ばせ、馬具の付け方を教えてくださると、一番大きな黒馬にひらりと跨った。


 って、私、踏み台なしに馬に乗ったことがないんですけど、踏み台が見当たらないいいい!?


「レオ! 待って!」


 すぐに馬を走らせかけた陛下に、メリッサ夫人が声を上げた。

 もしかして、突っ走りがちなところもこの兄弟似てる!?


 といっても、踏み台の類はここにはないそうで、アルベルト様はどうにか自力で跨ったけど、私はメリッサ夫人に押し上げてもらって、じたばたしながら乗る。


「すすすすみません……」


 あうあうする私に、メリッサ夫人は「気にしないで」と笑ってくださった。

 笑うと、目尻に笑い皺が出て、はっとするほど魅力的だ。


 普段、お二人は思いのままに馬を走らせてらっしゃるそうだけれど、とりあえず森の中をぽくぽくお散歩することになった。

 利口な馬は、自然に陛下の馬の後をついて行ってくれる。


 たくさんの人が働き、暮らしている皇宮の中とは思えないほど、静かだった。

 鳴き交わす鳥達の声を聞きながら、木漏れ日の下、キラキラしてる森の中を馬の背に揺られているうちに、緊張も解けてゆく。


 小一時間ほどお散歩してたら、お昼時になった。

 馬具を外し、馬を草地に放して、コテージに戻る。


 ポーチに上がったところで、陛下は振り返った。


「天気も良いし、外で食べるか。

 アルヴィンも、ウィルヘルミナもそれで良いか?」


「もしかしてそれは! 外でいろんなものを焼き焼きするアレですか!?」


 ファビアン殿下にご馳走になった時のアレ!?と思った瞬間、今日は大人しくしようと思っていたのも忘れて、私は前のめりに叫んでしまった。


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☆★異世界恋愛ミステリ「公爵令嬢カタリナ」シリーズ★☆

※この作品の数百年後の世界を舞台にしています
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