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あれ? 陛下!?

 叙勲式の時に、陛下に「いずれ乗馬でも」とおっしゃっていただいたけれど、ほんとに私もご一緒するだなんて思っていなかったので、びっくりした。

 慌てて乗馬用スカートを引っ張り出したり、わたわただ。

 アルベルト様も私も一応馬に乗れるようにはなったけれど、初心者向けの優しい馬ならなんとかって感じだし、全力疾走!とかまだ無理無理。

 いきなり明日じゃ、練習のしようもない。

 アルベルト様は、向こうで色々用意しているだろうけど、自分が食べたいからお祭りクッキーを焼いてほしいとおっしゃって、村の土産のアーモンドを使って焼き焼きした。


 乗馬服姿のアルベルト様とあわあわと待っていたら、予告通り、お昼前に迎えの馬車が来た。

 来週から魔導騎士団に入団されるので、社交の誘いはなるべく断って、小宮殿でディアドラ様と過していらっしゃるギネヴィア様が、車寄せまで見送ってくださる。


「叔父様。ミナ。

 こちらは気にせずに、楽しんでいらしてね」


 馬車に乗り込んだところで、さらりとおっしゃって、え??って思ったけれど、どういう意味かお訊ねする前に馬車が出てしまった。




 綺麗に晴れた青空の下、二人乗りの馬車は軽快に走り、皇宮の奥の方へと向かう。

 私は全然来たことがないあたりで、アルベルト様に、あれが皇太子殿下の宮殿、こちらが陛下の宮殿、そっちは第一皇妃殿下の宮殿と教えていただいた。

 皇太子殿下の宮殿はすっきり、陛下の宮殿は威厳たっぷり、第一皇妃殿下の宮殿は春先なのに、もう色とりどりの花が咲き乱れていて、いかにも華やかな雰囲気だった。


 警備ががっつりついたゲートを抜けたら、いきなり鬱蒼とした森になった。

 木立の間を抜ける道をしばらく行くと、開けた草地と小さな池がある。

 森に囲まれた草地の端に、車寄せのついたコテージ風の建物が見えてきた。

 手前は平屋、奥が二階建てになった石造りの建物だ。

 馬車は草地をぐるっと回り込んで、コテージに向かっていく。


 コテージのポーチでは、年配の男の人と女の人が、手すりにもたれてマグカップでお茶を飲んでいた。

 男の人は、濃い金髪をふわっと後ろでまとめ、ゆるっとした白いシャツにたくさんポケットのついた革製のベストをあわせ、だぼっとしたカーキのズボンを穿いている。

 黒髪を低めのポニーテールにした女の人も似たような感じで、暗い赤の乗馬用スカートにブーツ姿だ。


 皇宮で、こんなラフな格好をしている人を見たことがない。

 どういう立場の人なんだろう。

 平民でも馬の調教師は重んじられるから、偉い調教師とか?

 仕事場にしては、めっちゃリラックスしてる雰囲気だけど……


 男の人が、馬車に気づいて片手を挙げた。


「あれ? 陛下!?」


 アルベルト様がびっくりして呟いた。


 あああああああああ!? 陛下だ!!


 叙勲式でお会いした時は、髪を後ろにピシッと撫でつけていたし、皇!帝!陛!下!って感じに威厳たっぷりのお姿だったけれど、もうぜんっぜん雰囲気が違う。

 どういうこと!?ってなりつつ、とにもかくにも、アルベルト様は先に馬車を降り、私が降りるのを助けてくれた。


 陛下が階段を降りて近づいてくる。


「アルヴィン。ウィルヘルミナ。よく来てくれた」


「陛下、お招きいただきありがとうございます」


 アルベルト様は、皇帝に対する最上級の礼をし、私も乗馬用スカートを広げて膝を曲げ、ご挨拶をした。

 陛下は軽く頷いて、後ろを振り返る。


 黒髪の女性も降りてきて、深々とアルベルト様と私にお辞儀をした。

 誰なんだろう。

 本当なら、皇族であるアルベルト様にカーテシーをするはず。

 ということは、アルベルト様より上位の皇族なの?

 でも、なにかが違う。


 私達が戸惑っていると感じたのか、陛下は困ったような表情を浮かべた。


「堅苦しい作法はいらない。

 今日は、単に兄と弟、ということにしよう。

 で、これが……」


「メリッサ・ランバートと申します。

 この休息所の管理を仰せつかっております」


 陛下が言い淀んだ後を引き取るように、黒髪の女性は名乗った。


 あああああああ!!! この方が、ファビアン殿下のお母様なのか!!!


 騎士の補佐を務める郷士の出で、属性魔法が使えないのに、陛下の寵愛を二十年近く?独占しているというメリッサ夫人。

 ものっすごいお色気の人か、それとも儚げな美人さんとかなのかなと思っていた。


 でも、本物のメリッサ夫人は、全然違った。


 やや細面の顔はよく日焼けしていて、しゅっとしている。

 背が高くて、動きがきびきびしている。

 ウィラ様のような武芸で鍛えた女性騎士の雰囲気とはまた違っていて、なんというか「働き者」って雰囲気だ。


 万人が認めるような美人かといえば、そうではない。

 ディアドラ様ほか皇妃様方は、実際の年齢よりも5、6歳は若く見えるけれど、ほぼ同世代のはずのメリッサ夫人はもっと年上、50歳を越えたばかりの陛下より少し下かなってくらいに見えた。

 素朴な雰囲気で、貴族にも、皇族にも全然見えない。

 ぱっと見の印象だと、牧場の女主人とかそういう感じだ。


 ギーデンス公爵家も、セルト大公家も、メリッサ夫人の存在自体を忌み嫌っている風だった。

 妃にふさわしくない方だとしても、ふさわしくない方を寵愛される陛下が悪いのに、なんで夫人がそこまで嫌われるんだろうと思っていたけれど、なんだかわかる気がした。

 ディアドラ様ほか、皇妃様や大貴族の夫人とあまりに違いすぎる。


 美しさを磨き上げ、心を鎧って隙を見せず、あくまで典雅に見せるのが貴婦人というもの。

 だから、貴婦人の頂点に立つ皇妃殿下達は、お互い顔を合わせても、ドロドロ感は見せない。

 見せた方が負けだからだ。


 なのに、結局、陛下の御心を勝ちとったメリッサ夫人は、全然違うタイプ。

 言ってみれば、乗馬の大会をすると言われてずーっと準備してきたのに、行ってみたらなんでか水泳大会になっていたようなもの。

 なんで!?って怒るのが普通だし、こんな女性を受け容れたら、秩序や価値観が狂ってしまうと恐れもするだろう。


「えー……アルヴィンです。初めまして」


 アルベルト様が、少し迷いながらメリッサ夫人に会釈をした。

 夫人がもう一度頭を下げる。


 ここここれ、どうすればいいんだろう。


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☆★異世界恋愛ミステリ「公爵令嬢カタリナ」シリーズ★☆

※この作品の数百年後の世界を舞台にしています
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