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父上、じゃなくて父さん

 村長さんちの宴会は、めっちゃ盛り上がった。

 帝都でのことを聞かれたり、村の出来事を色々聞いたり。


 アルベルト様は、ちっちゃい子達に魔法見たいー!ってねだられて、無数の水玉が複雑怪奇に舞い上がって天井近くでふっと消える数式魔法を展開してみせて、みんなでおおおお!ってなった。

 「ミナもなんかやれ」って言われて、私は防御結界をキランって光る感じに出して見せたりした。

 みんな凄い凄いって言ってくれたけど、なんかもうちょい、派手で無害な魔法を覚えたいな……


 途中、だいぶ酔っ払った幼馴染のフリーダが、「そういやミナは、男子も先生も誰彼かまわずくすぐりまくってたけど、アル様は大丈夫?」とか言い出して、アルベルト様が「ミナがくすぐっていいのは、俺だけだー!」とかなってた。

 なんじゃかんじゃあって、結局トマならくすぐっていいってことになったけど、「アル様、自分からくすぐられ志願するとか変態なん??」とか、ドン引きされてた気もする。


 あと、いつもは豪快で姐さん!って感じのジュリアさんに、「ミナちゃん、良かったねぇえええ」とめちゃくちゃ泣かれたりした。

 ジュリアさんは、私が男爵家の養女になることになった時に迎えに来てくれた人。

 私が帰省する時は、毎回村まで送り迎えしてくれたし、領都の男爵家の館でも、なにくれとなく気遣ってもらった。

 ジュリアさんにも、心配かけてごめんね、ありがとうねって改めてなった。




 その後は、まったり過した。

 翌日、アルベルト様は飲みすぎたーとか言いつつ炭焼きに行って、あれこれ聞き込み?をし。

 私はトマと遊びながら、母さんと地機織りをしたりした。


 その次の日も、アルベルト様は父さんと一緒に畑の見回りをしたり、私と一緒に鶏小屋の掃除をしたり。

 薪割りとか冬仕事の手伝いもお試しでちょこちょこやってみたりした。

 父さんが巧く誘導してくれたこともあって、トマとも仲良くなり、晩ごはんの後のまったりタイムとかに、膝にだっこして絵本の読み聞かせとかしてる。

 母さんに編み物を習いながらそんな様子を見ていると、なんだか心がほかほかした。

 アルベルト様は母さんともちょいちょい話すようになり、気がついたら料理や洗濯の手伝いまでしてくれた。


 私達の山荘?予定地で、男爵家の秘書官さんとどういう間取りがいいのか相談もした。

 私もアルベルト様も、基本護衛とかいらないし、どうしてもついてもらわないといけないのなら、できるだけ少なくって思ってたけど、今回のことで、ある程度人数がいないと、来てくれる人の負担が大きいことがよくわかったから、クルトさんジラールさん、ジュリアさんにも相談した。


 あとは、アルベルト様と一緒にルッツ伯父さんのところやフリーダのところに遊びに行ったり、トマを連れてゼッペ爺さんの羊小屋に羊を見に行ったり。

 村長さんのところにも、改めてご挨拶に行った。

 村長さん、若い頃に、たまたま今の皇帝陛下のお手振りを見たことがあって、闊達な笑顔に一撃でやられ、皇家大ファンになったらしい。

 お手振り、やっぱり大事なんだね……

 陛下や皇太子殿下のこと、ギネヴィア様のこともめっちゃ聞かれた。




 とかやっていると、あっという間に帝都に戻らないといけない日が来た。

 村長さんが、村総出でお見送り〜とか言い出したのを、なんとかなだめて家族だけってことにしてもらう。


 小雪がちらつき始めた前庭で、馬車に荷物を積み込む。

 領都と帝都へのお土産として、お祭りクッキー用の殻付きのアーモンドをたっくさん、あと瓶詰めにした新酒を持たせてもらった。


 もう、私達も馬車に乗らなくちゃってなった時──


「その……父上とお呼びしてもよろしいでしょうか?」


 アルベルト様は、ちょっと改まった顔で、父さんに話しかけた。

 そういえば、結婚を許す許さないという話は、最初の日以降、全然していなかった。


「いやいやいや。こんな田舎者に『父上』とか、おかしいでしょうが」


 父さんは苦笑している。


 アルベルト様は、私の方をちらっと見た。

 別に父さんは、アルベルト様を嫌がってるわけじゃない。

 大丈夫だよって、軽く頷いてみせる。


「では、父上、じゃなくて父さんなら?」


 父さんは笑った。


「それなら、ええです」


 アルベルト様が、ふあああああ、と緊張を緩めた。

 そんなアルベルト様に父さんが手を差し伸べ、二人はどちらからともなく抱き合って、ぽんぽんしあう。


 アルベルト様は、母さんに向き合った。


「では……母さん」


 母さんは、うるっとした目で何度も頷く。


「ミナを、よろしくお願いします」


 二人もぽんぽんしあう。

 アルベルト様の目も赤くなってた。


 次はトマ……って流れだけど、私が練習で編んだ、黄色の耳当てつきの帽子をかぶったトマは、母さんのスカートの陰から、んじっとアルベルト様を見上げてる。

 アルベルト様は、膝に手を当てて、トマの顔を覗き込んだ。


「トマ。俺、トマの兄ちゃんになってもいい?」


 ぷくーっとほっぺを膨らませたトマは、いきなり「ぴぎゃー!」と叫んで、あたりを駆け回りはじめた。

 アルベルト様が「こら待てー!」とおっかけ回す。


 「トマ!」と母さんが声を上げ、みんなが笑って見守る中、トマはアルベルト様に捕まって抱き上げられた。


「また来る?」


「うん。夏になったらまた来る」


「ふ〜ん」


 トマは、ほんとかな??って顔をしている。


「来る来る! 絶対来る!」


 アルベルト様は、トマを抱え直してゆっさゆっさ揺すった。


「来るんだったら、兄ちゃんになってもいい」


 トマはしぶしぶって顔で、頷いた。


「やったあああああ!」


 アルベルト様はめっちゃ喜んで、トマとほっぺほっぺする。

 トマもにゅふふって笑った。

 父さんが笑いながら、トマを抱き取る。


 別れの時だ。


「父さん、母さん。元気でね。

 また夏に帰るから」


 私も、父さんと母さんと代わる代わる抱き合った。


「ミナも、気をつけてね」


 うんって頷く。


「トマはよい子にね。

 よい子にしないと、ねえちゃんくすぐるからね!」


 指をわきわきさせて見せると、トマはひょあってなりながらこくこく頷いた。

 よろしい!と頭を撫でくりまわしたり、やわやわのほっぺをつまんで、むにーんと伸ばす。

 トマは、きゃっきゃと笑ってご機嫌だ。


「さ、ミナ。もう行かないと」


 トマがかわゆくて、父さんと母さんから離れがたくて、もだもだしていたら、母さんに促された。

 アルベルト様に手を貸してもらって、馬車に乗る。

 すぐに二人で、窓から身を乗り出した。


「では、また夏に」


「んむ。待っとるけんね」


「手紙、書くから!」


「勉強の邪魔にならないくらいにね」


 母さんがくしゃくしゃっと笑い、馬車がゆっくりと出る。


 どんどん、家が、手を振ってくれる父さんと母さんとトマが、小さくなっていく。

 お互い見えなくなるまで、私達は手を振りあった。




 村を離れる時は、いつも悲しくなってしまう。

 半泣きの私を抱き寄せて、アルベルト様はぽんぽんしてくれた。

 馬車は村境の峠を越えて、隣町へ下り始める。


「あ」


 そうだ、言わなきゃいけないことがあった。


「アルベルト様、ありがとう」


「ん? なに?」


 どした?ってアルベルト様が私の顔を覗き込んでくる。


「前に『ミナの親が俺の親だ』って言ってくれたじゃない。

 ほんとのほんとに、そういう風にしてくれて、嬉しい」


 アルベルト様のことだから、嘘をつくとかその場しのぎのことを言ったとか、そんな風には思ってはなかった。

 でも、こんなにしっかり、家族や村の人に向き合ってくれるだなんて、あの時は想像もできなかった。


「そこは俺の方から、ありがとうって言わないと。

 ミナのおかげで、俺にも父さんと母さんができた。

 これから、色んなことを教えてもらわないと」


 びっくりした。

 アルベルト様は難しい本をたくさん読んでるし、自分で論文も書けるのに?


「教えるって、なにを?

 葡萄の育て方とか?」


「もちろん、それも習いたいけど。

 まずは結婚して何年も経っても、ずっと仲良しでいるコツかな」


 アルベルト様は、ふにゃりと笑って、私の手をぎゅっと握ってくださった。


次回から、帝都に戻ったミナ&アルベルトが色々巻き込まれます…!

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☆★異世界恋愛ミステリ「公爵令嬢カタリナ」シリーズ★☆

※この作品の数百年後の世界を舞台にしています
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