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村長さんちの大宴会

 夕方からは、村長さんのところで宴会。

 馬車にぎゅうぎゅうになって、ごとごと揺られながら向かう。


 ふと、嫌な予感がした。


「父さん。宴会って、私、挨拶とかする……のかな??」


「まぁ、そうだろな」


「えええええええ……

 なにを言えばいいんだろ?」


 自慢じゃないけど、人前で話すのは苦手だ。

 めっちゃ緊張して、勝手にガチガチになってしまうのだ。


「んあー……そりゃ、みんな、ミナのことを心配してたんだから。

 心配かけたけど、無事で、元気にしてますって言えばいいんじゃないか?」


 父さんも人前で話すの苦手な方なので、ちょっと挙動不審に言う。

 母さんも頷いてるから、そういう感じでいいのかな。

 トマはきょとっと私達を見比べている。


「そっか。あ? アルベルト様は?

 たぶんアルベルト様も挨拶するってことになるよね??」


「だろうね」


 こて、とアルベルト様はあざとかわゆく首を傾げてみせる。

 大丈夫かな……


 そういえば勲章つけとかないと!って慌てて桃花章を首にかけて、母さんにリボンを整えてもらっているうちに村長さんちに着いた。


 村長さんちは、村で一番の物持ちだ。

 2階建ての屋敷に住んでいて、雇い人も何人かいる。

 なので、冬場に大人数で集まるというと、まず村長さんちなのだ。


 もう、結構、人が集まっていた。

 玄関に、どんどん人が入っていく。

 村長さん、どんだけ声をかけたんだろ。


 馬車の音で気付いたのか、ビシッと正装の村長さん夫婦が飛んできた。

 騎士服姿のジュリアさんも、大股にその後から来る。


 しゃちほこばって挨拶する村長さんに、アルベルト様は挨拶を返し、歓迎会を開いてくれて感謝していると握手した。

 村長さんの奥さん、息子さんとかにも挨拶する。

 すごい! アルベルト様がちゃんと皇族っぽい!


「お寒いですから、粗末なところですがどうぞ中へ」


 感極まりすぎて固まっている村長さんに代わって、奥さんが勧めてくれた。


「あ! ミナだ!」


「お帰り〜!」


 幼馴染とか、あっちこっちから声をかけられながら、中に入ると、吹き抜けの玄関ホールの中はもうぎっしりだった。

 吹き抜けを見下ろす二階の廊下まで人が並んでる。

 ホールからつながってるドアはすべて開け放たれ、その向こうの廊下とか食堂とかにも人がいっぱい。

 300人以上はいる。

 もしかして、村に住んでる人がほとんど来てくれてる??

 隅っこには樽を並べて、新酒をどんどん注いでいるし、なんかもうお祭りみたい。


 え、これ、どうするんだろうって思ったら、村長さん夫婦はアルベルト様と私を連れ、二階へ上がる階段の踊り場に立った。

 やばい、顔が勝手に赤くなって、膝が震えてくる!


「えー、本日はお日柄も良く!」


 村長さんがポケットからメモを取り出して、挨拶を始める。

 みんなががやがやしながら、一応静かになっていった。


 まず、『皇族譜』から写したっぽいアルベルト様の略歴。

 それから、領都の新聞を取り出し、私の受章と、受章理由について書かれたところを読み上げた。


「ちゅうことで、ヴェント村にようこそお越しくださいました。

 アルヴィン殿下、そしてレディ・ウィルヘルミナ、一言、ご挨拶を頂戴できますでしょうか」


 一生懸命説明し終えたところで、村長さんはいきなり雑に振ってきた。

 奥さんが私達にグラスを渡してくれる。

 乾杯の音頭を取れってことだ。


 どうしよう?って、アルベルト様を見上げると、そっと前に押し出された。


 父さんや母さんも、伯父さん叔母さんに従兄弟たちも、フリーダとかレンとか幼馴染達も、学校の先生も、雑貨屋のベラおばさんや水車小屋のユール爺さんとか昔っからよく知ってる人達、みんなが私達を見上げてる。


「えええええと! い、今、村長さんが言ってくれたように!

 めっちゃ大変なことがあって、心配させちゃったけど……

 なんとか! かんとか! なんとかなって、ご褒美の勲章、貰いましたああ!」


 胸に下げた桃花章を掲げてみせると、おおおおお!とどよめきと拍手が起きた。


 あと、言わなきゃいけないことって、なんだっけ。

 そうだ、結婚の話だ!


 はっと、アルベルト様を見上げる。

 にっこにこのアルベルト様と眼があった。


「で。えっと、ご褒美のついでに、こちらの!アルベルト様と結婚できることになって……

 って、正式な婚約はまだなんですけど!」


 あ。村長さんはアルヴィン殿下って呼んでたのに、普通にアルベルト様って言っちゃった!!

 やばいやばいやばい!


「それもこれも、みんなのおかげです!

 乾杯ー!!!」


 半分ヤケクソで、グラスを突き出した。

 みんながグラスやジョッキを掲げる。


「「「「かんぱーい!!!」」」」


 みんな一斉に乾杯し、拍手が起きた。


 でも、なんでか村長さんはわたわたしている。

 もしかして、乾杯って、アルベルト様も挨拶してからだった??

 段取り間違えたーーー!


 アルベルト様は、半歩進み出て私と並ぶと、ゆっくりみんなを見回した。

 あれ? まだあるのかって感じで静かになっていく。


「ご紹介に預かりました、アルベルトことアルヴィンです。

 名前が2つあって面倒くさいので、略して『アル』と呼んでください」


 アル様ー!と従姉妹のティナとマーラから声がかかり、アルベルト様は笑って頷いた。


「て、言いたいことがたくさんありすぎて、ちょっと長くなります。

 ままま、最初の乾杯は済んでいるので」


 へこっとアルベルト様は頭を下げる。

 みんな、なにが始まるんです?って顔になった。


「もともと、俺は学院の近くで魔法の研究をしてました。

 ミナが学院に来てすぐに、学院の教師では魔法の指導が難しいことがわかって、俺が担当することになり……

 で、まあ。すぐにミナが好きになりました。

 なにしろ、めちゃくちゃかわいかったので!」


 いきなりそんなことを言われて、あびゃああああ!?ってなった。

 みんながどっと笑い、ヒューヒューと指笛が飛び交う。


「ミナも、変わり者の俺を、あたたかく支えてくれるようになりました。

 なんとしてもミナと結婚したいと思うようになり、俺の実家のOKも出たので、今回ご挨拶にうかがって……

 こうして立派な歓迎会も開いていただき、皆さんにお会いできて、大変嬉しく思っています」


 アルベルト様は村長さんに会釈して、今度は村長さんがあびゃ!?ってなる。


「魔獣襲来が起きた時、ミナは俺の従姉妹のギネヴィアを魔獣の大群から守り通し、死にかけた俺に全力で魔力を注いで命を救ってくれました。

 あの修羅場を乗り越えられたのは、魔力がどうこうよりも、ミナが人を愛し、守ろうとする強い心を持っているからだと俺は思ってます」

 

 アルベルト様は言葉を切って、私ににゅふって笑ってくださった。

 じわじわと、嬉しさが染みてくる。


「その強い心はどこから来たんだろうと、不思議に思っていたんですが……

 ミナの父上、母上、そしてトマと話して、ああこういう家族に愛されて育ったからなんだと自分の中で腑に落ちて」


 トマと手をつないで、こっちを心配そうに見上げながら聴いていた母さんが、はっとなる。

 父さんが、うるうるになった母さんの肩を抱いて、ぽんぽんしたのが見えた。


「今日、親戚の皆さんにご挨拶して、みなさんとお会いして、ああこういう方たちに見守られてきたからなんだと、またまた腑に落ちて。

 さっきも言いましたが、俺はミナが大好きなので、きっと皆さんのことも大好きになると思います」


 にっこにっこでみんなを見渡しながらアルベルト様が言うと、自然に拍手が起きた。

 村長さんが超うるうるで決壊寸前だ。


「ミナを大事にしてくれるんなら、俺らも大好きになるでー!」


 従兄弟のベン兄さんが隅っこから叫んで、そうだそうだと笑いが起きる。


「ありがとうございます!

 幸い、男爵家が私達の結婚の贈り物として、この村に山荘を建ててくれることになっています。

 なので、今後もちょいちょいちょいちょい来て、みなさんとお会いできればと思っています。

 ついでに、ミナがどうして突然魔法が使えるようになったのか、なぜ秋祭りに急に魔獣が湧いたのかも調べていければいいなと。

 いずれにしても、皆さんの暮らしの邪魔にならないように進めていくので、どうか今後ともよろしくお願いします!」


 アルベルト様は、がばあっと頭を下げた。

 みんなが一斉に拍手する。

 私も、一生懸命拍手した。


 頭を上げたアルベルト様は、グラスを高く掲げた。


「では、二度目の乾杯!!」


「「「「かんぱーい!!!」」」」


 みんなで唱和して、二度目の乾杯は無事済んだ。


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☆★異世界恋愛ミステリ「公爵令嬢カタリナ」シリーズ★☆

※この作品の数百年後の世界を舞台にしています
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