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うちで一番のご馳走

 ついでに伯父さんちに寄り、リラ伯母さんとか従兄弟のジョゼ兄さん夫婦に軽く挨拶だけして家に帰った。

 扉を開けると、私の一番の大好物!羊のシチューのいい匂いがする。


 先に入ったクルトさんが、は、と固まった。


「殿下、レディ・ウィルヘルミナ。ちょっとご相談が」


 なんだなんだって言う暇もなく、アルベルト様の部屋ってことになってるおばあちゃんの部屋に押し込まれる。


「まずいです。

 食卓に、7人分、皿が並んでいました。

 もしかして、私とジラールの分も一緒にご用意いただいているのでは」


「「ああああああああ!?」」


 クルトさんとジラールさんは、私達とは一緒に食事をすることはない。

 主人と護衛が同じテーブルに着くことは、ありえないからだ。

 あと、食事の時くらいは息抜きタイムにするって意味もありそう。


 ついでに言うと、二人は食べるタイミングをなるべくずらしてる。

 毒を盛られるとかだけでなく、食中毒が発生することだってあるからだ。

 夜も、交代で寝てるっぽい。

 護衛ナシで移動はダメ!って言われて、最低限でってお願いしたけれど、もっとたくさんで来た方がクルトさんジラールさんは楽だったよね……


「レディ・ウィルヘルミナ。母君は客をもてなすのがお好きですか?」


「めっちゃ好きです……」


 母さんは、クルトさんもジラールさんもお客だと思ってる。

 こんな田舎まで来てくれた騎士様達に、もりもり食べてもらいたいまである。


 なのに一緒に食べられないって急に言われたら、そんなに私やアルベルト様はクルトさんジラールさんに威張っているのかってなるだろうし、時間をずらして様子を見てから次の人が食べるってことは変な料理を出すかもと思われてるのかってショックを受けると思う。

 村にいた時だったら、私だってきっとそう思った。


 そうでなくても、母さんはモヤモヤを溜め込んでいるのに、これはヤバい。


 アルベルト様はきょとっとしてるので、私から早口に事情を説明した。


「あの、本当に申し訳ないですけれど、とりあえず今日は一緒に食べていただけますか?

 明日、母に説明しますので」


 クルトさんとジラールさんは顔を見合わせた。


「ご相伴にあずかるのはとにかく、時間はずらさないと」


 二人は、いきなりじゃんけんを始めた。

 ジラールさんが勝ち、よっしゃ!と小声で勝どきを上げる。


「では、私が先に仮眠を取ります」


 負けたクルトさんは淡々と言った。


「ありがとうございます!

 でも大丈夫ですか?

 うちの屋根裏だと、音とか匂いとかしそう」


 屋根裏は、壁のある個室じゃない。

 居間との境は、キルトをぶら下げてるだけだ。

 宿屋なんかとは全然違う。


「どんな環境でも、必要な時はすぐに眠るのが護衛任務の前提です」


 さらっと言うクルトさんに、アルベルト様は、んー?と首を傾げてベッドを指した。


「仮眠なら、ここで寝ればいい」


 クルトさんは、ひょああって顔になった。


「ででで殿下がお休みになるベッドで、ですか!?

 そんな、畏れ多い……」


「私は気にしない。

 さすがに一緒に寝るのは、ちょっとアレだが……

 私としては、君がしっかり寝て、回復してくれた方が助かる。

 服務規定上、問題があるか?」


 クルトさんとジラールさんは顔を見合わせた。


「ありません」


「じゃ、そういうことにしよう。

 色々と変則的ですまないが、よろしく頼む」


 アルベルト様はポンとクルトさんの肩を叩いて、先に居間へ出ていった。




 アルベルト様が母さんに事情を説明し、父さんも仕事なら仕方ないと口添えしてくれて、夕食問題はなんとかなった。

 羊のシチューなら小鍋に取り分けておいて、ストーブの傍の温かいところにおいておけば、後からでもすぐ食べられる。


 食前のお祈りをして、久しぶりに食べた母さんのシチューは、ほんと美味しかった。


 羊の塩漬け肉と茹でた白いんげん豆を、たっぷりの干しトマトや人参とか玉ねぎと一緒にことこと煮込んだもの。

 お肉はほろほろ、豆と野菜の旨味が渾然一体となった、うちで一番のご馳走だ。

 あとは、もっちりした田舎風のパンとチーズ。


 食後は、白ワインで戻した干しブドウをたっぷり入れたプティング。

 これも私の大好物だ。


 アルベルト様もジラールさんも美味しい美味しいって食べてくれて、母さんにも笑顔が出て、ちょっとほっとした。


 トマは、ジラールさんに興味津々。

 どんな修行をするのかとか、どんくらい強いのかとかめっちゃ聞いてくる。

 ジラールさん、一番上のお子さんがちょうどトマくらいだそう。

 優しくわかりやすく答えてくれて、助かった。

 というか、もう半年近くアルベルト様についていただいてるのに、ご家族のこととか何も知らなかったので、色々わかってよかった。


 夕ご飯が済んだらお片付け。

 母さんも父さんも、今日はいいって言ってくれたけど、無理くり手伝った。

 昼も、母さんを一人にしちゃったの、気になってたし。

 といっても、母さんは私とまだあんまり話す気になれないようで、母さんが洗った食器を受け取って拭いて、棚にしまうだけだったけど。

 代わる代わるお風呂に入ってたら、仮眠していたクルトさんが起きてきたのでお給仕をして、片付けたところで、アルベルト様達におやすみなさいして屋根裏に上がる。

 下の寝室で、父さんと母さんがぼそぼそ喋ってるような気配がする……と思いながら、かくっと眠ってしまった。


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☆★異世界恋愛ミステリ「公爵令嬢カタリナ」シリーズ★☆

※この作品の数百年後の世界を舞台にしています
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