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本当なら村は全滅

「そです」


 頷いて、まんなかのくぼみに立ってみる。

 当たり前だけど、なにも起こらない。

 岩盤からは特に魔力も感じない。

 魔石もなんにも嵌まってないんだから当たり前だ。


 でも、くぼみの配置は、四人の魔導師の魔力を吸って、中央に立つ魔導師がコントロールできるようにする魔導研究所の塔の地下と同じ。

 村祭りの時、たまたまここに立ってた私に、めっちゃ魔力が流れ込んできて?、その勢いで光魔法を発動させて魔獣を倒したはずなんだから、魔力を集める仕組み的ななにかがこの岩盤にあってもおかしくないんだけど──


 あの時、なにが起きたのか、私はさっぱり思い出せない。


「えーっと、魔羆が襲ってきた時、父さんや伯父さんはどこにいたんだっけ?」


「俺はあのへんで踊りよった」


 父さんは、丘と川の間の斜面を指す。


「俺は飲みよったけん、あのへんかなぁ」


 伯父さんは、街道との間の野原の方を指した。

 ベンチやテーブルをいっぱい並べて、飲み食いするあたりだ。


「魔獣はどっちから来たんですか?」


 アルベルト様が訊ねた。


「街道の方からやね。

 そんで、誰かが気づいてギャーって悲鳴を上げて。

 見たら魔羆が3頭もおるし、もう総崩れよ。

 万一、村に魔獣が入り込んできた時用の落とし罠はいくつかあるけど、こんなに一気に出てきたらどもこもならん。

 手近な得物えものいうたら、テントの杭を打つ長槌くらいしかないんやもん。

 せめて隣村に警告する花火だけでも上げにゃいけん思うて、若い者にやぐらに行け言うても、皆、腰が抜けとるか、無駄に走り回っとるかで聞きゃあせん」


 伯父さんが、場所を指さしながら説明する。


「本当なら、村は全滅しとったんですよ。

 それを、まさかミナが魔法で倒すとは。

 結局、慌てて転んで怪我した者が何人か出たくらいで済んだのは、まっこと奇跡やったよね」


 あの時の恐怖を思い出したのか、父さんは深々とため息をついた。


 逃げ惑う人たちの間を、魔獣がまっすぐ駆けてくる。

 その行く手に、びっくりしたトマが転がりだして、母さんが駆け寄って──

 私が覚えているのは、そこまでだ。


「あれ? 魔獣って、普通はとにかく手近にいる人から襲うんだよね?

 でも、あの時はそうじゃなかった気がする……」


 父さんと伯父さんは顔を見合わせた。


「そいや、逃げる者を無視して、まっしぐらに祭りの舞台の方へ行きよったなぁ。

 なんでか知らんけど」


「その時、ミナは、どんな感じだったんですか?」


 アルベルト様が訊ねた。


「ねえちゃん、手からびゃーってすごい光を出してた!」


 トマが、キリッとした顔を作って、左手を突き出し、右手で支えるポーズを取って言う。

 めっちゃかわゆい!


「あ、トマ、覚えてるんだ」


「うん!」


 僕お利口! 褒めて! と言わんばかりに胸を張るトマの頭を撫でくる。


「髪とか服とか、ふわふわってして、ねえちゃんじゃないみたいな怖い顔してた」


「怖い顔?」


「うん。眼がきあああっ!てなってて、怖かった」


 トマは私の腰のあたりに抱きついてきた。

 そうだったそうだった、と父さんと伯父さんも頷く。


「人が違ってしもうたような顔しとった。

 そんで、向かってくる魔獣をみんな吹き飛ばしてもうたら、ぶっ倒れて、家に運ぶ間もわけのわからん寝言かなんかようわからんことをずーっとベラベラ喋りよって」


「え。なにそれ?」


 初耳だ。


「どんな寝言ですか?

 もしかして、こんな感じです?」


 アルベルト様が、エスペランザ語で適当に自己紹介的なことを喋ってみせた。

 父さんと伯父さんは顔を見合わせる。


「いや、もっと全然聞いたことがないような感じやったよね」


 エスペランザ語は、帝国語のご先祖様みたいな言葉だから、文法とか単語は結構違うけど、音韻はわりと共通している。

 じゃあ、とアルベルト様は、北方語でも喋ってみたけど、父さんと伯父さんは、どうだろうと首をひねる。


 なんなんだろ。

 全然覚えてない。

 まさかと思うけど、謎の古代文明・アルケディアの言葉、とか??


「ま。そんなこんなで、私らにはわからんことがミナに起きとるんかもしれんとなって。

 神殿で、魔力がある者は使い方を覚えんと長生きできんとも聞いたんで、領主様にお願いするしかないいう話になったんですよ。

 そうでもなけりゃ、手放しはせんかったんですが」


 父さんは呟くように言った。


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☆★異世界恋愛ミステリ「公爵令嬢カタリナ」シリーズ★☆

※この作品の数百年後の世界を舞台にしています
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