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私らはなんてお呼びしたらええんです?

 トマへのお土産は、絵本とお絵描きセット。

 父さんへのお土産は、皇家御用達の店のひげ剃りセット。

 母さんへのお土産は、冬用の厚地の絹のスカーフと夏用の薄い木綿のスカーフ。


 それから、干し鱈とかオリーブ油とかココアとか小麦粉とか砂糖とか、村では獲れないから行商人から買わないといけない食材をたくさん。

 保存食でしのぐ冬場に、十日も、大人4人分口が増えるので、多めに多めに買い込んだのだ。

 親戚にも色々買ってきたから、あとで配りにいかないと!


 それぞれ喜んで「ありがとう」と言ってくれたし、勲章凄いって言ってもらえたけど、母さんの表情はやっぱり曇っている。

 そのうち、すっと台所へ立ってしまった。

 慌てて追いかけようとしたら、父さんに「今日は一日、お客でいないさい」と止められた。


 疲れたろうから昼寝でもするか、それとも散歩にでも出るかと聞かれて、アルベルト様が前のめりに、お祭りをするところが見てみたいと言い出す。

 父さんがささっとカップを台所に下げ、母さんに「ちょっと出てくる」と声をかけてから、父さん、アルベルト様、私、トマの四人+クルトさんとジラールさんで外に出た。

 山の端にある、おばあちゃんのお墓にお参りしてから、川まで降りて、土手の上をお祭り会場の方へ向かう。


「母さん、どうしちゃったんだろ」


 こそっと父さんに聞く。


「んー……色々、心配なんだろ。

 そのうち二人で、ゆっくり話をすればいい」


 そっか、と頷くと、父さんはアルベルト様の方を向いて、村のどういうところに興味があるのかとかあれやこれやと話しかけ始めた。

 私が入るより、二人で話してもらった方がいいのかも、とトマの手を引いて、ちょっと足を緩める。

 アルベルト様は、村の伝承とかも知りたいっておっしゃって、父さんが、じゃあ明後日の炭焼きにそのへんに詳しい爺さんが来るから一緒に行こうとか誘う。

 アルベルト様は行きたい!って即答し、クルトさん達もついていくことになった。

 なんでかトマも行きたがりはじめたけど、炭焼きは仕込み作業が結構大変。

 勝手にとことこしたら危ないし、おうちでねえちゃんと遊ぼうってことにする。


 雪が積もった山から吹き下ろしてくる風は冷たいけど、雲ひとつないいい天気。

 足元もそこまで悪くなく、ぽくぽくと歩いて15分くらいで川に出た。


「お。ミナじゃないか!」


 不意に後ろから、声をかけられた。

 母さんの姉さんの旦那さん、ルッツ伯父さんだ。

 短く刈り込んだ胡麻塩頭にハンチング帽をのっけたルッツ伯父さんは、大工兼猟師。

 もう50代なかばで、孫もたくさんいるけど、全然現役だ。


「あ。ご無沙汰してます〜」


 父さんも気づいて、やあやあと挨拶する。


「ミナもえらい娘らしゅうなって。

 あれ? 婿さん連れてくるとか聞いたけど」


 どれが婿さん?と伯父さんの視線がアルベルト様、クルトさん、ジラールさんの間を彷徨った。


「俺です! アルベルトと言います!

 よろしくお願いします」


 びゃっとアルベルト様が手を上げて、軽く頭を下げる。


「こりゃまたご丁寧に。

 ミナの伯父の、ルッツ言います」


 ルッツ伯父さんは、帽子をとって頭を下げる。


「ええと……なんやらどえらいエラい人や言うて聞いてますけど、私らはなんてお呼びしたらええんです?」


 なにかにつけて豪快な伯父さんは、真正面から聞いてきた。


「えっと、アルベルト様のお祖父様も人前では『殿下』をつけて呼ばれてるから、『アルヴィン殿下』、なのかな??」


 それもしっくり来ないけどと思いつつ、とりあえず言ってみる。


「いや。村では、ミナもレディ・ウィルヘルミナじゃなくて『ミナ』なんだし」

 普通に呼び捨てで、呼んでいただければ」


 アルベルト様はきぱっと言う。


「「いやいやいやいやいや……」」


 父さんと伯父さんも同時に手を横に振った。


「村長がねぇ、皇家のお方がこの村に来られるのは初めてのこと、不敬があってはならんとか噴き上がっとるし。

 呼び捨ては、絶対ワシらが怒られる。

 村総出でお出迎えや!言い出したのを、初日は家族だけにしてやりんさい言うて、どうにか止めたくらいじゃもん。

 あ、そやった。明日の夜は村長のところで、ミナの勲章おめでとう!アルヴィン殿下?いらっしゃい!大宴会するけんね。

 ワシが獲った鹿も雉も出るけん、楽しみにしてや〜」


「わーい!」


 ごちそうと聞いて、トマがバンザイする。

 私も思わず拍手した。




 伯父さんは家に帰るとこだったとかで、一緒にお祭り会場に行くことになった。

 クルトさんジラールさんにも入って貰って、村では、アルベルト様をどう呼んだらいいのかトークが続く。

 アルヴィン殿下とアルベルト様の間で混乱したトマが、「アルさま??」とか言い出して、暫定で「アル様」ってことになった。


 村の北西から南に向かって流れるヴェント川は、村の中心部のちょい東あたりで急にぎゅいんって曲がって瘤みたいになっている。

 その瘤の部分がまるっと小高くなった、なだらかーな丘になっていて、そこがお祭り会場だ。

 丘って言っても、建物で言ったら、半階分上がるくらいかどうかってくらいの高さだ。

 丘のふもとから上に向かってぐるぐる踊るんだけど、街道と丘の間はだだっぴろい野原になっていて、そこに色々持ち出して食べたり飲んだりする。


 野原は日当たりがいいせいか、雪も全然残っていない。

 トマが枯れ草の上をとてとてと登ってゆき、追いかけるかたちでゆっくりと上がっていく。


「やっぱり、そういうことか」


 てっぺんの、円形の舞台のような岩盤に上がったアルベルト様は幾度も頷いた。


 ほぼ真円の平らな岩の真ん中に、直径1mくらいのくぼみ。

 くぼみを囲むように、東西南北にやや小さいくぼみが4つ並ぶ。


 大きさは違うけれど、魔導研究所の塔の地下とおんなじだ。

 魔導研究所の地下の床は岩盤じゃなくて丸石を敷き詰めたものだったし、あっちだとめっちゃ大きな魔石がはめ込まれていたくぼみは、こっちでは空っぽだけど。


「ミナが光魔法を初めて使った時にいたのは……ここ?」


 アルベルト様が、まんなかのくぼみを指した。



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☆★異世界恋愛ミステリ「公爵令嬢カタリナ」シリーズ★☆

※この作品の数百年後の世界を舞台にしています
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