畑でも、羊飼いでも
「畑でも、羊飼いでも、なんでもします」
へらっとアルベルト様は答える。
「いやいやいや、あなたのようにほそっこい人に畑は無理でしょう!?」
「必要なら、鍛えます。
それに、私は魔法がそこそこ使えますから、なにかしら役に立てることはあるはずです。
ここで生きていける道を必ず見つけます」
アルベルト様はゴリゴリとゴリ押しする。
父さんはちらっと、護衛の二人を見た。
二人とも、アルベルト様の考えはよく知っているから、あーハイハイって顔をしている。
「ええと……ようわかりませんが……
ままま、お気持ちはわかりました」
父さんは「マジか」って顔のまま、母さんの方を見やった。
伏し目がちだった母さんは思い切ったように顔を上げて、バキッと強い目で私を見る。
「ミナ。この方と結婚したら、また魔獣と戦ったりするの?」
聞いたこともないような硬い声だ。
「え?」
「私は、あんなことはもう二度としてほしくない。
ミナには無理よ。
魔獣と戦うのが前提の結婚なら、私は反対です!」
「「ええええええ……」」
正面から反対だと言われて、アルベルト様と私はのけぞった。
心配させたくなくて、手紙には、ぼかしにぼかして超丸めて書いて、大丈夫だからー!って書いたけど。
1ヶ月以上遅れるけど、村にだって新聞は来る。
あれだけ大々的に報道されたんだし、色々バレてたっぽい。
母さんも父さんもトマも、んじーと私とアルベルト様を見ている。
「えっと……結婚したら、奥さんとしてアルベルト様をお支えするのが仕事?になるから、私が直接魔獣と戦うことって、そうそうないと思う。
アルベルト様は、過去の魔獣襲来がどんな風に起きたかを研究する予定だから、あちこちに調査にいったり、遺跡を調べたりってことになるだろうし。
アルベルト様と私で考えた、魔獣と戦う時に便利な魔法を人に教えたりはするけど」
だよね?とアルベルト様に振ったら、こくこくっと頷いてくれた。
母さんの表情が、ほっとしたようにちょっと緩む。
「母さんが心配してくれてるように、私、戦うことには根本的に向いてないんだと思う。
大事な人が頑張ってたら、助けなきゃってなるけど、自分から戦いたいかっていったら、無理だなって思う。
でも……」
「でも?」
「アルベルト様と結婚するしないの話と関係なく、そうしなきゃいけない時が来たら、私は戦う」
眼の前で、血に塗れて斃れていく騎士達の姿が脳裏に浮かんだ。
半年以上経っているのに、心がぐちゃぐちゃになってしまいそうで、すぐに蓋をする。
「ミナ!? 」
「だって仕方ないじゃない。
魔法が使えるっていうことは、いざって時にみんなを守らなきゃいけないってことだもん。
領主様と奥様に、一番最初に教えていただいたことだもん」
ほんとは、怖い。
あんなこと二度としたくない。
でも、またあの時のようなことが起きたら、今度こそ誰も死なせたくない。
死なせるわけにはいかない。
無理に笑ってみせると、それがどういう風に見えたのか母さんは黙り込んだ。
父さんが、母さんの肩に触れる。
湿っぽくて重苦しい、沈黙が降りた。
父さんはとにかく、母さんはめちゃくちゃモヤモヤしてるみたいだ。
「えええと……そうだ。トマ君。
俺は、君の姉上と結婚したいと思ってるんだけど、どうかな!?」
無理くりテンションを上げて、アルベルト様がトマに振った。
「結婚? ねえちゃんと!?」
トマはびっくりした顔で、私達を見比べた。
「ねえちゃん、お嫁さんになるの??」
「そ、そうだよ」
トマは、母さんの顔を見上げた。
私の顔を見て、アルベルト様の顔を見て、ぷくーってほっぺをふくらませると、ぷいいっと横を向く。
「ぜったいダメーッ!」
「ふぁああああ!?」
トマ渾身の却下に、アルベルト様がのけぞった。
「ま、まあ。ほら、初対面だから。
慣れれば、そのうち、まぁ??」
「あああああ!そうだ!
トマに、かっこいい騎士様の絵本、買ってきたんだよ!
お土産あけてみよう、お土産お土産!
それに、めっちゃかわいい勲章もらったし!」
父さんが慌ててとりなし、私も必死にお土産やら勲章の話を持ち出した。




