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アーモンドの花が咲き乱れる廃墟で

 ──その後の彼らのことは、ヘルメネイア帝国の『皇族譜』や『貴族年鑑』、当時の貴族達の日記などからうかがい知ることが出来る。




 アルヴィン皇子は、叙勲式の翌年、予定通りウィルヘルミナと結婚した。

 子には恵まれなかったが、2人はアルヴィン皇子が52歳で亡くなるまで仲睦まじい夫婦として知られた。

 生涯、アルヴィン皇子はウィルヘルミナ妃以外の女性の手を舞踏会で取ることはなかったと言われている。


 彼らは、この舞踏会から数年後に行われたパレーティオ辺境伯領の炎竜討伐に参加し、「竜殺し」の称号を得た。

 その後は、魔導研究所の再建を見届け、帝国特別使節として東の大国・セリカンを訪問。

 周辺国も含めて7年間滞在し、東大陸の魔導文化を学んでさまざまな文物や技術をヘルメネイア帝国に持ちかえった。

 セリカンの寺院を訪問した際、伝説的な高僧・道海がウィルヘルミナ妃を見て大変驚き、「光龍の愛し子」と呼んで跪拝したという逸話も残っている。


 ウィルヘルミナ妃は、現在では光中級魔法として知られる「ライト?」の普及に努めるだけでなく、長い旅の間に立ち寄った各国の遺跡で、いくつか新たな発見のきっかけを作った。

 彼女がセリカンでも作ったヴェント村の菓子は東大陸にも根付き、「桃妃酥」(桃色の妃のクッキー)という名で今も親しまれている。


 アルヴィン皇子の最大の功績は、魔導考古学を発展させたことである。


 ウィルヘルミナ妃の生地であるヴェント村の調査から、同村の中心となっている盆地が、地層と地形の関係で瘴気が溜まりにくい構造になっていること、代々村祭りが行われてきた岩盤が、人々の魔導エネルギーを集約し瘴気を打ち払う一種の巨大な魔道具として機能していることを発見した。

 岩盤は、天然の地形に手を加えたと考えられ、古代文明アルケディアによるものと推定されている。

 類似した機構は、エレン・ヴィロンが治癒魔法に覚醒した古都エルデの神殿などでも発見された。


 セリカンで学んだ「龍脈」の考え方と合わせて、アルヴィン皇子は魔獣襲来が発生しやすい地点、逆に魔獣が湧きにくく、避けがちな地点を特定する手法を編み出した。

 この手法はただちに公開され、年々瘴気が増大し、魔獣襲来が次第に頻発するようになっていく中、人々の適切な退避・移住を促し、犠牲者を抑制することにつながった。


 アルヴィン皇子が「湖の離宮」で亡くなり、皇家が帝都の維持を諦めて古都エルデに遷都した後も、ウィルヘルミナ妃は「湖の離宮」にとどまり、治療上の理由で離宮を離れられない少数の皇族の世話をし続けた。


 妃が63歳の時、5級魔獣襲来が、離宮から数十キロ北にあるヴィオス山の中腹で発生し、魔獣はそのまま雪崩を打って離宮へと押し寄せた。

 魔獣の群れが離宮に到達しようとした時、離宮の中心にある塔に光の柱が立ち、そこから強烈な光の輪が幾重にも放たれて、無数の魔獣は瞬時にほぼ消滅した。


 だが、混乱のさなか、妃は行方不明となった。

 誰も見たことのない、虹色に照り輝く異様な魔石を胸元に抱えて、妃が塔へ急ぐ姿を見たという話や、光の輪が広がるさなか、どこからともなく「アルベルト様、いま行くね!」と叫ぶ歓喜に満ちた少女の声が聞こえたという話もあるが、定かではない。

 現在でも、「湖の離宮」は、魔獣がまったく湧かず、入り込みもしない一種の聖域となっている。




 魔導騎士団に入団したギネヴィア皇女も、パレーティオ辺境伯領の炎竜討伐に参加した。

 その後、異母妹であるベネディクタ皇女、年若い叔母であるユスティア皇女も魔導騎士団に参加し、3人の皇女は皇家の魔力の象徴となった。

 幾度も3皇女は魔獣襲来を跳ね返したが、魔獣襲来が帝国各地で頻繁に発生するようになると、3人では追いつかなくなり、皇位継承権を持たない皇子達も参加するようになった。


 「戦う皇族」の先頭に立って強大な魔法を打ちつづけたためか、次第にギネヴィア皇女は心臓を蝕む魔力障害に苦しむようになり、前線を退いて療養に努めたものの38歳で亡くなった。

 ギネヴィア皇女の幼馴染であるゲルトルート・アントノフ侯爵夫人、エミーリア・コンテ子爵夫人は終生の友として尽くし、一人娘に先立たれたディアドラ第三皇太妃を支えた。


 ギネヴィア皇女が亡くなるまで侍女として仕えたヨハンナ・ゲンスフライシュは、エドアルド・パレーティオ辺境伯に乞われて、同家の政務秘書官となった。

 炎竜討伐後のパレーティオ辺境伯領は、帝国の他の地域よりもむしろ魔獣が出現していなかったことから、多数の避難民が流入していた。

 エドアルドとウィラはヨハンナの助けを得て、魔獣の早期警戒体制を整備し、平民にも広くウィルヘルミナ妃の「ライト?」を学ばせた一方、避難民の受け入れ先となる新たな土地の選定と開拓、既存住民との調整に力を尽くした。


 魔獣の侵攻によって人が住める土地の半分近くを失い、窮乏した帝国がついに瓦解した際、エドアルド達の子孫は王国として独立する道を選んだ。

 その際、パレーティオ家は、牙と爪を組み合わせた家紋を、互いの尾を噛み合う白と黒の龍で牙と爪を囲んだデザインに変更している。

 同国では、身分を問わず光属性魔法に天分の才を持つ者が多く産まれ、パレーティオ家は今も繁栄している。

 



 ローデオン公国に留学したファビアン皇子は、72歳で客死するまで、帝国に一度も戻らなかった。

 父そして兄皇帝によって帝国特使という地位を与えられた皇子は、諸国と共同で魔獣に対応するべく、協力関係の構築を担った。

 カール・プレシーはファビアン皇子の侍従となり、国から国へとさすらい続ける生涯を共にした。


 晩年、ファビアン皇子はうら若き歌姫クラーラを鍾愛し、後ろ盾となって各国の神殿で聖歌を奉納させた。

 たまたまクラーラの歌を聴いた帝国貴族の一人は、歌も姿もかつてのヒルデガルト・ロックナー伯爵令嬢そのものだと衝撃を受け、皇子を問いただした。

 皇子は、クラーラは故郷を魔獣に蹂躙され「湖の離宮」に流れ着いた孤児で、記憶を失っていたが、今は亡きウィルヘルミナ妃が歌の才を見出し、自分に預けたのだと説明したという。

 その後、病を得た皇子は、クラーラを委ねるのにふさわしい青年を探し、彼女と結婚させた。

 結婚後もクラーラは各地で歌い、人々の心を慰め続けた。



 

 こうして時は流れ、人々は去り、世界は移り変わっていく。


 かつてアルヴィン皇子とウィルヘルミナ妃が住んだ、ヴェント村の小さな館も廃墟と化して久しい。


 だが、2人が結婚の記念として庭の隅に植えたアーモンドの樹は、こぼれた種から芽吹くことを繰り返すうちに庭を埋め尽くし、大きな林となった。

 今も、春になればピンク色の可憐な花が薄雲のように咲いている姿を、遠くからも眺めることができる。

 花が過ぎ、実をつける頃になれば、村の子どもたちがやってきて樹をゆすり、落ちた実を拾い集めていく。

 そして、村人たちはいにしえと同じやり方であの菓子を作り、祭りを行うのだ。




── 完 ──


ようやく完結いたしました!

長い間お付き合いいただき、本当にありがとうございました!

これで完結としましたが、叙勲式の後から、ミナとアルベルトの結婚までを描く最終章「村の結婚式」の投稿を開始しましたので、よろしかったら引き続きお楽しみください。

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☆★異世界恋愛ミステリ「公爵令嬢カタリナ」シリーズ★☆

※この作品の数百年後の世界を舞台にしています
― 新着の感想 ―
ラストまで読んでからエピローグを読み返しに来ました。ミナが可愛くて、みんなも可愛くて本当に読んでいて楽しかったです。 そして、お祭りクッキーが気になりすぎて、からす麦クッキー(ミックす)買っちゃいま…
[良い点] しばらく溜めておいて一気読みでラストまできましたー! 間が空いてヒロイン以外の名前が吹っ飛んでたので最初からラストまで一気読みです。幸せな時間でした! すごく練られていて、安心してワクワ…
[一言] 完結しましたね。二人に子ができなかったのとギネヴィアが早死にしたのが残念なところですね。ヨハンナを迎えたエドアルドたちの子孫が後に瓦解した帝国から独立したのはエドアルドたちの努力が実を結んだ…
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