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きぱっとアルベルト様が答えて、気が遠くなった

「色々厳しくなる、ということですよね。

 そんなの、今の暮らしに慣れた人がすぐに従ってくれるんでしょうか?」


「従うはずはあるまい。

 揉めて揉めて酷いことになるに決まっている」


 愉快そうに閣下は笑った。

 えって、声が出た。


「そんな風に揉めだしたら、アルヴィン殿下やギネヴィア殿下は大変なお立場になってしまうんじゃ……」


 おろっと言うと、閣下は頷く。


「学究肌のアルヴィン殿下はとにかく、ギネヴィア殿下は、ことと次第によっては改革派の旗頭となられるかもしれないね。

 ま、私の眼が紫であるうちは、よほどのことがない限りブレンターノはギネヴィア殿下支持だ。

 あの『尊さ』は圧倒的だったからね」


 え、政治的な判断より「尊い」!?ってびっくりしたところで曲が終わった。


 周りからぱちぱちぱちと拍手が出て、慌てて会釈をした。

 気になるお話をしながらだったのに、自分史上最高に綺麗に踊れた気がする!!


 次の曲が始まる中、閣下が肘を差し出してくれて、アルベルト様のところに戻る。



 ちょうど、年配の男性と若い女性がアルベルト様に話しかけているところだった。

 アルベルト様が表情を消して、皇族モードになっている。

 パレーティオ辺境伯、エドアルド様もなんだか戸惑っているようだ。


 なんぞ?と思ったら、公爵閣下が少し焦った様子で足を早めた。


「……セルト大公」


 公爵閣下が男性に呼びかけた。

 あれ? 今お話に出たセルト大公!?

 なんで急に!?


 ブレンターノ公爵は、戸惑っている様子だ。

 今日、大公がいらっしゃるのをご存知なかった風だ。


「ギュスターヴ、久しいな」


 セルト大公は、長身痩躯。

 胸下まで伸ばした、白髪がかなり混じってきている赤毛をうなじでくくっている。

 鷲鼻に、ぎょろっとした感じの緑色の眼が目立つ、濃い系の顔立ちだ。

 公爵閣下とはほぼ同年のはずだけれど、五十歳手前という雰囲気だ。


 セルト大公は、同伴している若い女性をブレンターノ公爵に紹介した。

 大公閣下の姪の、ミカエラ様。

 大公閣下にはお子様がいらっしゃらないから、ミカエラ様のお兄様が跡取りと決まっていて、ミカエラ様も娘同然なんだそうだ。


 赤みがかった金髪をキラッキラの縦ロールにし、大公閣下とは逆に、小作りな顔立ちが可愛らしい方。

 ほんのりとピンクがかった象牙色の絹に花模様の刺繍を散らした、めちゃくちゃに手が込んでいるドレスがよく似合っていらっしゃる。

 年は18歳。

 帝都にはほとんどいらしたことがなく、デビュタント・ボールも出席されなかったので、皇宮の舞踏会は今日が初めてなんだそうだ。

 少し緊張した雰囲気で、アルベルト様の様子を気にしていらっしゃる。


 なんか、どきっとした。

 これ、さっきの伯爵夫人の甥御さんと同じパターンなんじゃ!?


「ミナ」


 アルベルト様に呼ばれて、そばに行くと腰に手を回して引き寄せられた。

 そのまま、私を大公閣下とミカエラ様に紹介してくださる。


 ベルフォード男爵家と聞いて、大公閣下の顔色が変わった。

 めちゃくちゃ気に入らなさそうに、私達をご覧になっている。

 ミカエラ様は戸惑ったご様子で伯父様を見上げた。


 妙な間が空いた。

 パレーティオ辺境伯は難しい顔をしているし、エドアルド様もなんだかおろおろしている。


 異様な雰囲気に気づいたのか、周りの人たちがこちらをチラチラ見始めてる。

 ブレンターノ公爵がなにか言い出そうとしたところを、セルト大公は遮った。


「ところで殿下、よろしければミカエラと踊っていただけませんでしょうか」


 あ。

 これ、本当ならアルベルト様の方から、誘わないといけなかったやつだ!

 普通、ダンスは男性から誘う。

 公爵閣下と私がいなかった間、セルト大公はミカエラ様と踊れ踊れって雰囲気を出してたんだろう。

 でもアルベルト様はまるっとスルー、そして戻ってきた私とくっついたりしてるので、ついに口に出したんだ。


「それはできません」


 アルベルト様は、食い気味に、きっぱりと断ってしまった。


「「「「え」」」」」


 セルト大公が軽くのけぞった。

 周りからも思わず声が漏れる。


 正面から断られて、ミカエラ様は真っ青だ。

 思わずふらつきかけて、慌てて大公閣下が腰を支えた。

 大公閣下のお顔は怒りで赤くなっていく。

 周りもざわざわってなりはじめた。


 あああああああああ!!

 これ、セルト大公家に喧嘩を売ったことになっちゃうんじゃ!?

 ていうか、真っ向からダンスを断るだなんて、ミカエラ様を侮辱してるって言われても否定できない!


 やばい。

 大公家は、万一皇家が絶えた時に、後継者候補を出すことになっている家柄。

 これ、いくら皇弟殿下でもやばいやつだ!!

 ざっと血の気が引いた。


 言葉が出ない。

 アルベルト様の服を引っ張りながら見上げて、こんなことしちゃだめだって、首を横に振ってみせる。

 アルベルト様は「あ?」って顔になると、ミカエラ様のご様子と、周りの動揺に気がつかれた。

 さすがに「やばっ」てお顔になる。


「レディ・ミカエラ、大変失礼なことをしました」


 アルベルト様はそこで切って、少し言葉を選んだ。


「ええと……

 俺は宮廷作法はなにもわかっていないので、包まずご説明するしかないんですが。

 一番大事なことは、踊れないのは完全に俺の事情であって、レディ・ミカエラにはなんの非もないということです。

 レディ・ミカエラ、あなたは大変お美しい。

 それに、しとやかだし、礼儀正しいし、若々しくて……とにかく素晴らしい方だ。

 とても、そう、令嬢らしくて」


 まわりの人達にもはっきり聞こえるように、少し声を張って、アルベルト様はおっしゃった。

 褒め方が変な気もするけど、たぶん言いたいことは伝わったはず。


「ではなぜ、お断りになる?」


 セルト大公は押し殺した声で訊ねる。


「ウィルヘルミナを不安にさせたくないからです」


 きぱっとアルベルト様が答えて、気が遠くなった。

 私のためってどういうこと!?


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☆★異世界恋愛ミステリ「公爵令嬢カタリナ」シリーズ★☆

※この作品の数百年後の世界を舞台にしています
― 新着の感想 ―
[気になる点] 皇家の血が入ってる家にまで存在消しまくっていた事の害悪なんだから、王家が先に根回ししないとアカンかったのでは…? [一言] ほらあああ!!さわっちゃアカンタイプの皇族だっていったじゃあ…
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