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この『雲の間』も水車小屋だと思えば良い

「ああ、アルヴィン殿下。

 ちょうどよいところに」


 ゲルトルート様達と別れて、うろうろしているうちに「雲の間」に入り、ブレンターノ公爵に声をかけられた。

 無事、下界に着地されていたらしい。


 公爵閣下の方に行くと、そばにいたパレーティオ辺境伯を紹介してくださった。

 エドアルド様も一緒だったので、お互いお祝いを言う。

 ウィラ様は?とうかがったら、ファンの子へご褒美の第一部が終わり、公爵夫人に連れられて、帝都の親戚縁者の奥様方への挨拶まわりだそうだ。

 エドアルド様がいると、ウィラ様が他の方とお話する邪魔になるからと置いていかれたらしい。

 やっぱりエドアルド様、公爵家でも「ウィラ様が好きすぎる人」扱いだった……


 間近で見たパレーティオ辺境伯は、めちゃくちゃ大きかった。

 縦も横も厚みも凄いし、手をとっていただいた時の手のひらも生まれて初めて見るくらい大きくて分厚かった。

 前にエドアルド様が、お兄様とまとめて2人で高い高いしてもらったと言っていたけれど、ちっちゃい子なら3人まとめてだっていけそう。

 ウィラ様に大変お世話になりましたと申し上げると、「こちらこそ娘が世話になった」と重々しくおっしゃってあわあわになる。


「殿下とレディ・ウィルヘルミナはもう踊られましたね。

 レディ・ウィルヘルミナ、一曲よいかな?

 後でパレーティオともぜひ」


 ブレンターノ公爵は、アルベルト様と私に確認すると、私の手をとった。

 不承不承、アルベルト様が頷く。

 そのままするするっと、「雲の間」のど真ん中に連れてゆかれた。


 あっという間に、ワルツの形に組んでいて。

 気がついたらもう踊っていた。


 超絶キラキラブレンターノ公爵が相手だし、めちゃくちゃ目立っている。

 口元で扇を隠した貴婦人達が、こっちをめっちゃ見ている。

 切れ切れに、「桃花章」という言葉や私の名前が聴こえる気がする。

 アルヴィン殿下が、と誰かが口にした気もした。


「周りは気にしなくていい。

 堂々と踊って、幸せそうに微笑んでいればなにも問題はない」


 なめらかにターンをしながら、閣下がおっしゃる。

 ふわっと、私のドレスが広がった。


「幸せそうに見えなかったら、どうなるんですか?」


「なにか問題があるんじゃないかと勘ぐられて、あることないこと言われる。

 君が生まれ育った村でも、学院でも、他人のトラブルをほじくり返すのが好きな者はいただろう?」


「あー……村にはいました。

 水車小屋でそういう話ばっかりしている人」


 学院でもそれっぽい人はいるけれど、関わったことはあまりない。

 私がぽろっと言ったことが、ギネヴィア様やお姉様方、ヨハンナのアラ探しに使われたら嫌だし。


 ははっと閣下は笑った。


「この『雲の間』も水車小屋だと思えば良い。

 水車小屋に、泣きはらして憔悴した娘がやってきたら、どうなる?」


「恋人と喧嘩したのかなとか、家族になにかあったのかなって話になります」


「だろう?

 そういうことだ」


 閣下は唇の端を上げて、私を大きくくるーっと回してきた。

 周りから嘆声が漏れる。


 次第に、踊っていた人達が外側へ避けていって、気がついたら開けたところを2人で踊っている感じになっている。

 やばい! 周り中から見られている。

 

 おろっとした瞬間、人垣の中にエミーリア様とオーギュスト様のお姿が見えた。

 頑張れ頑張れって見守ってくださってる。


 くるっとターンしたところで視界に入ったアルベルト様も、辺境伯閣下とエドアルド様と一緒にこっちを心配そうに見ている。

 

 頑張らないと!


 まずは閣下と、しっかり眼をあわせて微笑んで……って、私をじっと見てくる閣下の超キラキラやばい!!

 無理無理無理無理!!ってなったけれど、眼を合わせ続けるのがしんどかったら口元を見ると良いと、ゲルトルート様に教わったことを思い出して、どうにかしのいだ。


「あの……閣下。

 どうして、アルヴィン殿下と私を助けてくださるのですか?

 色々教えてくださったり、踊ってくださったり」


 バルフォア家が助けてくれるのはわかる。

 アルベルト様は、先代バルフォア公爵閣下には可愛い孫であり、一族の方々にとっても「バルフォア出身の皇妃が産んだ皇族」だからだ。

 アルベルト様を盛り立てることは、一族の利益につながる。

 それだけに、名ばかり令嬢じゃなくて、ちゃんとした妃殿下になりそうな令嬢を迎えるべきだと内心考えている人もいるかもしれないけれど。


 でも、ブレンターノ公爵家はそうではない。

 もともと閣下がアルベルト様の論文をお読みになっていらしたとか、エドアルド様を通じて縁が出来たとかはあるけれど、こんなに助けてくださるメリットがあるわけじゃない。

 アルベルト様・ギネヴィア様とエドアルド様は、公爵夫人を通じて遠い親戚でもあるとは聞いているけれど。


 ふむ?と閣下が片眉を上げた。


「理由はいくつかある。

 単純に、君が興味深い存在であるというのが1つ。

 それから、アルヴィン殿下には出来ることなら幸せになっていただきたいからだ」


「え!?」


 ちょっとびっくりした。

 閣下が、アルベルト様に個人的な関心をお持ちだとは思ってなかった。


「アルヴィン殿下の母君、亡くなられたガラテア妃殿下とは幼馴染でね。

 婚約者だったセルト大公とも、学院で親しくさせていただいていた。

 帝都になかなかいらっしゃらないので、長らくお会いしてはいないが」


「そうだったんですね」


 閣下のお姿が若々しすぎて全然実感ないけれど、ちょうどアルベルト様の親世代なのだった。


「学院時代、家が決めた婚約者としては珍しいほど、お二人は仲睦まじくされていた。

 まさか、あんなことになるとは、誰も思っていなかった」


 声が憂いを帯びたところで言葉を切ると、閣下は大きくターンした。

 閣下としても、ガラテア様とセルト大公が引き裂かれたことについては、色々思いがあったようだ。

 もしかしたら、悲劇の末、若死にされた幼馴染の忘れ形見ということで、伯父のような気持ちでアルベルト様を見守ってくださっているのかもしれない。


 私がだんだん慣れてきたのに合わせて、ステップは深く、動きは大きくなっていく。


「もう1つ。

 殿下のご研究が、帝国の未来を左右する可能性があるからだ。

 もし殿下がおっしゃるように、魔獣襲来が頻発するような時代がいずれ来るのならば、それに合わせて帝国のあり方を変えていかなければならん」


 帝国史の授業で、帝国の体制はゆるやかに変わってきていると習ったのを思い出した。

 魔獣がそんなに出なくなったから魔導騎士団は縮小され、領主が帝国に収める税金もその分下がった。

 余裕ができた領主はいろんな産業にお金を投資し、経済が活発になって、帝国はどんどん繁栄していったんだけど……


 魔獣襲来がどんどん起きるなら、魔導騎士団を拡大しないといけない。

 そのためのお金をどこから出す?って話になる。

 魔獣の被害を受けたところは、人々の生活を立て直すためにむしろ税を減免しないといけないし、受けていないところから多くとるにしても、被害を受けていないところからすれば、なんでうちがお金を出さなきゃいけないんだってなりかねない。


 それに、今は魔導騎士団は領主の要請で出動し、ほぼ領主の指示で動いているけれど、昔は魔導騎士団が主で、領主はわりと強制的に「協力」していたはずだ。

 領主の指示を待つのではなく、魔導騎士団主導で戦えるようにしないと、追いつかないこともでてくるだろう。

 魔獣は領の境界なんて、気にしてくれないし。

 でもそれは、領主の権限の一部を魔導騎士団に移すということでもある。


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☆★異世界恋愛ミステリ「公爵令嬢カタリナ」シリーズ★☆

※この作品の数百年後の世界を舞台にしています
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