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11.この人達、悪役令嬢ごっこがしたいだけなのでは

作戦会議といえば、鷺巣詩郎「Decisive Battle」ですよね!

https://www.youtube.com/watch?v=GA8Ct8yRM1Q

 翌日の夕食は、ヨハンナと一緒に、マナー講座を兼ねてエミーリア様に貴族寮の個室にお招きいただいた。


 フォークやナイフの順番や、基本的な姿勢くらいは領主様の奥様に習ったけど、それだけでは対応できないことも多いし、場数が足りてない。

 エミーリア様は、綺麗に食べるにはコツが必要なメニューを選んで、時々夕食にお招きくださる。

 シチュエーション別の礼法を解説したり練習した後、食べ方の実地訓練をしてくださるのだ。


 今日は牛肉の赤ワイン煮がメイン。

 肉そのものはまだよいけれど、一緒に煮込まれることが多い大きなマッシュルームがツルッとフォークから逃げてしまうことがあり、エミーリア様も礼儀作法に厳しい伯母様が隣の席まで飛ばしてしまったのを見たことがあるそうだ。


 どんな人でもやらかす時はやらかす。

 大事なのはその後の対応だというお話を伺いつつ、フォークとナイフの使い方や力加減を詳しく解説していただきながら練習した。

 勉強になります!!


 食事が終わり、紅茶タイムになる。


「では作戦行動の検討に移らせていただくのです。

 今週の土曜、10時(ひとまるまるまる)に、オーギュスト様、ミナ、私の3人が学院の正面玄関に集合となりました。

 馬車で町に着くのが11時(ひとひとまるまる)前、軽くお買い物をして昼食を摂り、午後は夕方までお買い物と散策、その後夕食前に学院に帰投という流れを想定しています。

 途中、カフェなどでの休憩も挟むでしょうから、このような行程がよろしいのではないかと……」


 バッと、ヨハンナが街の大きな地図を広げる。

 雑貨屋、レストラン、カフェ、レースやリボンを売っている服地屋、午後から屋台が出る広場、秋薔薇が咲いている公園などのポイントが★マークで示され、実線や点線で、プランAプランBと複数のルートが描かれている。


 さすがだわ!とエミーリア様が拍手された。


「ウィラのこともあるし、こちらはさっさと仕掛けていきたいのよね……」


 ふむ…と、地図を覗き込みながら、エミーリア様は考え込まれる。


「あの方、女性にもてはやされるのはお好きだけれど、女性同士が諍いを起こしだすとスッと退かれるから、ミナ達を見てわたくしが逆上する姿でも見せれば良いと思うの。

 この広場で、わたくしがたまたま出くわして、馬鹿にされたと暴れるというのはどうかしら」


 エミーリア様は、朗らかに地図の中心にある広場を指された。

 え。一気にそこまでいっちゃうの!?


「作戦目標にふさわしい戦術と判断するのです」


 ヨハンナが重々しく頷く。


「あくまで面子を潰されて怒ってるのであって、オーギュスト様への恋情から発した嫉妬ではないとお伝えしたいのよね。

 どうすればいいかしら」


 さくさくと2人は打ち合わせを進めていく。

 言うべきセリフ、言ってはいけないセリフがどんどん書き出される。


「あの……ゲルトルート様がああいうオチだったのでお聞きしますが。

 実はエミーリア様は、オーギュスト様のことがお好きで、モテモテでいらっしゃるのが寂しくて厭だとか、そういうことはないですよね?」


 2人にドン引きしながら、念の為確認した。


「全然!

 素敵な方だし、お心遣いもありがたく思っているのだけれど……

 どうしても『小僧頑張ってるな!』としか思えないの。

 30年早いのよ30年!!」


 朗らかにエミーリア様は断言された。

 さすがにこれで「実は」展開はなさそうだ。


 オーギュスト様と私が2人でいるところに、エミーリア様が出くわし、逆上してあれやこれや暴れて、オーギュスト様にこれでは到底自分の妻にできないと思っていただく方向で調整が進む。

 というかヨハンナ、やっぱり途中でバックレるつもりだったのね。

 知ってたよ私……


 2人が盛り上がるうち、悪役令嬢らしく扇で叩かせてもらってもよいかしらと言われて、ひょあーっとなった。


 エミーリア様は、侍女を呼んで白いレースの扇を持ってこさせ、ヨハンナと実際に小芝居を始めた。

 扇の枠は大きな鳥の羽の芯で、どう叩こうが痛くはないらしい。


「この泥棒猫ッ!」


 エミーリア様が意気揚々と扇でヨハンナの頬を打ち、ヨハンナがよろよろと床に倒れた。


「お姉さま、申し訳ありません!」


 打たれた側の頬を抑えたヨハンナが、うるうる眼でエミーリア様を見上げる。

 ほんと、恋愛小説の挿絵みたいだ。


「んむむ…

 今回は、ミナがオーギュスト様の好感度を上げる必要はなく、エミーリア様が婚約者として望ましくないと思っていただくのが目標ですから、ミナは平謝りというより、自分はおかしなことはしていないと主張する方がよいかもですね」


 頬を抑えて見上げたまま、ヨハンナが新たな案を出す。


「でもわたくしは、ミナのまっとうな言葉を聞き入れずにさらに逆上する。

 その方が、わたくしを妻にすると後々大変だという印象が強くなるわね!」


 2人は盛り上がり、どんどんセリフが積み上がっていく。

 というか、この人達、悪役令嬢ごっこがしたいだけなのでは……


「これ、ヨハンナがやった方がよくない?

 私、絶対こんな演技できないよ……」


 おずおずと言ってみたけど、二人共聞いてくれない。


 一発目で倒れてしまうと、二発目は蹴るしかなくなるし、それはいくらなんでも令嬢としてできないから、倒れるのはナシにしようとかもはや芝居の打ち合わせみたいだ。


 ぼへーと眺めていると、


(1)オーギュスト様といる私を見つけたエミーリア様が開幕ブチ切れて「泥棒猫」と私を扇で打つ

(2)私はやましいことはしていないと言い返す

(3)エミーリア様はさらにブチ切れて、オーギュスト様もなじる

(4)そのあたりでヨハンナが介入して、エミーリア様を引き離す

(5)エミーリア様は「覚えてらっしゃい」と捨て台詞を吐きながら退場


 という流れになった。


 ヨハンナが途中でバックレてオーギュスト様と私の2人にするより、ヨハンナを残して臨機応変に対応できるようにした方が良いということになったようだ。


 よかった。それだけは助かった。


「私、やましいことはしてませんッ!」と、10回くらい繰り返して言わされた。


「棒演技感が凄いのです」とヨハンナに愚痴をこぼされたが、今から演技の勉強というのは無理すぎるし、エミーリア様が勢いでカバーしてなんとかごまかそうということになった。


「あんまり引っ張ると、想定外の介入が生じる可能性が高くなりますので、なるべくささっと済ませた方がよいと思うのです」


「でも『こんな人と結婚は無理だ』と思っていただくインパクトは必要よね」


「そのあたりは、エミーリア様の演技力にかかっているのです」


「そうよね……

 悪役令嬢らしく、ミナをえげつなく罵ったらよいのでしょうけれど……」


 と言うものの、エミーリア様は気が進まないようだ。


「どういたしましょう。

 『田舎育ちの小娘のくせに』程度ならアリですか?」


 それ、普通に事実そのまんまなんだけれど。

 悪口になってるのかな??


「そうね……

 い、田舎育ちの小娘のくせにッ……!」


 途端にエミーリア様の演技がめちゃめちゃ棒になる。


「ああ、これじゃだめだわ……」


 しょんもりされるエミーリア様、かわゆい。


「あのー、思いっきりキッツイこと、おっしゃっていただいて全然よいんですけど……

 『ゴキブリ以下の小娘のくせに』とか上等!ですので!」


 たまには役に立たなければと、ゲルトルート様が胸を見てくる男子を表現された言葉を思い出して提案してみた。

 そんなことはできないと、ぶんぶんとエミーリア様は首を横に振る。

 心なしか青くなっていらっしゃるようだ。


「駄目よ!そんなの絶対駄目!

 そもそも田舎育ちだって、恥じるべきことでは全然ないし。

 ウィラだって、領地で育ったのだもの。

 ミナのところより田舎よ?」


「そこはご提案した私もそう思うのです。

 ミナの話を聞いていると、一度は行ってみたいという気持ちでいっぱいになるのです。

 このあいだのお菓子を食べるお祭りとか、きっと他にもおいしいものがたらふくいただけそうなのです」


 地元を褒めてもらって、私はえへえへになった。


 なかなか肝心の悪口が思いつかなかったので、各自金曜昼までに思いついたものを書き出して持ち寄ることにして、エミーリア様の悪役令嬢らしいお洋服とメイクを考えているうちに、だいぶ遅くなって散会となった。

評価&ブクマ、ありがとうございます!!!!

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☆★異世界恋愛ミステリ「公爵令嬢カタリナ」シリーズ★☆

※この作品の数百年後の世界を舞台にしています
― 新着の感想 ―
[良い点] エミーリア……意外と人が良くて悪口が言えない(≧▽≦) できる女風でありながらけっこうポンコツか(。´・ω・)? 果たしてどのような結末が待っているのか(。-`ω-)
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